刺す技術と刺さない技術―治療効果が違う

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 鍼灸治療では鍼を刺す治療と刺さない治療があり、刺さない治療で有名なのは、てい鍼(鍉鍼:ていしん)による治療ですが、技術に違いがあるのでしょうか。

 鍼を使うのであれば、身体に刺すのが当然なので、鍼灸の治療においては鍼を刺す技術は非常に大切になります。目的の深さに刺入しようとしても、刺入する技術がなければ、目的のところに鍼が入らないので、治療効果を出すのが難しくなります。

 

 鍼の刺入技術をあげていくために、昔の文献から言われているのは、浮き物通し、堅物通し、生物通しがあります。浮き物通しは、水の上に浮かべた野菜などに対して水をこぼさないように鍼を刺入していく練習法の一つで、強い力をかけないで鍼を刺入する技術を習得するのに適しているものです。

 

 堅物通しは、学校によってやっているところもあるようですが、板などに対して鍼を刺入していくものです。堅いものに鍼を刺入してくので、無理に力をかけてしまえば鍼がすぐに曲がってしまうものなので、根気のいる練習だと思います。

 

 生物通しは、動物に鍼を行う方法として言われていますが、動物に鍼をするのは、現代では獣医のみに許されている行為なので出来ませんが、例えば寝ている猫や犬に気付かないように鍼を刺していくという練習になります。

 

 浮き物通しで力加減の練習、堅物通しで、力と圧の練習、生物通しで、生身の身体に感じさせないように刺すという練習を行い、出来るようになったら人に鍼を行う段階だと言われています。

 

 基本的な練習としてこれらの物がありますが、人の身体で同じ物は一つもないので、人毎の特徴を捉えながら、鍼を刺入していけるように日々、技術を上達させるものです。

 

 練習によって鍼が自由自在に扱えるようになれば、自分がやりたいとイメージした治療を行えるようになるので、野球で言えば、素振りを沢山しているから、身体に動きが染みついていて、打つことを何度も練習をしていることによって、試合で使えるようになるので、鍼の練習も同じように、繰り返し、上達をしていくことが必要です。

 

 どんな鍼でも簡単に刺入出来るようになると、治療効果があがります。具体的に何が違うかというと、自分の目的にしたところにピタッと当たるということです。テニスボールをラケットで打って、相手のコートに入れるのには、少し練習すれば出来るようになるでしょうが、コートギリギリを狙って入れるとなると、本当に上手な人以外は出来ないのと同じです。

 

 刺入が上手になると、てい鍼を使った場合でも適切な圧のコントロールと方向を決めることが出来るので、治療効果を出すことが出来るのですが、圧と方向をコントロールできない状態で扱おうとすると、上手く効果がでないことがあります。

 

 刺す技術が上手くなれば、刺さない技術も向上するので、鍼が上手くなるためには、鍼を沢山刺入することだという結論になるのですが、刺さない技術は別に鍛えていくことが可能です。

 

 刺さないという技術を練習するのであれば、簡単な方法は、鍼管を持たずに、鍼を押手で構えて皮膚に密着をさせていますが、このまま2分程度置くだけでも身体に変化がでます。何故、刺手を置かないのかという話しになるかと思いますが、刺手も構えて鍼を持つと、両手で扱うことになるので、難易度があがります。

 

 例えば、ピアノを弾こうとしたときに、ピアノは両手で弾くものですが、ピアノ初心者にとっては両手で行うのは難易度が高いので、まずは片手で行うと鍵盤を扱うことが出来るので、片手から始まり、段々と両手にして方が技術は向上しやすいです。

 

 鍼もこれとピアノやパソコンと同じで、まずは単純な状態から始めて、段々と複雑化させていく方がいいので、押手で鍼をおいてみるという練習から始めると、刺さない技術が向上しやすいです。

 

 2分で変わらないという場合は、時間を味方につけて、5分でも鍼を置いておくと、身体は大きくゆるむことになります。例えば、三陰交に鍼を当てている状態を5分続ければ、腹部は絶対に緩むので、治療効果を確認することができます。

 

 片手での操作になれたら、今度は刺手を加えていくのですが、その時には、鍼を刺入しりょうとするイメージが非常に大切になるので、どのぐらいの深さで何を狙うのかというイメージを持つことが重要になります。

 

 刺す治療も刺さない治療も同じ治療効果を出すことは可能なのですが、刺す治療では、中で響くことや他に響くことが多いのですが、刺さない治療では、表層を流れるような感覚や皮膚の緩みが強くでやすいので、表面の治療を中心で考えるのであれば刺さない治療は効果的になります。

 

 もちろん、同じ鍼を使った治療法で、いろいろな治療で今までやられた方はいるので、どちらの治療でも同じような効果を出すことは可能だと思いますが、治療者や患者さんの好みによっても使い分けられると、治療の幅が広がっていきます。

 

 刺さない治療では待つというのが必要なので、置鍼をするよりも手間がかかりますが、押手も皮膚に置いている状態なので、変化が大きく出ることがあります。こればかりは試してみないと分からないと思うので、自分のお腹で練習してみると、緩むということが分かりますし、効果も感じられると思います。

 

 置いておくだけと言うのは手技でも効果的なので、硬結があるところや張りがあるところに掌や指を置いておくだけでだんだんと緩んでいきます。

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