治療院では肩が痛いという人の対応をすることが多いですが、肩は構造が複雑なために、治療をしても変化はしても、なかなか効果が持続しないことも多い場所です。そんなときは局所の治療だけではなく、経絡を使った遠隔からの治療もいいと思います。
1.肩の構造
肩に痛み出ているときには、現代医学的な構造も知っておくことが大切です。肩関節が動くときには、肩甲上腕関節と、胸郭・鎖骨・肩甲骨も関係をしていきますし、肩甲上腕関節は関節窩が浅いので、筋肉によってカバーされています。
①肩甲上腕リズム
肩甲上腕関節と胸膈などの関係は、肩甲上腕リズムがあり、肩関節外転30°以上になってくると、肩甲上腕関節と肩甲骨が2:1の割合で動くことになります。例えば、肩関節を180°外転すると、肩甲上腕関節が120°外転し、肩甲骨が60°上方回旋することになります。
②外転の運動相
肩関節が外転するには、肩甲上腕リズムが大切になるのですが、肩甲骨も動いていくことにより、他の部分も肩関節の動きに関係をしていきます。
・外転の第1相
上腕を下に降ろした状態から水平まで持ち上げてくる運動で棘上筋が上腕骨を体幹に引き、三角筋が上腕骨を外転させていきます。棘上筋は外転の始動に関係をするので、棘上筋を痛めているようであれば、最初のところは勢いよく挙げてしまう人もいます。
・外転の第2相
上腕骨を水平から上方に外転させていくのには、僧帽筋と前鋸筋が協調して働いて、肩甲骨を動かしていくことになるので、肩関節を上に挙げにくい場合には、僧帽筋・前鋸筋の協調運動に問題が出ている場合もあります。僧帽筋上部線維は肩甲骨を上に引き、僧帽筋の下部線維は肩甲骨を下に引くことで、肩甲骨が上方回旋しやすいようにしています。
・外転の第3相
垂直まで上腕骨を挙げていくためには三角筋・僧帽筋・前鋸筋が働き続けることが必要ですが、上腕骨の外旋も必要になっていきます。上腕を垂直まで挙上をしていくには、身体の姿勢変化も必要になるので、挙上をしている側と反対側の脊柱起立筋が側弯をしていくことになります。
③ローテーターカフ(回旋筋腱板)
肩関節を動かすのには、外旋・内旋も必要になってくるのですが、細かい筋肉が多く、協調して働くことで、上腕骨が肩甲骨からはずれないようにもしています。ローテーターカフには、棘上筋・棘下筋・肩甲下筋・小円筋があり、挙上・内旋・外旋に関与をしています。
2.肩と経絡
肩関節には様々な経絡が走行をしていますが、肩前面・側面・後面で経絡を分けていくことができます。
①肩前面:手太陰経、手陽明経
肩前面は多くの経絡が関係をしていますが、肩の前面でも内側は手太陰経、外側は手陽明経と関係をしています。上腕中部ぐらいまでいくと経穴が出てくるので、上腕の前方付近には、外側から手陽明経、手太陰経、手厥陰経、手少陰経が走行しているのが分かります。
手太陰経は上腕二頭筋外側、手厥陰経は上腕二頭筋の長頭と短頭の間、手少陰経は上腕二頭筋の内縁にそれぞれ経穴があります。
手少陰経は腋窩から上腕の前方に出てくることになるので、斜めに走行をしていることになりますね。手厥陰経も胸膈とも関係をしているので、腋を通り、斜めに走行をして上腕前方に出てくることになります。
②肩側面:手少陽経
肩側面だけではなく、身体の側面は少陽経が関係をしているので、肩の側面では手少陽経になります。ただし、解剖学的姿位で考えると、手少陽経は側面でも後方よりになります。
上腕では後面に経穴があるので、上腕後面から前腕後面では後面正中に走行をしていきます。経絡の走行は解剖学的姿位で考えられていたのではなく、身体の自然な位置で考えたと思うので、自然な状態では前腕は回内位になるので、この姿勢だと前腕部は側面に走行をしていることになりますね。
③肩後面:手太陽経
肩後面には手少陽経が走行をしていて、経穴の数も多いので分かりやすいですね。手少陽経は『馬王堆』で書かれている肩脈と同じだと考えられているので、肩後面は手少陽経が重要になっているというのが分かりますね。
④肩内面:手少陰経
肩の内面というよりは腋窩になりますが、腋窩には手少陰経の経穴があるので、肩関節の内面には手少陰経が走行をしていることになります。
3.肩の痛みの治療
①現代医学
現代医学的に治療を行うのであれば、肩の構造、動きを理解して、障害が疑われる筋肉を考えて治療していくことが大切なのですが、肩の痛みの場合、「肩関節を少し外転して内旋や外旋をするときの、この位置での痛み」と表現をされることもあり、断定をしやすいそうなのですが、断定をしていくのが難しい表現をされることが多いですね。
肩関節には細かく筋肉が走行しているので、動きの状況によっては、筋肉と筋肉が絡むような状態にもなると考えられるので、絡みやすい肩前面・肩後面の硬結には注意をしていく必要があります。
肩の前・後面は表層だけではなく、深層にも注意をしておかないといけないので、腋窩から前・後方の触診もしていくと、硬結を見つけやすいと思います。
②東洋医学
運動時痛が酷い場合には経絡の病、運動制限の場合には経筋の病として考えるというのもあるのですが、どちらで考えるにしても、経絡の走行を意識しないといけないので、どの場所に強い痛みがあるのかをしっかりと確認をして、どの経絡の走行と関係をしやすいのかを診ていく必要があります。
場所が分かれば経絡を使った治療をしていくことが出来ますね。どの経穴を使っていくのかは経験か知識が必要になるのですが、運動器疾患で『霊枢』の邪気蔵府病形に五行穴の滎・兪穴がいいと書かれているので試してみるのもいいのではないでしょうか。
『霊枢』邪気蔵府病形
滎兪治外経.合治内府.
肩の治療では同名経を使って治療をしていくこともできるので、同名経で同じような構造のところは効果が出ることもあるので、股関節の圧痛を診て、股関節に対して同様に滎・兪穴を使って、股関節の圧痛を変化させた後に、肩の状態を診てみるのもいいと思います。
巨刺という反対側を使って治療していくこともできるので、どうやっても変化がないなというときには、反対側で痛みがある場所や経絡を治療してみるのもいいと思います。肩の動きには胸・背部が関わってくることも多いので、肩関節に付着をしていくような大きな筋肉の硬結や圧痛も治療点としていいと思います。
膝の内側の陰陵泉付近は肩の痛みで効果が出やすいところですが、圧痛をしっかりと診て圧痛点に治療をするのが効果的ではないかと思います。
4.まとめ
肩の治療は遭遇することが多い疾患ですが、構造的には非常に難しいところなので、知識の整理を兼ねて書いてみました。まだまだ考えるところも多いですし、動きもイメージしながら考えないといけないなと思いましたね。