東洋医学の治療法則として扶正去邪と呼ばれるものがあります。正確には中医学の用語の一つなので、中医学の治療法則とも言えますが、東洋医学の考えがベースにあるので、東洋医学の治療法則とも言えると思います。
扶の漢字の意味は、「力をかす、助ける、世話をする」という意味になり、正は「正気」の意味になるので、正気を助けるというのが扶正になります。東洋医学では、鍼灸・漢方・あん摩をすることによって、経絡・気血の調節を行います。気血の流れがよくなり、経絡の流れがよくなれば、正気が循環し、身体の回復力があがるので、健康になっていくと考えられます。
去邪は邪気を取るということで、身体に不必要なものが邪気になるので、不必要なものを取り除くことになります。具体的には、外邪が阻滞している場合や身体に停滞した病理産物を取り除くことが去邪の働きになります。
扶正去邪は、身体を強めて外邪を取り除くと考えることが出来るので、風邪を引いたときには、扶正去邪を図るのが大切だと言えますし、イメージとして分かりやすいですね。
しかし、扶正去邪は健康な人でも大切なことになるので、全ての人の治療方針は扶正去邪と言うことができます。
東洋医学で体調が悪くなるというのは、気血の流れが悪くなってしまったことを現すことが多いです。気虚であれば、気自体が不足をしているし、推動の低下によって、血や津液の運行障害が発生してしまいます。
気滞であれば、気の推動が働けなくなるので、同じように血や津液の運行障害が発生します。臓腑の働きも気血の運行によって成り立っているので、気の運行に問題が生じてしまえば、臓腑の働きに障害が発生すると考えられます。
血の病変でも血虚であれば、血の運行が悪くなってしまいますし、血は気や臓腑、身体を栄養する働きがあるので、全身の栄養不足が生じてしまいます。血瘀は停滞して痛みなどを引き起こしやすいものになりますが、血の運行障害を発生させてしまうので、同じように問題が発生してしまいます。
津液の問題、精の問題でも気血の障害と同じように、身体の機能を低下させてしまうので、気血津液精に対して治療を行うというのは、扶正を行うと言えますね。
気血津液精の運行に障害が発生してしまうと、気の滞りがあれば、血・津液の運行障害が発生するので、血の停滞によって生じる瘀血、津液の停滞によって生じる痰湿が生成されてしまいます。
通常は、瘀血や痰湿が気血や臓腑の問題によって発生した場合は、内生と言われ、身体の機能に問題が発生してしまうと生じるもので、ひどく停滞したときに症状が強く出てきます。
健康な人でも気血の巡りが悪くなるのは当たり前のように生じるので、一時的に内生の痰湿や瘀血が発生をしては消えていくのが正常な身体になります。
川が流れているのが当たり前ですが、日照りが続けば水量が減り、雨が降れば水量が増えていくのも当たり前ですよね。流れの強弱があると、川にゴミが増えたり、消えたりしますよね。洪水が起きてしまって、川があふれてしまえば危険性が高くなるので、緊急的な処置が必要になりますが、治療は川があふれて緊急処置するのと同じです。
東洋医学の気血の考え方はこの川と同じなので、症状が強く出ているときは緊急処置が必要になりますが、普段の生活の中でゴミが貯まらないようにすることが大切なので、生活習慣の見直し、食事習慣の見直し、気血を調える運動や治療を行うというのが大切になります。
川でもゴミが沢山貯まっていても、水は流れていますが、あまりにも多くなれば水の流れを悪くしてしまいます。洪水が起きたときには、ゴミは川の外に流れていってしまい、危険物が含まれていれば、周囲を破壊してしまいます。
溢れそうな川に大きな鉄柱や大きな石があり、流れが強くなって少しずつ動いていたら恐怖を感じませんか？
東洋医学では養生や未病という表現をされますが、気血の流れを調節し、ゴミが貯まらないような身体を作るというのが大切になります。日々の治療の中で気血の流れの調節だけではなく、停滞したものを取り除くのが大切になるので、東洋医学の治療は全て扶正去邪を行っていると考えることが出来ます。
鍼灸治療を受けて、治療効果が大きく改善するというのはよくある話ですが、鍼灸治療を受けて大きな変化を感じなかったという話しもよくある話です。
川にゴミがなくなり奇麗になってくれば、動植物が豊富になり、周辺への栄養が行われるので、土地も肥沃になり、食べ物がおいしくなるのが当然ですが、このサイクルが出来るまでは非常に時間がかかります。
東洋医学の治療では、この環境を調えるという考えがあるので、農耕の医学とも言われます。この治療の考えを、コンパクトにまとめたのが扶正去邪であり、気血の流れの調節が扶正で、身体の少しでもたまっているゴミを取り除くのが去邪になるので、東洋医学の治療方針は全て扶正去邪と言えます。
農耕の医学に関しては以下に書いてありますので、参考にしてください。