疏泄の意味

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 肝の働きには疏泄があり、全身の気機、気血津液の運行、精神活動、血流量の調節、脾の調節、月経、妊娠、胆汁の生成を行います。

 病能としても肝の疏泄の失調によって発生する物が多いので、疏泄はよく目にする物なのですが、疏泄って何かと言われると自分でも上手く説明が出来ない物でした。

 

 疏泄という言葉は『針師のお守り』によると明清代になってから使われている言葉だと紹介をされていて、古代では肝の働きは蔵血の機能として認識されていたものが血を介して気にも働きかけるということを主張するために作られたのではないかと書かれています。

 『針師のお守り―針灸よもやま話 (中医臨床新書)』

 

 気ということでは、肺が主気という表現があるように、呼吸が気に関係するのをイメージしやすい中で、肝にも気に対する働きかけがあるということを言いたかったのではないかと言えます。肺と肝に関しての問題に関しては五臓の成立ちなどが含まれてくるのですが、今回は省きます。

 

 肝の疏泄は、全身の気機、気血津液、精神活動、血流量の調節、脾の調節、胆汁の生成と分泌、月経・妊娠の調節に関与をすると言われていますが、精神活動・血流量の調節・月経・妊娠は蔵血でも説明が出来ますが、疏泄に入れたのではないでしょうか。

 

 なぜなら、精神活動は気と血で言えば、血が関係をしやすいところであり、血流量の調節・月経・妊娠は血との関係性が密接なので、血の機能の一部として説明を出来るのではないかと思います。

 

 全身の気機、脾の調節は血からの働きでは説明しにくいので、疏泄という言葉でまとめたのだと思いますが、この根底にあるのは、肝は木であるので曲直というのびやかで、広がっていく性質と身体の機能に関係をしているのではないかと思います。

 

 疏泄という漢字の意味を考えていくと、「疏」には「ふさがったものを通す、通る」という意味があり、「泄」には「もらす、大量の水を早くだす」という意味があります。疏泄という言葉を合わせて意味を考えてみると、「ふさがっている物を通してもらす(水系)」という意味が含まれているので、身体の機能で言えば、どういったことに対応をするのでしょうか。

 

 疏泄という言葉は、『針師のお守り』によれば明清代になってから使われている言葉だとしていますが、運気七篇である『素問』五常政大論の中に「疏泄」という用語が見られます。明清の時代は1368~1912年であり、運気七篇を作ったとされる王冰は7世紀(601~700年)の人なので、7世紀には疏泄という用語があったということが分かります。

 

『素問』五常政大論

発生之紀是謂啓“東攵”土疏泄・・・

 

 詳細の意味に関しては難しいのですが、ここで書かれている文章の内容は肝胆と関係する話をしているので、「土が疏泄」という意味は、「嘔吐・下痢」になるのではないかと思います。

 

 本が手元にないので分からないのですが、『格致余論』、『類経』の中にも疏泄という単語が書かれているようです。『格致余論』は金元四大家の一人でもある朱丹渓(1281~1358年)、『類経』は張介賓(1563~1640年)になりますが、『格致余論』のところでは既に現行の疏泄と同じような意味として考えられていたようで、『類経』では「水が流れる」という意味で使われているのではないかと思います。

 

 王冰の方が時代としては古いので、その当時で考えられていたイメージとしては、疏泄というのは脾胃の上下(嘔吐・下痢)に肝が関係しているという考え方なのかなと思います。

 

 こうやって考えていくと、疏泄という意味では脾胃への働きかけがあるというのはよく分かってくるのですが、それ以外の機能が入れられているのは推測するしかないのですが、肝は木であり、曲直という性質があるので、そこから考えていくしかないですね。

 

 曲直は草木が成長していく様を表しているので、身体で考えていくと、身体の隅々まで肝の働きが関与をしていると言うことができると思います。さらに、肝は血を貯めて置く働きがあるので、全身の機能にも影響を与えてくるので、この中で機能に関係していることを疏泄という言葉でまとめたのではないでしょうか。

 

 外に出ると言うことでは、身体の内にある感情を外に出すということも、スムーズに出すという意味にするのであれば、疏泄というイメージは合うのではないかと思いますね。これ以外にも、肝と表裏関係にある胆は胆汁にも関与をしているので、胆汁を流す管理をするというのは、蔵血に入れにくいので、疏泄でいいのかなと思います。

 

 調べてみると分からないことが沢山出てきたので、これで正解なのかどうかは分かりませんが、今まで何となく使ってきた疏泄のイメージが少しは付いてきたと思います。

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