生命は気血が循環していることによって成り立っていると考えていくのですが、気血が循環していくためには、上下左右に流す働きが必要になっていきます。
人の身体が筒状のものだと考えたときに、上下に渡る範囲が広いために、上に力が向えば、一番上で天井にぶつかり下にさがり、下に下ったら、底にぶつかり底から上に昇るので、気血の循環には昇降という力が大切になります。
シンプルに考えれば、こういった力は陰陽と考えていくことができるので、陰は下に向かい、陽は上に向かうという力になり、臓腑が基本となって、上下昇降の力が発揮されることになります。
1.臓腑の昇降関係
昇降の働きは、臓腑に分類していくことができますが、五行の性質や生理機能から昇降を考えていくことができます。
身体全体の働きを考えていくときには、五臓で考えていくことになるのですが、腑の概念が無くなってしまうので、胃を加えて6つで考えていく方が分かりやすいと思います。腑は入ってきたものを出す働きになるのですが、その中心的な働きを担うのが胃になるので、五臓と胃という6つで身体の機能を考えていくのが大切だと思います。
昇降で分類をしていくときには、昇の働きを持つのは、心・肝・脾があり、降の働きを持つのは、肺・腎・胃になります。
- 昇:心、肝、脾
- 降:肺、腎、胃
心は五行では火であり、昇りやすい性質があり、肝は木であり、木は曲直と言われ昇発の性質があるので、昇りやすい臓です。脾は五行の性質からすると昇降という性質を持たないのですが、生理的な働きとして昇清という上に昇らせる働きがあるので、昇る性質があります。
肺は五行では金であり、降の性質があり、腎は水であり、水は下に落ちる性質があるので、降の性質があります。胃は脾と同様に、五行の性質からすると昇降という性質を持たないのですが、腑として考えていくと、食べた物を出す働きがあるので、下に降ろす性質があります。
臓腑の昇降関係は陰陽で考えていくこともできるので、昇の働きがある物は陽の働きがあると言え、降の働きがある物は陰の働きがあると言えます。身体が陰陽の動きによって成り立っているということを臓腑の働きに分けて考えていくこともできます。
2.上焦・中焦・下焦の昇降
臓腑の昇降関係は、全体としての考え方になりますが、上焦・中焦・下焦にもそれぞれ臓腑が配当をされているので、部位ごとの昇降関係も存在していて、身体の生理機能とも関係をしていきます。
上焦は肺と心がある場所とされているので、上焦での昇は心、降は肺になります。上焦に割り当てられた役割は気血の運行と大きく関係をしていくので、肺と心が強調しあいながら、気血を全身に循環をさせていることになります。
中焦は脾と胃がある場所とされているので、中焦での昇は脾、降は胃になります。中焦に割り当てられた役割は飲食物の消化吸収と大きく関係するので、飲食物の栄養を上部である肺・心に与えるのが脾の役割であり、排泄に向かわせるのが胃の働きになります。
下焦は肝と腎がある場所とされているので、下焦での昇は肝、降は腎になります。下焦に割り当てられた役割は、生殖器と排泄になるのですが、生殖器と排泄であればメインは腎になります。ただし、割り当てとしては下焦に肝が入っているので、生殖器や排泄のトラブルでは肝を考えていくことができます。肝は昇りやすい性質があるので、上部である中焦の脾胃、上焦の肺心にも影響をしてしまいやすい臓になります。
3.脾と昇降
脾の働きは、身体全体として考えたとき、上焦・中焦・下焦の昇降として考えたときでともに昇と関係をしていくのですが、脾は気血津液精を生成する臓でもあるので、下焦の腎・肝にも栄養を与えないといけないので、実際は降という働きも存在しています。
身体全体としてのバランスとして考えると昇なのですが、降という働きも重要なので、治療の中においては脾の昇降バランスを考えていくのも大切になっていきます。
4.肝と昇降
肝の働きとしては昇発という昇りやすい性質があるので、昇の働きが中心になるのですが、一番下から昇っていくので、中焦・上焦にも影響を与えてしまいやすい傾向があります。
解剖学的には肝は胸脇部にある物なので、胸脇部との関係させた方が説明もしやすいところなのですが、病態としては様々なところに関係をするのと、昇降というバランスの視点からすると、肝は下焦に配当をされる方が説明しやすいですね。
胸脇部に肝はないということになっていても、経絡の走行では関係していると考えているので、胸脇部と肝の関係は、経絡の走行で解決をしています。
5.まとめ
身体は気血津液が循環していると考えるのが東洋医学の基本概念になりますが、対内には臓腑があり、臓腑が気血津液に影響を与えていると考えていくので、昇降という概念が臓腑に入っていきます。
昇降以外に出入という概念もあるのですが、昇降と近い働きでもあるので、昇降をしっかりと理解しておけば、出入も理解しやすいと思います。