1回目の治療を軽くする理由

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 治療をするに当たり、鍼灸や手技だと初診の治療は軽めに済ますということも多いのですが、どういった理由で軽めにしておくのでしょうか。東洋医学的な視点からも考えてみたいと思います。

 病院で初診として診察を受けたときも、完全に原因と病気が特定されたのであれば治療はスムーズですが、それでも最初は「これで様子をみましょう」という話しになることがあると思います。

 

 これは本当に治療があっているか分からないという点と、服薬した場合に薬が合わないという可能性もあるので、様子を見て次を考えようということですね。全ての物事に100%の結果というのはないので、妥当な表現ですよね。

 

 では鍼灸や手技で初診を軽めに済ますというのにはどういった理由があるのでしょうか。現実的な点と東洋医学の身体の診方という点から考えてみたいと思います。

 

1.現実的な理由

 治療においてはどういった反応が出るのかを完全に読むことができないので、身体がどういった反応をするのかを見きわめることが重要になってくるので、初診は軽めの治療にしていくというのが多いのではないでしょうか。

 

 経験を積んでいけば反応を読むことが出来るのかもしれませんが、経験は重要であると同時に危険なことでもあるので、やはり初診は謙虚に少な目の方がいいのではないかと思います。

 

 身体の状態を読み切って反応も予測できるから構わないという意見もあるでしょうが、自信を強く持った時ほどミスを犯すリスクがあるので、絶えず自分を疑うという点でも様子を見られる状況にしておいた方がいいと思っています。

 

 臨床をやっていると、ちょっとした刺激なのに、こんなに大きく変わるのかと思うことがありますし、真面目にこちらの指導を実行する方であれば、治療の刺激は最少でも最大の効果を発揮することがあるので、様子見の姿勢は大切だと思っています。

 

 初診は問診や身体の状態を確認することで時間を取られるので、初診料を取っているところも多いですが、反応を確認し説明しながら行うので、時間的にもそれほど取れない状況にもなりやすいです。

 

 以上の点から初診時は治療を軽めにして悪化をさせないように管理をしながら、継続して診ていく状況を作っていくことが身体をよくするためには大切だと思います。

 

 慣れている患者さんが期間を空けてきた場合は、初診はそれほど時間がかからないのですが、そういったときこそ、しっかりと様子を見て、以前と違いがないかを確認していくことも大切ですね。

 

 長く臨床を続けていて、患者さんも長くなってくると、期間を空けてきても治療時間が短くて適切になることがありますが、それは身体を熟知しているという点と技術が向上したという点があるでしょうね。

 

 ただ、おごりを持ってしまえばミスにつながるので、自分を疑い続ける視点は大切だと思います。

 

2.東洋医学的な視点

 東洋医学は身体の中に気血津液が流れているのが正常な状態という思想があります。治療をするということは身体の気血津液に対して治療をしているので、初診の治療を軽めにするというときにも、気血津液に対する考え方が大切になります。

 

 では初診時の身体の状態は一体どのような状態なのでしょうか。

 

 気は不足しているのか、停滞しているのか分からないですし、血も不足しているのか、停滞しているのか分からないですし、津液も不足しているのか、停滞しているのか分からないですね。

 

 分かっていることはただ一つで気血津液の循環が悪いということなので、循環が悪いとどういった状態になるかを考えていく方がいいでしょうね。

 

 気血津液の循環が悪いことが病の状態であると仮定するのであれば、気の停滞、血の停滞、津液の停滞が病の根本的な原因になります。

 

①病の原因は気の停滞

 気の停滞が根本であると考えたのが後藤艮山(ごとうこんざん:1659~1733)で、「一気留滞説」と言えます。後藤艮山は、病にはいろいろな原因があったとしても滞りが発生するので、元気が滞ることが病の根本の原因で積気(しゃくき)という説になっています。巡りをよくするためにはお灸がいいと考えたのでも有名です。

 

②病の原因は血の停滞

 気の停滞だけで考えても良さそうなのですが、気の停滞があるということは血の停滞があるはずなので、血の方が影響を受けて阻滞が発生しているのが病の原因と考えるのであれば、瘀血を取り除くことが治療として大切と言えるのではないでしょうね。

 

 例えば、調子が悪くなって自己治癒をしたとしても、停滞が取れたとしても病理産物が残り続けると考えるのであれば瘀血があっても当然という考え方になりますね。

 

 自然の物は壊れたとしても、完璧に元に戻ることがないので、瘀血が停滞をしているというのも当然とも考えられますね。例えば、紙を一度折ってしまえば、どんなに奇麗にしたとしても折り目が残るでしょうし、とことんまで奇麗にしたとしてもミクロでは残っていることがあると考えれば瘀血が残っていうのは正しいですね。

 

③病の原因は津液の停滞

 血は身体の中で脈内にのみ存在している物ですが、津液は脈外にあるので身体の隅々まで循環をしている物になります。身体の隅々ということは、皮膚の下、筋肉、骨など全ての場所に存在しているので、気の停滞があるということは津液の停滞があるはずなので、津液の病理産物である痰湿が病の原因であり、一時的によくなったとしても痰湿が身体には阻滞していると考えることができます。

 

 停滞が残るという点では瘀血と同様ですが、津液の方が身体の隅々まで存在しているので、瘀血よりも停滞している可能性が高いのではないかとも言えます。

 

④病の原因はどれか

 気の停滞から瘀血・痰湿が生じているのであれば、気が一番の問題であると考えるのもいいでしょうし、病理産物が生じていることが一番の原因だと考えるのもいいので、その人の治療に対する考え方次第と言えますね。

 

⑤治療を軽くする理由

 病の本質が何であるのかを考えていくときに、すぐに問題に到達すればいいのですが、気血津液が停滞をしていて、この停滞が改善しないと身体の本当の状態が見られないと考えるのであれば、まずは停滞を除くことが初診の治療に取って大切だと言えます。

 

 1回目に治療をしてみて、停滞が除かれてくれば症状の変化が生じることもあるでしょうし、本体が見えてくる可能性があるので、初診の治療では気血を循環させたら終わりと考えるといいのではないかと思います。

 

3.まとめ

 私なりに初診の治療を少なくする視点について書いてみましたが、初診で様子をみていくことで2診目以降の治療計画を立てやすくするのが大切なことだと思うのですが、治療は患者さんの満足度も重要なので、どこまで納得をしてもらえるかが課題になるかなと思います。

 

 患者さんに取ってみれば、プロなのだし初診で変化を出してもらいたいという気持ちがあるでしょうが、完璧に読み切れることなどないので、どこまでなら納得できるかという線引きも必要になるのではないでしょうかね。

 

 初心者に取ってみれば経験値がない分だけ、治療後の状態を読むことが難しいので、しっかりと説明をしてどう変化をしていくのかという道筋を何パターンか示してあげることが大切なのではないかと思います。

 

 例えば、この治療でよくなるはずで、よくならなければ違う方法を試していきたいというのを伝え、今後の治療計画を言葉にしていくことが治療家に取って大切なのではないかと思います。

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