六腑の一つである大腸は伝化という働きがあり、身体からいらなくなった糟粕(そうはく:糞便)を体外へ排出する働きがあります。
腑の働きはそれぞれにありますが、臓の影響を受けて働くことが多いと言うことでは共通しています。腑は一時的に物が入り、出ていくという場所になります。形態としては、普段は中が空っぽなので中空器官と言われています。
大腸の働きは、糟粕の伝化に関与をするのですが、胃・小腸・大腸は繋がっているので、最も上にある胃の働きの支配を受けるようになっているので、胃の通降(降濁)の降ろす力が加わることによって、大腸の伝化という働きは十分に機能をすることになります。
排便と関わるのは大便口になりますが、大便口は後陰とも言われ、二陰の一つになるので、腎との関係が密接になります。腎は精という生命力・成長・生殖と関係をしている物なので、生まれた時・亡くなりそうな時は生命力が低い状態なので、排泄と関係をする後陰のコントロールが出来ないので、自分の意思で排泄管理が出来なくなります。
大腸の機能は降ろすという働きが基本になるので、大便口(魄門:はくもん)の管理を腎がしっかりと行っていないと、糟粕がそのまま体外へ排出をされてしまう状態になります。
大腸の降ろす働きは、胃だけではなく、表裏関係である肺の粛降の影響を受けているので、降ろす働きが強いですが、これは、身体の中で要らない糟粕(濁気)を体外へ排出していかないと身体の機能低下を起こしてしまうためですね。
肝の働きである疏泄は様々な身体の調節に関与をしていると考えることが出来るので、肝の働きに問題が生じてしまうと、大腸の働きにも影響が発生をしてしまいます。大腸に直接刺激をしてしまうと考えることもできるのですが、肝は脾胃の働きを阻害してしまうことの方が多いので、肝の問題から、脾胃に影響を及ぼし、脾胃の昇降異常によって排泄異常が発生をしてしまいます。
脾胃の働きでは、脾は昇らせる働きがあり、胃は降ろす働きがあります。正常な状態であれば、この上下への力が拮抗をしているので、下へ余計に降ろすことなく、身体に不必要な物だけが体外へ排出されることになります。
脾の昇らせる働きが低下をしてしまうと、胃の降ろす働きの方が強くなってしまうので、大便がしっかりとした形になる前に体外に排出されてしまうので、軟便や下痢が発生をしてしまいます。逆に脾の働きが強くなってしまうと、胃の降ろす機能が働きにくくなってしまうので、その場合には、便秘が発生をしてしまいます。
脾の働きは上に昇らせる働きがあるだけではなく、下へ降ろす働きもあるので、排泄には脾は大切になります。脾の昇らせる働きをイメージするには、風呂場という四方・上下が仕切られた空間の中で、水を上に投げて行けば、天井にぶつかり、下へ落ちる力になりますよね。この最初に昇らせる働きが脾の昇清という働きであると同時に上へ行けば落ちることになるので、上へ昇らせる力が強く、量も送れば、下へ降りるものが多くなります。もちろん、その時には、身体に必要な栄養素を捨ててしまうのではなく、不要物を身体の下部へ送る働きになります。
飲食とも関係をしやすいのは、痰湿であり、痰湿は重く停滞し、下に落ちる性質があるので、痰湿が身体に影響をしている場合にも軟便や未消化便が発生をしてしまうことになります。痰湿の阻滞が長期化すると熱化をしてしまうので、その場合は、大便に強い臭いが発生をして、排便痛も生じることがあるので、臭いという情報があれば湿熱だということが分かります。
東洋医学の問診では排泄の状態を確認するという話しがありますが、排便のことを考えていくだけでも、これだけいろいろな情報が必要になるので、大腸だけの問題なのか、肺、胃、脾、肝、腎、痰湿はどうなっているのかを考えていくことによって、東洋医学的な身体の状態を判断するための根拠にもなります。
排便に関する臓の働きだけではなく、気血津液の状態も知っておくと、臓腑の働きでは何が異常になっているかを判定する根拠になります。
気は排便を出すことに働きかけるので、気の働きが弱くなってしまうと、便を排泄する力を失ってしまいます。気の異常には、気の停滞と気の不足である、気滞と気虚があるのですが、気滞・気虚では排便がスムーズにいかなくなる便秘が発生をしてしまうことがあります。
こういったときに、臓との関係を考えると矛盾をしていくことがありますが、身体の状態が全てなので、今ある状態から気血津液・臓腑の状態を判断することが大切です。例えば、脾気虚であれば、脾の昇清が弱くなるので下痢になることが多いはずなのですが、気虚によっては虚秘という便秘が発生をしてしまうので、同じ脾気虚から便秘と下痢が発生する可能性があります。
下痢の場合は、正常な人が脾気の不足を生じてしまったことによって発生をしていると考えることができますが、虚秘は、排便すると汗を大量にかいて、疲労感が発生してしまっていることから、脾気虚でも悪い状態と考えていくことが出来ます。もちろん、脾気虚が悪くなっても下痢がひどくなることはあるので、排泄からはどちらも考えられると言う点が重要ですね。
血の働きは滋養するという機能があり、大便では便を形成する働きがあるので、血に異常が発生をしていると、大便の形成が上手くいかなくなり、滋養もされないので、便は形を保つことができないので、コロコロとした兎糞状になっていきます。滋養の低下により、便は硬くなるので、排泄するのに、気の力が必要になります。
身体に熱が発生をしていると、便と腑の水分が失われてしまうことになるので、便が滑らかに大腸を移動するためのオイルが亡くなってしまった状態になるので、なかなか便が排泄できなくなります。便の状態としては乾燥しているように感じて、硬くなってしまうことが多いですね。
冷えが生じている場合には、冷えである寒邪の性質を理解することが大切になります。寒邪には収引性と凝滞性があり、凝滞性は気血津液や身体の機能の阻滞を招くことになるので、便を排泄するための、気血津液の動きが低下をしてしまうことになります。冷えの状態だとお腹が冷えて下すと言うように下痢を発生することも多いので、脾気虚と同様に冷えでは便秘と下痢のどちらも発生をしてしまうということは頭に入れておかないといけないと思います。
こういった便秘に関しては分類というのがあるのですが、気秘・虚秘・冷秘・熱秘という4つの分類があり、気秘は気滞、虚秘は気血の虚、冷秘は冷え、熱秘は熱によって生じてしまうことになります。
便秘があるようであれば、この4つの分類のどれに当てはまるかを考えて、臓腑・気血津液の状態を判断していくことが出来るので、問診情報としては非常に大切になります。
下痢の場合は、脾の働きの低下、腎の機能低下、湿邪、冷え、気滞、食あたりによって生じやすいので、便秘と下痢は、臓腑・気血津液の状態を判断するために重要な情報になります。