症例6の解説と治療ですが、肝血虚による顔面神経麻痺と考えることができます。筋は血が滋養し、肝と関係が深いので肝血を疑うことが大切になります。顔面神経麻痺は冷えによっても生じるので風寒による顔面神経麻痺も多いと言われます。
1.解説
顔面神経麻痺は見た目がよくないので、患者さんも気にされていることが多く、帽子やマスクをされて来院されることが多いです。発症すると見た目に驚くので、ほとんどの場合、病院を受診しています。
病院で末梢性・中枢性などの鑑別が終わっていることが多いですが、中枢性だと難しいこともあるので、「ひたいのしわ寄せが出来るのは中枢性顔面神経麻痺」と覚えておくことが大切になります。
帯状庖疹ウイルスから発生するハント症候群は、耳の症状が発生するので注意をしておく方がいいと思います。私も顔面神経麻痺の患者さんが来て、再度、勉強をし直しました。
問診でのポイントになってくるのは、「ひきつるような」ということで、これは寒邪の収引性か、肝血不足によって生じる症状なので注意が必要になります。最初の話しの中で、冷えに関しては問題がなさそうだったので、肝血の問題が中心として考えます。
血は精神との関係が深いものであり、精神的な活動が多い場合は、肝血の不足が生じやすくなります。ストレスに関しては、本人はそれほど自覚をしているものでも抑うつ感が生じている訳でもなければ、肝気については考慮しなくていいと思います。
食欲不振は、肝の働きが障害してしまうと、脾胃にも影響を及ぼすことがあります。ここでは肝気ではなく肝血になので、食欲、排便の症状が少ないと考えられます。
2.治療
顔面神経と言うと、翳風が顔面神経管と関係するので治療部位として考えられることが多いですが、翳風単体に刺すだけではなく、翳風の後ろに胸鎖乳突筋があり、胸鎖乳突筋が他の人よりも硬いことがあるので、胸鎖乳突筋の硬結と刺鍼を加えるのもいいと思います。
胸鎖乳突筋は前後から刺すのも効果的ですが、胸骨上面、鎖骨にも関係をするので、胸骨上面を施術対象にしても効果的なことがあります。
血は精血同源から腎精を中心に治療をすることも出来ますが、血の生成ということで脾胃を治療で加えることが大切になります。脾胃を治療することによって血の生成だけではなく、後天の精を生成することが出来るので、腎精を治療に加えるよりは、脾胃を加えた方がいいと思います。
足陽明胃経は経絡として顔面部につながっているので、足陽明経を使い、さらに顔面に関係する合谷がある手陽明大腸経も治療として使えます。
顔面神経麻痺は鍼通電療法を行うことがあるので、麻痺している筋に対して通電を行うことも出来ます。他には、棒灸や透熱灸で温めることによって、顔面部の違和感が軽減しやすいので、私は温熱療法を加えることが多いです。
顔面部の麻痺筋に対して水平刺を行うのも効果的なのですが、内出血した場合は、麻痺だけではなく内出血で見た目が気になってしまうので、出血しやすそうな人には行わないことが多いです。
温めることによって陽気を補うことが出来るので、陽気は動きと関係し、気血の動きを活発化させるので、顔面の筋の血不足に対して温熱療法が効果的とも言えます。