積聚(しゃくじゅ)

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 積聚は腹部の硬結のことであり、深部にあるのが積で表層にあるのが聚で、固定性が積で遊走性が聚にもなります。積聚は古典文献では『霊枢』の五変と『難経』の五十五・五十六難に記載があります。

1.『霊枢』五変の積聚

 『霊枢』で書いてあることは、積聚が何故、起こるのかという話しなのですが、肌が薄い人は胃腸が弱いので、飲食で注意をしないと、胃腸の中に積や聚を生じるという説明があります。

 

黄帝曰、人之善病腸中積聚者、何以候之

少兪荅曰、皮膚薄而不澤、肉不堅而淖澤、

如此則腸胃悪、悪則邪気留止、積聚乃傷、

脾胃之間、寒温不次、邪気稍至、

稸積留止、大聚乃起

 

2.『難経』五十五・五十六難の積聚

 『難経』の中で積聚は腹部にある特定の硬結のことであり、五十五難では積聚の概念についての記載があり、五十六難では臓との関係があるとしていて、肝の積を肥気、心の積を伏梁、脾の積を痞気、肺の積を息賁、腎の積を奔豚といいます。

 

①『難経』五十五難

 五十五難では、積は陰であり、臓と関係し、移動しにくく、聚は陽であり、腑と関係し、移動しやすいと言われています。

 

病有積有聚、何以別之、

然、積者、陰気也、聚者、陽気也

故陰沈而伏、陽浮而動、気之所積、名曰積、

気之所聚、名曰聚

故積者、五臓所生、聚者、六府所成也

積者、陰気也、其始発有常處、其痛不離其部

上下有所終始、左右有所窮處

聚者、陽気也、其始発無根本、上下無所留止

其痛無常處、謂之聚

故以是別知積聚也

 

②難経五十六難

 五十六難では五臓の積の説明になるのですが、積の形と場所だけではなく、症状や時期、伝変についての記載があります。時期や伝変は分かりにくいところも多いですね。

 

1)肥気(ひき)

 詳細は原文を載せておくのでみてください。肥気は左の脇下にあるものになります。改善しないと咳嗽が出ることもあります。

 

肝之積名曰肥気、在左脇下、如覆杯、有頭足、久不愈

令人発咳逆、カイ瘧、連歳不己、以季夏戌己日得之

何以言之

肺病伝於肝。肝当伝脾。脾季夏適王、王者不受邪

肝腹欲還肺、肺不肯受、故留結為積

故知肥気以季夏戊己日得之

 

2)伏梁(ぶくりょう)

 伏梁は臍の上より生じるもので、肘のような形になります。上は心下にまだ達して、改善しないと胸苦しさを生じることになります。

 

心之積、名曰伏梁

起斉上、大如臂、上至心下

久不愈、令人病煩心、以秋庚辛日得之

 

3)痞気(ひき)

 痞気は胃脘部にあり、伏せた盆のような形になります。改善しないと四肢が無力となりやすく、黄疸が出て、飲食しても痩せてしまうことになります。

 

脾之積、名曰痞気

在胃脘、覆大如盤、久不愈、令人四肢不収

発黄疸、飲食不為肌膚

以冬壬癸日得之

 

4)息賁(そくふん)

 息賁は右の脇下にあるものになります。改善しない場合は悪寒発熱して、喘咳が生じることになります。

 

肺之積、名曰息賁。

在右脇下、覆大如杯、久不己、

令人酒淅寒熱、喘咳発肺壅。

以春甲乙日得之。

 

5)賁豚(ほんとん)

 賁豚は下腹部の少腹に起こり、上は心下まで到達し、上がったり下がったりするものです。改善しないと、咳嗽や喘息が生じ、骨は脆くなり、呼吸が弱くなります。

 

腎之積、名曰賁豚

発於少腹、上至心下、若豚状

或上或下無時、久不己

令人喘逆、骨痿少気

以夏丙丁日得之

 

3.まとめ

 『霊枢』に書かれている内容は積聚の発生についての話しになるのですが、『難経』の方では臓と関係する積の記載があり、症状、伝変も関係しているので、病との関係という点では面白いですね。

 

 内容的には理解するのが大変そうなので、今後の課題にしていきたいと思います。伏梁、痞気、奔豚は心下と関係をしていくので、臨床の中で鑑別していくのはどうするのかなという新たな疑問が生まれました。

 

 心下でもある心窩部は消化器系の症状があるときに不快感が出やすいところですし、ストレスや精神的疲労によっても不快感が発生することがあるので、病能がいろいろあるのかなと想像している段階です。

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