ストレスと東洋医学―蔵象

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 ストレスとあれば肝を考えて気滞にするのが、学生時代で習うことだと思いますし、国家試験でも出題されるものですが、ストレスは本当に肝なのでしょうか?

 そんなことを考える必要があるのかというところなのですが、自分の中でどうしても納得が出来ないところでもあり、どうやって肝になるのかという疑問があったので、いろいろ考えてみて、自分の中でようやく納得をしたので、まとめてみたいと思います。

 

 まずストレスとは何かを考えていかないと定義が難しいので、ストレスは“身体の望んでいない刺激”や“生命現象を脅かすもの”という定義になります。ではストレスはどういった刺激として考えられるかと言えば、“ストレスを発散”するということから、ストレスは“周囲からの圧迫”と捉えていくことが出来ます。

 

 ストレスが生体に影響をするということは、鑑別する上においては、外側・内側のどちらにストレスという刺激がかかっているのかを考えていくことが大切になるので、外的ストレス、内的ストレスと分けて考えることができます。

 

 外的ストレスには、暑さ、寒さなどの物理的ストレス、騒音、ほこりなどの環境的ストレス、病気、怪我などの肉体的ストレス、空気汚染などの化学的ストレス、細菌やウイルスなどの生物的ストレス、運動不足や運動し過ぎの運動的ストレス、人間関係という精神的ストレスがあります。

 

 内的ストレスには、睡眠不足や生活習慣の問題による生活的ストレス、妊娠などの肉体的ストレスがあります。

 

 東洋医学の病態把握で考えていく場合には、外的ストレスは外邪や外傷など身体の外側にかかる刺激として考えることができ、内的ストレスは生活習慣や精神的なものは身体の内側にかかる刺激として考えることができます。

 

 温度変化によって、皮膚の血流量が変わるというのは誰でも経験をすることであり、寒さで冷えてしまって指先に痛みが発生をしたということがありますが、東洋医学ではこれは外邪の影響によって発生をしやすい物だと考えていきます。

 

 皮膚刺激が継続して加わると、接触性の皮膚炎が発生していきますが、これは皮や経絡に刺激をされてしまったことによって、皮や経絡の異常が発生をしたと考えることが出来ます。

 

 内的ストレスを考えていくときには、単純に肝として捉えていくことが多いのですが、何故なのかというのを考えたときに、ストレスは“身体の望んでいない刺激”や“生命現象を脅かすもの”になるので、身体に向ってくる力であり、縮ませる性質があるので、曲直(のびやかに成長していく)である木の働きを阻害しやすい物だと言えます。

 

 一般的に言うストレスは、仕事が忙しくてプレッシャーが強くてストレスを感じている、合わない人が居るので自分の思いを口にできないのでストレスを感じているというように精神を自由に出来ないという意味で使われているので、感情に対して押さえ付けるストレスをかけているので、木の曲直を押さえつけると同時に、感情調節をしている疏泄を強く働かせなければいけないので、やはり肝の機能が低下をしてしまうことが多くなります。

 

 押さえつけるのがストレスという力なので、ストレスは“発散”すると言う言葉を使って、押さえつけられた物を開放するという意味の発散を使っていきますよね。

 

 そう考えると、ストレスというのは一つの圧力として考えることが出来るので、他の臓腑に対しても圧力をかけていくことになります。

 

 押さえつけるという力を考えていくと、内向き、下向きになり、下向きの力によって障害されやすいのは、上へ昇らす働きがある心と脾の機能になるので、ストレスによって心と脾と関係をする顏色に異常が発生をしてしまうことがあります。

 

 内向きの力によって障害をされやすいのは、外向きの力がある肺と、もともと内向きへの力がある腎に影響が発生をしてしまいます。肺は外向きの力があるだけではなく、内向き、下向きへの力をもつのですが、内向きへの力が加わってしまうことで、外向きの機能が出来なくなるので、結果的に内向き、下向きへの力を阻害してしまいます。

 

 ストレスがかかっていると思っていないし、情志の抑うつがない状態で、皮膚に問題が発生しているときには、肺の外向きの力が阻害されてしまうことによって、皮の栄養が出来なくなってしまっていると考えていくことが出来ます。

 

 腎の機能は、身体の中に在る物を貯めておく働きが強いのですが、内向きの力が強くなってしまうことによって、腎の内向きの力をより強めてしまうので、貯めている物を必要に応じて出すことができなくなってしまうために、生命力の低下につながってしまいます。

 

 ストレスが過剰にかかってきて、身体がどんどんと弱くなり、体調不良が生じるのが多くなる場合は、腎が閉じ込められてしまって機能不全に陥ってしまうと考えることが出来ます。

 

 臓腑の機能は、相互に影響をし合う関係があるので、ストレスが肝で、肝の機能が低下するから他の臓腑に影響が出てしまうというのも考え方なのですが、ストレスがそれぞれの臓にどのように働きかけていくのかを考えていくと、今までの治療とは違う方向からアプローチを出来るのではないかと思います。

 

 ストレスが肝に問題を生じやすいというのは当然の知識として入れておかなければいけないのですが、それだけでは説明できない状況が発生するのが臨床の場になるので、最近はずっと考えていました。

 

 こういった文章を探してもなかったので、私個人だけの意見かもしれませんが、東洋医学はいろいろと考え応用出来る物でもあると思っているので、ストレスを肝で治療をしていて良くならないと言う方は、他の臓腑を考えてみてもいいのではないでしょうか。

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