鍼灸治療で正解や絶対というのがないので、人によって言うことが違うのが当然なのですが、「鍼は響きがなくなるまで置鍼するのがいい」という表現もあります。
結局はその人次第の考え方になるとは思うのですが、この表現について私なりの感想をまとめてみたいと思います。鍼を刺入すると響きが出ることがあり、響きを中心とした治療を行う人であれば、鍼を刺入したら響きが出ることが正しいと考えるので、置鍼中でも響きを感じ続けることがあります。
置鍼後しばらくすると、最初に感じた響きが抜けてきて、何も感じなくなることがあります。患者さんも最初は響きがあったので鍼が入っているのが分かったのですが、しばらくすると、分からなくなってしまい、体動してしまうのは、入っていないと感じてしまっているためになります。
どのような理論なのかは分かりませんが、刺激に身体が慣れてしまって感じていないことが考えられますが、東洋医学的には、刺入した部位に気血が巡ってくることによって、響きとして感じ、その後は、気血の流れがスムーズになり、停滞ものぞかれるので、響きがなくなったのではないかと考えることができます。
もちろん、他の言い方や考え方もあるでしょうが、あまり詳細に話をするのを私が聞いたことがないので、経験的なものなのかもしれないです。治療を長くしていて、悪いところに鍼をしたら強い響きがあり、響きが無くなる頃に抜鍼したら、症状の軽減もみられたから、響きがなくなるまで置鍼をした方がいいという考えなのかもしれないですね。
個人的な感覚としては、強い響きが無くなっても、ジワジワとした軽い響きが残ることが多く、その局所に響きが残っていなくても、他の部位に流れるような響きを感じ続けることがあるので、身体の感覚によっては響きが完全になくなるまで置鍼は出来ないのではないのかと思います。
響きを感じやすい人に取ってみれば、響きはなくなるものではなく、時間とともに全身に響きが出て、全体を覆うようになるので、響きがなくなるまで置鍼は治療の中の一つの目安にはなるでしょうが、人によっては目安にはならないのではないかと思います。
「局所の強い響きが無くなるまで置鍼」であれば、響きに敏感な人でもなくなることはあるでしょうが、完全に無くなるまではないと思うので、「無くなる」ではなく「軽減」ではないかとも思います。
「鍼は響きがなくなるまで置鍼する」という考えは、その人の治療感覚が中心になっているものなので、置鍼時間を決定するのは非常に難しいものではないかと思います。置鍼を長くすれば、確かに硬結や身体の変化が起こることも多いので、長い時間の置鍼を行えば、効果が高いとも言えますが、響きに弱い人に取ってみれば、刺激が多くなってしまうので、患者さんの状態を見ながら決定するのが結局は一番になるのではないかと思います。
どのぐらいが適切かが分からないので、脈や体表の所見を見ながら変化を確認して、どのぐらいにしたかったのかを最初に予測して、予想通りになったら抜鍼するのがいいのではないかと思います。