肺熱による運動麻痺―運動麻痺と東洋医学

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 運動麻痺は痿躄(いへき)とも呼ばれ、四肢不用、四肢軟弱、四肢不挙と呼ばれることがあります。痿は、筋が軟弱で無力になるもので、萎縮や運動麻痺とも関係をしている用語になります。

 脾は肌肉と関係をしていて、肌肉は身体の太さや手足と関係をしているので、四肢無力や四肢無力は脾の病証と関係をしやすいです。ただ、手足の軟弱は脾以外の病証でも発生をするので、運動麻痺を四肢無力・四肢軟弱と表現をすることがあります。

 

 脾の肌肉が障害されて運動麻痺になる状態は、高齢者で寝たきりになり、だんだんと食欲が低下をして、手足がやせ細り、手足の力がなくなる状態に近いです。

 

 運動麻痺ということでは、筋の働きが低下をしてしまうことで発生をするので、肝の障害によって、筋への滋養が低下をして発生をしてしまう病態もあります。

 

 身体を動かす筋は、血と肝の支配下にあり、血は精が補う働きがあるので、精血同源とも言われ、精が障害されたときにも発生をしてしまいます。血は肝に貯えられ、精は腎に貯えられているので、精血同源は肝腎同源とも言われます。

 

 肝腎の不足は精血の不足にもなるので、肝腎両虚から運動麻痺が生じてしまうことがあります。この場合は、足のつりや足腰の軟弱が出てから動かせなくなってしまう状態になります。

 

 脾、肝、腎で発生する運動麻痺は、加齢と繋げてイメージをしていくと、理解をしやすいのですが、肺熱による運動麻痺は、直接、運動に関わる単語と繋がらないので理解をしにくいのではないかと思います。

 

 筋は日常的に血によって滋養をされているのですが、身体の中にある水分である津液は、津が皮膚・肌肉・九竅を潤し、液が関節・臓腑・脳などを潤す働きがあります。肺は水の上源とも言われ、全身に水を輸送している臓になりますが、肺に障害が発生をしてしまうと、津液の循環に障害が発生をしてしまいます。

 

 津液が潤す対象は、筋も含まれていますが、津液は潤すだけではなく、潤滑の役割があるので、筋が動くときに津液が充分にないと、筋を動かすことが出来なくなってしまいます。

 

 機械の部品に油があることでスムーズに動くことができますが、津液は身体で言えば、オイルの役割もしているので、津液の不足や循環障害は筋の障害が発生をしてしまいます。

 

 例えば、高熱になると、身体を動かしにくくなってしまいますが、血の滋養作用が低下をするだけではなく、津液の循環・滋養障害によっても発生をしていることになります。

 

 暑さによって大量の汗をかいてしまった場合も手足の動かしにくさが生じることがありますが、これも全身の津液不足によって、筋の滋養と潤滑の障害が発生をしていることで筋が動きにくい状態が発生をしていることになります。

 

 肺熱は、外邪が原因になって生じることが多いのですが、風邪(かぜ)をひいてから熱が強くなってしまった状態です。外邪は皮毛・鼻・口から侵入をしやすく、肺に障害をしやすいですし、熱は炎上性と乾燥性があるので、上に昇り、水の不足を生じさせてしまうことになります。

 

 肺は水の上源と言われ、水が豊富にあることが正常なのですが、熱が肺に停滞をしてしまうと、水が失われてしまうことになり、肺の機能低下を起こすだけではなく、水不足になってしまうために、津液が不足をして、筋の潤滑が出来なくなってしまい、運動麻痺が生じてしまいます。

 

 熱は炎上性があるので、肺の機能では粛降機能を低下させてしまうことになるので、水が下に落ちることができなくなり、尿量減少も発生をしやすくなります。

 

 熱邪が取り除かれてしまえば、肺の機能は正常なので、早期の回復をしやすいとも言えるのですが、肺に十分な量の水が戻ってくるまでは時間がかかるのと、肺の機能低下が酷くなっている場合は回復に時間がかかることになってしまいます。

 

 肺熱による運動麻痺はひどい感染症などによっては生じることがあるのでしょうが、健康成人であれば、風邪を引いたときに、手足が使いにくいという程度の発症になるのではないでしょうか。

 

 重篤な感染症では、手足の軟弱が強く出て、筋の萎縮も強くなるので、古代の中国では多かったのでしょうね。中国では鍼灸師は伝統医学の医師になるので、いろいろな病能の人を治療しますが、現在の日本では肺熱による運動麻痺は診る機会は少ないのではないでしょうか。

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