鍼が抜けなくなったときの対処法

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 鍼治療をしていると、体動や手技によって鍼が絡んでしまい、抜けなくなってしまうことがあります。鍼が抜けなくなってしまうと非常に焦ってしまい、普段ならできることも出来なくなってしまうので、何もないときにしっかりと練習とイメージをしておくことが大切です。

1.抜鍼困難の基本

 鍼灸学校に入学して鍼の練習をしているとたまに抜けなくなることがありますが、その時は、教員もいるので、抜鍼してもらうことが出来ますが、治療で生じると焦ることがあります。

 

 私自身も臨床で抜けない状態になったときには焦りましたが、普段の練習で度々抜けないことがあったので、何度も行っていたので、対処できましたが、ものすごく難しい状況も出てきます。

 

 学校では鍼が抜けなくなった場合は、副刺激術や迎え鍼をすると抜けると習いますね。

副刺激術:鍼の周囲を鍼管や指で叩いたり、揺らしたりこする

迎え鍼:鍼の周囲に鍼を刺入して組織を緩ませる方法

 

 抜鍼困難が生じている鍼は少し動かすだけで痛みやひびきが出てしまうことがあるので、副刺激術で注意をするポイントは、あまり多く動かさないようにすることが大切になります。抜けないからと焦って刺激をしてしまえば、痛みやひびきが強くなり、さらに抜鍼困難が続いてしまうことがあります。

 

 普段から鍼の周囲を触ってどのぐらいの圧だと痛みが出やすいのかを、自分や仲間で練習をしておくと、圧加減で悩むことがなくなります。

 

 迎え鍼は、抜けない鍼の周囲に鍼をしていきますが、痛みやひびきが強いときには、その付近の神経が緊張をしているからか、余計に痛みやひびきが出てしまうことがあるので、切皮をする前に、鍼管を押し当てて、痛みや不快感がないかを確認してから切皮をするといいです。

 

 刺入をした方が組織はゆるむことが多いのですが、過敏になってしまっていれば、痛みやひびきを感じてしまうので、切皮をして緩むのを待つのもいいです。

 

2.応用

 抜鍼困難が生じている場合は、鍼が曲がってしまっていることがあるので、私自身は確認をしてから処置をするようにしています。

  • 鍼は曲がっていないか
  • 鍼は絡んでいないか

 

 体動によって抜鍼困難になったのであれば、まずは鍼が曲がっていることがあるので、鍼が動かせるかを確認します。痛みやひびきがある場合は、本当に1㎜ぐらい動かすかどうかの力で、抜けるかどうかの確認をします。

 

 引いても抜けない場合は、絡みはないかの確認をするために、鍼を右・左に少し回してみます。回りにくい方向に鍼が絡んでいることがあるので、回りやすい方向に少しずつ鍼を動かしていきます。

 

 鍼の曲がりがなく、絡みだけならこの方法でも取れるのですが、回りやすい方向にも回らない場合は、刺激術などを行ってもいいのですが、私はデコピンをしてしまいます。一瞬、痛みやひびきが出ることもあるのですが、この衝撃で鍼の絡みが取れて抜けます。鍼の刺入が浅い場合などは、デコピンをすると鍼が抜けて飛んでいくこともあるので、方向には注意をする必要があります。

 

 それでも抜けないときには、鍼が曲がっていることも多いので、切鍼にならないように慎重に引き上げることが必要です。私自身は、刺入もそこまで深くしないのでどうしようもない状況に遭遇した経験がないのですが、数時間かかったという話しはどこかで読んだ気がするので、焦らず根気よく行うことが大切です。

 

 自分自身に鍼をしていて、曲がったことはありますが、そこまでひどくはなかったので、スムーズに抜けましたが、授業中に同級生は自分の足に鍼をしたのが、稲妻のような形になったことがあり、抜鍼に5分ぐらいかかっていました。

 

3.抜鍼困難を起こさないためには

 抜鍼困難が生じるのは置鍼中が多いと思うので、置鍼を使うのであれば、鍼は深くしない方がいいです。目を離してしまう状況になるのであれば、深さには注意をする必要があります。

 

 私自身が注意をしているのは、例えば寸3の鍼であれば、鍼体は4㎝ですが、2㎝以上は刺入しないというように、用いる鍼の半分までの刺入にしています。たまに、鍼根部分まで鍼を刺入する人を見かけますが、抜けなくなったときに対処できなくなってしまうので、刺入深度は注意をした方がいいと思います。

 

 もちろん、患者さんにも鍼が入っているときに動かないように伝えることは重要になります。鍼を刺入して最初響いても、時間が経つと、どこに入っているのか分からなくなりますし、くしゃみや咳など生理的な体動もあるので、刺入深度に注意は必要です。

 

 動かないように伝えて、「動くと鍼が曲がって抜けなくなり、折れた鍼が体内に残るので動かないでください」と伝えると、かえって怖がり過ぎて、置鍼中に緊張で身体が硬くなってしまう人がいるので、置鍼中は浅くしておく方がいいとは思います。

 

 例えば、硬い硬結まで鍼を刺入して少しひびいたら、鍼を皮膚面近くまで引き上げ、筋肉に当らないようにしておくというのも一つの方法でリスクコントロールとしては大切になると思います。

 

 鍼を扱って雀啄などをする人もいますが、雑な扱いをしてしまうと鍼が曲がってしまいますし、ひびきによって体動し鍼が曲がることがあるので、雑な扱いにならないように手技は丁寧に行えるようにしておくことが大切ですね。

 

 筋層に刺入を行う場合は、大きな筋肉は非常に力が強いので、3番以上がいいと思います。私自身は、腰部などは5番以上が多いです。太い鍼だと切皮痛が出るという人は練習を重ねていけば細い鍼と同じぐらいの切皮痛になるので、扱い慣れることが大切だと思います。

 

 筋に鍼を刺入するときに頭に入れておいた方がいいのは、筋は層構造をしているので、刺入が深くなると、多くの筋の影響を受けてしまいます。

 

 例えば、腰部でもやや外方から内方に向けて刺入を行うと、広背筋→脊柱起立筋→腰方形筋になるので、体動によって広背筋・脊柱起立筋・腰方形筋は筋収縮の方向が違うので、カミナリ様に鍼が曲がることがあります。

 

 肩甲間部でも僧帽筋・菱形筋・脊柱起立筋があるので、刺入深度がどの筋まで入っているのかを意識することが大切だと思うので、深層の筋を狙う場合は、置鍼は使わないようにしています。

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