治療院に来る患者さんは非常に多いですが、頚肩局所の治療をしても気持ちよいけど改善しないことが多いので、他の場所から治療を組み立てていくことが大切になります。
頚肩が何故起こるのかを考えたときに、人の生活姿勢から考えることが大切になります。例えば、スマホやパソコンを扱っているときに、身体の姿勢を見てみると、頭部が前に出るので、頚椎下部を前屈させながら上部はまっすぐにしようとしているので、「L字」型になってしまっています。
「L字」になってしまっているので、頚部を前に強く牽引しながら上部は後ろに牽引をしているのがわかります。そこで頚部の病態として考えてみると、頚部を前方に引く、胸鎖乳突筋と前側にある斜角筋が緊張をしていきます。
斜角筋は前・中斜角筋の間に腕神経叢が走行をしているので、斜角筋の緊張が強くなってしまうと、腕神経叢を圧迫してしまうので、痛みとしびれが生じます。腕に問題が生じていて、頚肩こりを訴えるのであれば、前側にある筋は対象にした方がいいと思います。
胸椎から頚部に付着する筋は板状筋がありますが、頚椎が前に行ってしまっているので、板状筋は牽引をされ続けている状態になります。牽引されるのは他にも僧帽筋、肩甲拳筋があるので、これらの筋肉は牽引痛が生じていると考えられます。
牽引痛が生じているのであれば、その部位も治療対象となるのですが、姿勢を正さない限り、牽引が終わらないので、牽引をしている原因筋に対して治療を行う方が効果的です。
先ほどのスマホやパソコンの姿勢の続きですが、頚部以外のところを見た時に、肩甲骨は外転をし、肩関節はやや水平内転をしている状態で固定をされるので、前側の緊張が高い傾向にあります。
鎖骨も下制されてしまっているので、椅子に座っている姿勢にもよりますが、膻中や中脘に向かって折りたたまれるような姿勢が継続することになります。トレーニングでもですが、身体の前側は見えるので意識もしやすいので、筋肉が発達しやすいという特性もあるので、日常の姿勢によって身体が固定されてしまい、背部・頚部の筋群は牽引され続けます。
神経・血管は、筋層の下を走行しているものも多いので、筋肉が牽引してしまっていると圧迫されてしまいます。よく頚肩が凝って硬いともいわれますが、牽引されているので、筋層下部の筋の停止部が触りやすく、発達してしまっているのではないかとも考えられます。
頚肩の痛みがある局所は局所で鎮痛作用を考えて施術をするのはいいのですが、前側に牽引している状態から身体を開放しないことには、頚肩こりがよくなっていかないので、治療で中心として考えるのは、胸鎖乳突筋・斜角筋・大胸筋・小胸筋・烏口腕筋・上腕二頭筋になります。
経絡を対象にして治療を行うのであれば、肺・大腸経が前側と関わりやすいので治療効果が高くなります。督脈と関係する後渓も背部痛の軽減として効果があります。
大胸筋・小胸筋・烏口腕筋への施術となると、胸膈が近いことを意識して刺鍼を行わないといけないので、注意が必要になります。胸部の筋群に対しては、鎖骨下を治療対象とするのが簡単でいいのですが、直刺は危険になるので、鎖骨に沿って外方に水平刺を行っていくのが効果的になります。
胸鎖乳突筋に対して治療を行おうと考えると、前側から刺鍼をしようとすると、押手を構えるのが大変なので、後ろ側から胸鎖乳突筋に向けて刺入をするのがいいと思います。頚椎下部から狙ってしまうと肺尖部に到達するリスクがあるので、上部頚椎付近で行うと、局所の痛みの治療とも関係しやすくなるので、後ろの治療と前の治療を同時にできるのでお勧めです。
斜角筋は僧帽筋への方向ではなく、横突起に向けて刺入をすると斜角筋に到達するので、同じ場所で前と内方に向けて刺入を行うのもいいですし、椎体の位置を変えて前と内方に分けてもいいと思います。
頚部も内出血が起こることがあるので、刺鍼の丁寧さは忘れないようにしたほうがいいと思います。