鍼の刺入では押手が大切だとされていますが、押手は使い方によって非常に便利な道具に変わります。
通常、鍼を刺入するときの押手は皮膚に密着をさせ鍼の刺入を妨げないようにしながら、皮膚や筋が動くのを防ぎ、刺入するのを助ける働きがあります。刺入を助けるだけではなく、皮膚や筋肉が緩んできたときに、変化を感じ取るセンサーの役目もあるので、鍼でどこまで刺入をしていくのかを知るためにも大切なものになります。
鍼を刺入するときに当たり前のように置いているので、その役割と機能に気付かないと損をしてしまうことが多いです。押手は機械ではないので、自分次第によって鍼を支えて感じるという道具から、さらに違う役割を持つことができます。
殿部など筋層が深くて、硬結が中にあるところに刺入をする場合、普通に刺入で届かせようとすると、長い鍼が必要になり、長い鍼を使う訓練をしていないと刺入することができなくなります。普段、細くて短い鍼を使っていると、深いところに刺入をしようとしても使い慣れていない鍼だと切皮痛が強く出てしまったり、刺入痛も生じてしまったりしやすくなります。
殿部の深層を狙って刺入をするのであれば、2寸から3寸の鍼が必要になりますし、それぐらいの長さの鍼であれば5番でも軟らかすぎて扱いにくいし、筋層が強いところなので、それだと曲がってしまうことがあります。
太くて長い鍼は、なかなか扱う機会がないので、刺入するときに使おうとしても使えないという人も多いようですが、局所の治療を考えるときには扱えた方がいいものになります。
鍼が扱えないのであれば、刺入することが出来ないので局所の治療を行っていくことができなくなりますが、押手を上手く使うことによって鍼の長さや太さを気にしないで刺入出来るようになります。
例えば、殿部の硬結があったときに、押手でしっかりと押し込んでいくと、皮膚と筋層を潰すことが出来るのでそこから刺入をすると、刺入深度がいらなくなります。ただし、押手でしっかりと押し込んでいる状態を続けられないと鍼を刺入しようとしても、震えて鍼だけではなく、皮膚と筋肉を支えられなくなってしまうので、硬結まで鍼が届かなくなってしまいます。
コツとしてはしっかりと押さえつけられるようにすることが大切になるのですが、手技の基本であるように、肘を曲げたまま押してしまうと、筋肉で押し続けなければいけなくなるので、非常に辛いので、肘を伸展させておくと、関節をロックするだけで済むので、力が少なくて済みます。
殿部に置鍼をすると、患者さんが身体を動かしたときや咳、くしゃみをしたときに、鍼が曲がってしまうリスクがあります。そこで私は出来るだけ置鍼をしないようにするためにも鍼を長くせずに、押手で押し込んでから刺入をするやり方で行うことがあります。この刺入の場合は、単刺で行うので、置鍼をしないで治療が出来るので筋層などが厚いところに局所治療を行うときに、よく使っています。
刺入した後の操作は、この前のブログにあるような「鍼にくいつく」感じが出たら終わりにするので本当に数ミリの範囲でゆっくりと雀啄をすることが多いです。
押手に力が入っているので、慣れていないと刺手の方にも力が入ってしまい、鍼の刺入がしにくくなりますが、一度慣れてしまえば、スムーズに行えるようになります。