治療をしようと思ってカーテンを開けて患者さんと目があった瞬間に
「全部脱ぎますか?」
と50歳近くの男性に言われました。
いきなりのことだったので、見開いた目で、
「全部?」と言葉を発すると、
「鍼をするのに服が邪魔だから全部脱いだ方がいいですか?」
と言い直してくれたので、
「身体の状態を判断してからなので、触って確認もしたいですし、それでは上だけ全部脱いでいただけますか」
てきぱきと洋服を脱ぎ、ベッドに横になったので、タオルをかけて横に座りました。
「首、腰、お腹の調子が悪いということですが、鍼灸は受け慣れているようですが、よく通われていたのですか?」
と首などを触れながら尋ねると、
「いい先生が近所にいて通っていたのだけど、いなくなってしまったのですよ。」
「そうだったのですか、それは残念でしたね。お腹の調子が悪いということですが、軟便や痔はないですか?」と腹診をしながら問診を続けます。
「普段から下痢をしやすくて、痔は以前からあります。」
お腹がずいぶんと冷たい。ベルトが邪魔で腹診がもたつきました。
脱肛に関する痔は百会なので百会の反応も見ようと思っていたら、
「全部脱ぎますか?」
また?ずいぶん脱ぎたがりだけどその方がリラックス出来るのか?
もう少し丁寧に触れたいから脱いでもらおうかな。
一瞬、過去に全裸でベッドに寝ていたおじ様がフラッシュバックしました。
目が反応をしていたようで、
「脱ぎますか?」
「いや、必要であればお願いするので、まだ大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます。」
と笑顔で答えたら
患者さんの指が立っていて、
「これこれ」
頭に向いていました。
「そっちか!!」心の叫びです。油断していました。
「脱ぎますか?」
カツラを置く台がないな。
どこに置いてもらおうか。
リアクションはどうする。
どうするって何だ?
「脱ぎますか?」
迫りくる質問。
何度目の同じ質問?
早く答えないと。
置く台がない。
台がない!!
高鳴る鼓動。
ふきでる汗。
「脱がなくて大丈夫です。」
せいいっぱいの回答でした。
ザ、敗北感。
「そうですか。必要なら言ってください。」
反省症例です。治療結果は出たのですが、心の落着きを失ってしまいました。
着替える前に他の人が対応していたので、ベッドに入るところも見ていませんでした。
暗い治療室だったので、観察が甘くなっていたと反省しています。
そんな昔話です。
「脱ぎますか?」怖い言葉です。
どこまで?
と今でも思います。