夾脊(きょうせき)は華佗夾脊という別名があります。華佗は後漢の時代の名医と言われている人で、三国志演技では曹操の治療をした人とされていて、麻酔を使った手術をして、青嚢の書(せいのうのしょ)を書いたと言われています。
夾脊は、第1胸椎棘突起下縁から第5腰椎棘突起下縁の外方5分にあるとされているので、左右で17穴、合計で34穴あるとされています。第7頚椎の下縁の外方5分は定喘というツボになるので、棘突起の外方5分にはツボが並んでいると考えるといいですね。
夾脊は治療においては非常に便利なので、個人的には良く使うツボの一つです。便利というのは、細かいツボの位置を確認しないでも出来るという点と、リスク管理として非常に有効性が高いからですね。
背部兪穴を使おうとしたときには、棘突起の位置を確認して、外方1寸5分を探す必要があるのですが、姿勢が変わることで、皮膚と骨の位置が変わってしまうので、変動の幅が広くなります。棘突起は身体の中央にあるので、身体が動いたとしても中心になっている物なので、変動幅が少ない傾向があります。
背部兪穴は斜刺や水平刺を使っていくことで、胸膈に鍼が入っていくのを防ぐことが可能なのですが、それでも肋間が下部にあるので100%入らないということは余程、角度に注意をしないと難しいことですし、呼吸や体動によって鍼が入って行ってしまう可能性があるので、リスクがないとは言えないです。夾脊の位置は、棘突起の外方5分なので、基本的には直刺で刺入をすれば、骨に当るところになるので、胸膈に入るリスクは背部兪穴の位置よりは安全性が高いと言えます。
それで鍼が外方に向ってしまえば、リスクになってしまうので、刺入をしたときに、頭部側・足底側から鍼が斜めになっていないのかの確認をしています。
背部痛や腰部痛においても夾脊は使いやすいので、局所の治療としても使えるので応用の範囲が広い場所だと思っています。
ただ、夾脊を使う時にはその場所だけというよりも、胸椎の上部から中部で使うというように範囲が広くなることが多いので、刺激量が多くなってしまう点と鍼の本数が増えるというデメリットがあります。
鍼の本数が多くなってしまうのを防ぐ方法としては盤龍刺(ばんりゅうし)というやり方があります。これは、第1胸椎棘突起下は右側を使い、第2胸椎棘突起下は左側を使うというように段違いにして夾脊を使っていく方法なので、鍼の本数は半分になり、刺激量も少なくなります。治療効果が激減するのではないかと思うでしょうが、意外と治療効果が下がらないので、部分的に夾脊を使う場合は左右同時、範囲を広げるときには盤龍刺で行うことが多いです。
それでも鍼の本数が多いというのであれば、単刺(たんし)という、刺しては抜き、刺しては抜きというのを繰り返す方法があるのですが、置鍼をしないので、鍼の刺入方向が直刺だったのかの確認が甘くなってしまうことがあるので、軽く刺入をしたら一度、手を止めて、方向を確認してから刺入するといいですね。
この方法はディスポーザブルの鍼では行えない方法になります。ディスポーザブルの意味は一度、鍼を使用したらそれで終わりになるので、ディスポーザブルでなければ、単刺を使って、刺入を繰り返す方法ができます。
夾脊であれば、2本を使っていけば、右に刺入し、左の刺入が終わったら、右を抜鍼して下に刺入してというように繰り返すことができますし、置鍼も使いたいのであれば、4本の鍼を使っていくことで、置鍼する時間を作ることができます。
この方法は盤龍刺でも使える方法なので、盤龍刺でも何本の鍼を使っていくかによってやり方が代わりますが、患者さんの感受性と治療者の刺入技術によって変わってくるのかなと思います。
夾脊の刺入深度は1~2㎝程度で強い響きが出ることがあるので、それほど深く刺入をしなくても効果も感じることが多いです。鍼の響きの方向としては上下に響くこともあるのですが、肋間神経の走行に沿った方向で、前方に響きが出る場合があります。上部夾脊は板状筋の関係があるのか、頚部に響くことが多いですし、中部夾脊は前方に響きやすく、下部夾脊は下肢に響きが出ることもあります。
夾脊を盤龍刺で行っていけば、鍼と鍼の間が空くので、盤龍刺をした鍼に灸頭鍼を行っていくことも出来ます。灸頭鍼を使うと鍼の響きだけではなく、その範囲を一気に温めることができるので、その部位の辛さの軽減が出来るだけではなく、臓腑の症状に対しても効果が見られることが多いです。
ただ、灸頭鍼を行う本数が多いと、落下をして火傷をしてしまうリスクも上がってしまうので、注意をしないといけないですね。背部兪穴に灸頭鍼をしたいと考えるのであれば、同じ高さの夾脊で灸頭鍼を使っていく方が安全だと言えますね。