手技療法を行うときの一番の基本は何かと言われたら、軽擦になります。軽擦に始まり、軽擦に終わるということで、軽擦ができないと治療できないし、軽擦ができないと治療が終わらないことになります。
軽擦が重要な理由は軽擦では診断を行うもので、施術後に確認をしていくために必要なものになります。鍼灸で例えば、脈診で治療をしたのであれば治療後に脈診をすることで治療効果があったことが分かりますし、整体や手技療法だけではなく、治療行為を行った後に、身体が変化をしたのかを確認しますが、軽擦はこれらと同じものと言えます。
手技を習ってばかりの人であれば、軽擦は形だけ行うもので診断に結びつくことがないので、身体の状態は動作や話しを聞くことによって把握をしていきます。軽擦ができれば、どこがよくないというのを触って分かるようになるので、治療を行った後も、どう変化をしたのかを確認して、治療効果がどのぐらい出るかを想像することができます。
私も最初に軽擦を勉強した時は、「軽擦に始まり、軽擦に終わる」というのは知っていましたが、使いこなすことはできなかったです。何故、使いこなせなかったかというと、2つの理由があります。
1つ目の理由は、軽擦自体をできなかったからです。軽擦は身体をさするだけなので簡単だと思う人もいるかもしれませんが、身体には筋、皮膚、関節、骨などによって微妙な凹凸があり、その凹凸部から手が離れないようにさすっていくように触れるためには、手全体に少し圧をかけておくことが必要ですが、力も抜いて、手指や手関節などの関節も柔らかくしておくことが必要になります。私は下手だっただと思いますが、この軽擦が本当に見に付いたと実感したのは、数年してから気づきました。
2つ目の理由は、軽擦で軽く触れても診断することが出来なかったことです。軽く触れて身体の状態を分かるようになるためには、触ってから治療をしてみて、体表・体内がどのように変化をしていくのかを少しずつ確認をしていくという経験を積み重ねていくことが必要で、軽く触っても身体の深部の状態まで分かるような手になるのまで非常に時間がかかりました。
軽擦自体は数年で見に付くようになったのですが、軽擦で身体の状態を診察して確認することが出来るようになったのは、軽擦を身に付けてから、さらに数年経ってからだと思います。早い人は軽擦も診断も身に付けるのも早いでしょうが、私は下手だったからか、それなりに時間がかかっています。
軽擦が見に付いたといっても、まだまだ完全ではないので、何となく使えるようになった程度というところだと思うので、まだまだ気を付けて行わないといけないと日々、反省をしています。
軽擦が瀉法や補法と表現することもできると思いますが、この感覚が分かるようになったのは、軽擦をしていくだけでも身体が大きく変化をしていくというのが実感として分かってからです。
鍼灸でも補瀉がありますが、実際は身体が自分に適した状態として受け入れて、対応している部分もあると思うので、軽擦での手技で、補瀉を分けた場合、どのぐらい効果に差があるのかは分かりませんが、身体の状態が大きく変わるというのだけは分かります。
治療を行う前に、身体の状態を確認しておくために、軽擦を行うと、余分な緊張がとれて、治療がしやすいと言われたことがありますが、軽擦自体が上手くできれば、身体の変化を起こしてくるので当然と言えば当然なのかと思います。
軽擦が出来るようになると、揉んだりして違和感が残っても軽擦によって軽減をすることが多いですし、軽擦をすると、身体の流れが整った感覚があるので、軽擦は治療をまとめる働きがあるというのもわかりました。
あん摩や指圧では押すということで、1点に集中をしてしまいますが、身体の機能は全体として働いているので、全体に刺激を加えられる軽擦法は治療前後に必ず必要だと言えます。
この軽擦の仕方が出来るようになると、鍼灸を行う前にツボを探すのに、身体を軽擦することがありますが、この軽擦だけで鍼灸の治療効果を上げていくことが出来るので、私は今も軽擦を練習し続けています。継続こそが技術習得の一番の近道だと思うので、日々、患者さんの身体をさすり続けています。