豊隆

Pocket

 豊隆は足陽明経の絡穴でもあり、去痰にも使えるということで中医学の書籍で紹介されることが多いので、目にする機会が多いツボなのではないでしょうか。

 一般の書籍でも足の浮腫みに豊隆と紹介をされていることが多いので、健康雑誌などをよく読む方に取っては馴染みがあるツボではないかと思います。そんなに有名なツボなのですが、私は卒業してしばらく豊隆を触ることが出来なかったのです。

 

 初級者の取穴を見ていると、豊隆がずれることが多いのですが、大体、私がしていたような同じ過ちをしていることが多いみたいなので、まとめてみたいと思います。

 

 豊隆の言葉の意味としては、豊という意味は豊富、隆は盛んということで、肉が豊富という意味があるようです。豊隆は雷神の名前でもあります。豊隆という名前が付く神社は岩手県の一関にあるので、豊隆好きな方は参拝するのがいいのではないでしょうか。

 

 豊隆の名前は、肉が豊富という意味で付けられたというのは見た目上のことですが、雷神にも意味があると思うので、経穴の働きとしては雷神の豊隆で考える方がイメージしやすいと思います。

 

 人が生きていくためには、雨の恵みは大切になるのですが、雨が酷くなると洪水が起き、雷も発生すると火事が起きるので、ありがたく必要な物であると同時に恐怖の対象でもあるので、恐れ・敬うという畏敬の念を持っていたのだと思います。

 

 雨・雷は恵みと関係するので、生と関係をし、洪水になれば、死と関係をするので、神として、雨・雷を治める神として雷神という思想が出来たのだと思います。雷神に関しては、中国古代の楚という国にいた屈原の『楚辞』の中に「豊隆」という漢字で雷神の話しが出てきています。

 

 屈原は紀元前343~277年に生きていたと言われる人になるので、経穴の名前になるより前に、雷神という意味で豊隆が使われていたのではないかと言えますね。

 

 日本各地でも梅雨の前には祭りが開催されることが多いですが、災害にならないように祈りながら、作物を育てるのに十分な雨が降ってもらうように雨乞いをしていたのではないかと思います。

 

 このことから考えると豊隆は、食べるということに関係をするので、脾胃の働きと大きく関係をする絡穴の名前になったのは腑に落ちるところでした。

 

 中医学の中では痰湿という概念がよく出てきますが、これは水分の阻滞と関係をするだけではなく、食事の不摂生、消化機能の減退によっても発生をするもので、消化機能が整えば、痰湿がなくなると考えていくものです。

 

 東洋医学で消化機能と関係をするのは、脾胃になるので、脾胃と関係をする胃の絡穴である豊隆はお腹を整え、痰湿を取り除くことが出来る経穴になりますね。豊隆の意味を知っていくと、足三里よりも豊隆の方がいいのではないかという気になってしまいますね。

 

 おっと、意味だけでかなりの文章量になってしまいましたが、初心者が誤りやすい注意点を書かないといけなかったですね。

 

 どういう誤りが発生しやすいかというと、豊隆は条口の外方にあるという知識(豊隆は条口の外方1寸)があるので、豊隆を取穴しようとすると胆経上か、ほぼ胆経に取穴をしてしまうことが多いです。私の過去、友人、後輩にも多かったので、多くの初心者の取穴は同様の失敗をしてしまう可能性が高いです。

 

 条口は犢鼻と解渓を結ぶ線上にあるのですが、ざっくりとしたイメージは脛骨外縁に胃経が走行をしていて、胆経は腓骨の前縁に走行をしています。豊隆のイメージとして残りやすいのは脛骨と腓骨の間というぐらいになると思うのですが、脛骨と腓骨をしっかりと触れていないと豊隆が大きくずれてしまいます。体表で触れやすい骨の近くの経穴はずれることはあまりないのですが、骨が近くにない経穴は大きくずれてしまいやすいので注意が必要ですね。

 

 他の先生の取穴を見たことがあるのですが、脛骨ギリギリに胃経を取穴するような先生であれば、脛骨にかなり近いところに豊隆を取穴することが多いのではないかと思いますし、脛骨ギリギリで取穴をしないのであれば、豊隆は外側になることが多いのではないかと思います。

 

 私自身は脛骨の外縁ギリギリのところから指2横指程度のところで豊隆を決めて、その付近の反応を診てから使うことが多いです。指2横指だと、脛骨・腓骨の位置を確認していくと、それほど外方ではないのが分かると思います。

 

 基本的には指2横指で決定をしていくのですが、自分の身体や同身寸で判定をするのであれば、条口・豊隆・胆経を分けて見やすいので試してもらうといいと思います。

 

 左足であれば左手、右足であれば右手を使用していくのですが、脛骨内縁に示指の側面を当てます。そのまま、手を下腿におくと、小指の端より少し外方に腓骨の前縁がくることが多いです。

 

 その手を置いたまま、示指の内縁が胃経、中指の内縁が豊隆、小指の外縁が胆経と考えてみると、条口・豊隆・胆経のイメージが付きやすいのではないかと思います。このような触り方は、書籍にあるかどうかを確認できなかったので、あくまで私個人のイメージですが、無駄ではないですし、利用は出来ると思うので、下腿の経穴の取穴に慣れるまでは使用してみるといいですよ。

 

 豊隆は脾胃の働きを改善させることで痰湿の除去を行うことが出来るので、豊隆を治療で用いると、下腿がすっきりと感じることが多いので、浮腫みが強い人の治療では効果的だと思います。膝裏も気血の循環、血行の低下が生じやすいところなので、膝裏の治療として使える陰陵泉を組み合わせると痰湿・浮腫みは改善しやすいですね。

 

 中医学系の書籍では痰湿の除去で豊隆、陰陵泉、三陰交、足三里が出てきたりしますが、臨床の感覚としても浮腫みの改善はやはり効果的だよなと思います。

 

 患者さんにセルフマッサージをしてもらう場合は、脛骨の内縁・外縁が触りやすいので、その付近を揉んでもらうようにするのですが、台座灸を自宅でやってもらう場合には、豊隆も加えると効果的だと思います。

 

 鍼の刺入ではそのまま刺入をしていけば、脛骨と腓骨の間にあるので、長い鍼を使っていけば下腿の後面までいけてしまいます。

 

 それだけ深く刺入出来る場所だと、どのぐらい刺入をしたらいいのか迷ってしまうことがありますが、刺入深度としては1~2㎝程度で十分だと思います。それ以上の刺入も効果的なことはあるのですが、響きを何度も感じてしまい、すっきりするのではなく、重さが残ってしまうことがありますね。

 

 透熱灸を使うことも可能なのですが、下腿はすね毛があることも多いので、お灸系は少し使いにくい場所になるので、お灸を使う場合は、灸頭鍼を使用することが多いです。

 

 水は陰陽で言えば、陰と関係するものであり、静かで動きが鈍いものなので、陽である、熱つまり灸を加えると、水に陽を足すので、水の停滞は除去しやすいです。

 

 鍼の刺入では直刺が基本になるので、そのまま直刺をしていけばいいのですが、灸頭鍼を使う場合は、少し太めの鍼を用いないと、曲がってしまうことがあるので、私は3番を使用することが多いです。

 

 男性だと仰向けに寝ると股関節が外旋をしてしまう人が多いので、仰向けで豊隆に灸頭鍼をすると、艾球の下がベッドになることが多いので、リスクは軽減しますね。

Pocket