症例5_解説と治療

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 症例5の解説と治療です。脾気虚による下肢のだるさと考えることができます。痰湿の存在を考えてもいいのですが、脾気虚による治療だけで改善が見られたので、痰湿は検討課題にしました。

1.解説

 脾の五主・五体は肌肉と言われていて、肌肉は四肢とも言われています。手足のだるさや軟弱は脾の病証として考えるので、脾の問題から発生していると考えられます。

 

 脾は労逸や飲食不節によって障害をされやすいのですが、仕事の状況を確認していくと、若い頃から営業をしていて、飲酒が多かったことが分かりました。日々の仕事では勤務時間が長い勞倦もあるのですが、移動は車が多く、日々の運動量は非常にすくなかったので、安逸も見られていました。

 

 飲酒の習慣も、休肝日が1日で他は仕事の付き合いでかなり飲むのが続いているので、脾の働きが低下させられていたとわかります。ストレスや足のつりがあれば肝を疑うのですが、疲労をしても足がつることはないので、肝ではないと確定しました。

 

 立つということや労働時間が長いと腎の働きを損傷しやすいのですが、排尿、腎精、呼吸に異常が見られないことから腎ではないとも考えました。食事について油物という話があったので、さらに尋ねてみたら、家族で焼肉に行ってもカルビを1枚ならいいけど、3枚食べると下痢になるということで脾の働きの低下が強いというのが分かりました。

 

 若い頃は、焼肉に行ってカルビも沢山食べていたとのことですが、油ものが多いものや揚げ物が、最近は食べられなくなったとのことでした。年とともに、油ものが食べられないというのは出ますが、ちょっとでもお腹を壊してしまうのは異常だと判断した根拠です。

 

2.治療

 下肢のだるさということで脾胃の経穴を使えば自然と局所治療も多くなるので、他の部位の確認ということで背部を見たところ、脾兪・胃兪付近に膨隆と硬さが見られました。飲酒が多いことから、右の肝兪付近を見てみると左より膨隆が大きかったので、疲労の原因の一つとして考えました。

 

 脾の働きが弱いと湿によって身体が壊されやすく、湿によって脾の働きが低下すると、脾の運化が働けなくなり、内湿の発生につながってしまうので、身体の中にある痰湿の除去ということでは、陰陵泉・豊隆が適切だと考えられます。

 

 陰陵泉は、直刺で刺入をしていくと、足三里の方にひびきが抜けることがあり、下腿のだるさが一気に取れることが多いです。刺入深度は2cmぐらいで到達することが多いのですが、この方は身体が大きかったので3cmぐらい刺入しました。3cm刺入するので用いた鍼は寸6か2寸にしています。

 

 豊隆は卒業後すぐだと、胆経上に取ってしまうことが多いのですが、脛骨と腓骨を結んだ線の半分で取穴をすると適切な部位になりやすいです。豊隆は1~1.5cm程度の直刺で、刺入をすると下腿前面にひびきがでやすく、少し置鍼した後は、すっきりしやすいです。

 

 背部の脾兪、胃兪は内方に向けて刺入し、脊中には透熱灸か棒灸を行います。背部兪穴で刺入深度が怖い場合は、夾脊穴を使うと刺入のリスクが減るので、夾脊で代用することも多いです。

 

 飲み過ぎで右肝兪付近にも膨隆がみられているので、肩甲骨下からの胸椎には夾脊を使うもいいので、場合によって使います。夾脊の刺入は1~1.5cmで十分だと思います。

 

 腹部に治療を加えるのも効果的なのですが、場合によっては一気に排便として出てしまうことがあるので、最初は切皮置鍼で、だんだんと刺入していくことが多いですね。

 

 治療効果は陰陵泉だけでもかなりの効果がみられたのですが、生活の状況もあるので、一進一退を繰り返しながら、週1回の2カ月程度でかなりの改善が見られました。手技でも陰陵泉や脾経をしっかりと捉えると改善したと思います。

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