乙字湯(おつじとう)

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 乙字湯は江戸時代に活躍した原南陽(はらなんよう)によって作られた漢方薬であり、痔に対する漢方薬として有名な物です。

 乙字湯は、便秘と痔がある方に用いる漢方薬になるのですが、江戸時代の人も痔で困っていた人が多いのだなというのが分かりますね。現在でも痔で悩む人が多いので、使用されることが多い漢方薬の一つだと思います。

 

 痔となると脾の働きの低下と関係することが多いです。脾の働きには消化・吸収・輸送と関係する運化、内臓の位置調節と関係する昇清、出血させないようにする統血という働きがあり、脾の昇清作用が低下をしてしまうと、内臓を正常な位置に保つことが出来なくなってしまうので、脱肛・子宮脱が発生してしまいます。この病態のことは気血津液弁証では気陥証と呼びます。

 

 気陥証は脾の働きが低下をしてしまったものなので、虚証に入ります。この乙字湯は八綱弁証で考えたときには、裏実熱になるので、気陥証の場合に対する漢方薬ではなく、湿熱の停滞によって発生した痔に対する処方と言えます。

 

 湿熱が肛門付近に停滞をしてしまったことで、局所の気血の循環が悪くなってしまったために、肛門付近の異常が発生をしてしまったという状態になります。湿の停滞は脾の機能の改善によってよくすることが出来るのですが、湿は脾の働きを低下させやすいものになるので、停滞している湿を取り除かないと、脾が働けなくなってしまうので、乙字湯によって湿熱を除去し、脾の働きを正常にすることで、治療効果を発揮すると考えられます。

 

 脾の昇清作用が低下をしてしまった場合の痔に関しては補中益気湯の方が適していると考えられるので、虚実の鑑別が大切になってくる漢方薬だと思います。

 

 湿が関係をするときには、基本的には軟便や下痢の傾向になるのですが、湿熱が肛門付近で停滞をしてしまっていることで、気血の循環が悪くなり便秘になっている状態になります。

 

 局所の循環が悪くなっていることが多いので、皮膚の問題が生じることがあるのですが、湿熱が関係をすると、さらに痒みが発生することが多いので、陰部に痒みを併発することが多いと言われていきます。

 

 乙字湯に含まれている生薬は升麻(しょうま)、柴胡(さいこ)、当帰(とうき)、黄芩(おうごん)、大黄(だいおう)になり、升麻と柴胡は筋の状態を整えて、痔が外に出ないようにする働きがあります。黄芩と大黄は炎症に対する働きがあるので、局所の炎症を低下させ、当帰は血に対する働きがあるので、血の循環を整える働きがあります。

 

 鍼灸でこういった状態を治療しようとすると、湿熱による場合も脾の働きの低下による場合も脾を使うというのが治療としては同じになるので、違いとしては補瀉と熱と言えると思います。

 

 補瀉を使って治療する場合は、補瀉の違いというのは重要になるのでしょうが、補瀉は意識していないという人に取っては、痔の治療とあれば、脾を使うというイメージで覚えておくといいのではないかと思います。

 

 痔核が外に出てしまうような場合は、百会が効果的なので、痔核脱出に対しては百会と考えている人も多いのではないかと思います。漢方薬では病態、症状の発生によって細かく使う物が分かれてくるので、何が違うのかを理解しておかないと混同してしまう場合があるので注意が必要になるのでしょうね。

 

 鍼灸でも細かく病態を分けて治療をすることは可能ですが、大まかに捉えた状態でも治療が出来るという特徴があるので、そういった面では細かい病態を鑑別できなくても、治療を出来るという利点もあるのかもしれないですね。

 

 漢方薬だと飲み忘れてしまったという人も出てきてしまうので、飲まないと効果を発揮できませんが、鍼灸の場合は、やれば効果を確認も出来るので、効果が低下をするというのは少ないと思います。もちろん、患者さんが忘れて来院しなかった、来られなくなってしまったという状態にならない限りですけどね。

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