トレーナーの施術によって長胸神経麻痺が生じたというニュースが出て驚きましたが、鍼灸と神経損傷について自分なりに考察してみたいと思います。
まずは、神経麻痺になってしまった選手の早い回復を願っていますし、トレーナーとして尽力されていた方々も神経麻痺の前後を含め大変でしょうが、今後も選手を支えるために頑張って頂きたいと思います。
1.長胸神経麻痺とは
長胸神経は、腕神経叢の第5~7頚神経から生じ、前鋸筋を支配する神経で、斜角筋の間を通り、鎖骨下を走行していています。経路としては、細かいところを通過するだけではなく、長く浅いために、伸長や外傷によって損傷することがあります。
リュックサックの紐で圧迫を受けたときにも麻痺をしてしまうことがあるので、リュックサック麻痺として生じることがあります。リュックサックの紐の圧迫では長胸神経の他に、腋窩神経、筋皮神経の麻痺が生じることがあります。
長胸神経が麻痺してしまうと、肩甲骨内縁を前方に押し出す前鋸筋が麻痺してしまうために、肩甲骨が浮いて見える、翼状肩甲が発生することがあります。
スポーツではテニス、ゴルフ、重量挙げなどによっても生じ、側臥位での就寝でも発生することがあるので、運動や生活によって麻痺が生じやすい神経と言えそうです。
2.鍼灸で神経損傷が発生するか?
鍼灸治療によっての神経損傷は文献の数も少ないので、本当に生じるのかというと疑問もあります。中国の書籍や文献を見てみると神経損傷が発生した場合は、刀鍼療法という腱鞘炎の腱鞘を切開するような鍼で生じているようですし、鍼を身体に埋める埋没鍼でも生じているようです。
通常の鍼では神経麻痺が直接生じるというよりは、治療後に原因不明だけど、神経損傷が起きたのではないかと考えられる事例があるようですが、因果関係を立証するのは難しそうです。
神経損傷に関しては、過去のブログにも記載していますので、こちらを参考にしてみて下さい。
3.鍼灸と神経損傷
神経損傷は、神経が働けなくなることであり、原因として非常に分かりやすいのが、事故などによって、神経が切れたりして傷ついてしまう場合です。それ以外では、はっきりとした原因を出すことが難しいので、「○○のせいで生じたのでは?」ということになります。
例えば、リュックサック麻痺で長胸神経麻痺が生じたのであれば、長時間リュックサックを背負っていて、背負っている最中から異常を感じ、その後に麻痺が生じたというのであれば、リュックサック麻痺であり、原因はリュックサックになるのではないでしょうか。
もし、この人が普段から側臥位で長胸神経が圧迫をしていたり、激しい運動をしていたり、長胸神経に負荷がかかっていたのであれば、リュックサックが本当の原因なのでしょうか。
リュックサックを背負っていなくても、神経麻痺になるのは時間の問題もあったのではないかと考えられますし、リュックサックがなければ神経麻痺が生じていないとも考えられます。
神経は有線ネットワークなので、走行途中の問題が神経に影響を及ぼすことが多いので、鍼灸などの臨床では神経経路上の問題である胸郭出口症候群を普段から考えることが多いです。
鍼灸治療では、現代医学・東洋医学的も結果的には筋肉を緩ませ、血行を促進することで、全身へ影響が波及すると考えることが出来るので、筋肉の緩み・血行の改善によって、爽快感・違和感などが生じることがあります。
身体の右側だけというように半分だけ入念に治療されると、反対側とのバランスを取りにくくなることがあるので、治療で狙っていなかった場所に違和感が生じる可能性はあります。
私自身は経験ないですが、以前、普段診ている患者さんを他の方が治療したら、強い脱力感が生じ、数日の間は調子が悪かったという話しを聞いたことがあります。治療内容を聞いても特に問題ではなさそうだったのですが、おそらく一部分だけ強く緩んだことで、身体のコントロールがしにくかったのかなと思ったことがあります。
身体には多くの筋肉、神経、血管があるので、全てを完璧に管理して治療していくのは難しいでしょうし、局所治療に集中すると、他への影響がどうなるのかを予想しないといけないと言えますが、人の身体は全て解明している訳ではないので、予測不可能があって当然ですが、医療となると神であることを求められるので非常に難しい部分がありますね。
病名決定をする診断は医師が決定するものであり、鍼灸治療をしてから調子が悪くなったのであれば、「鍼灸刺激がどうやって悪くしたのかは分からない」けど、「鍼の後からだから鍼の可能性としてある」という結果にいきつくこともありそうですし、治療後に身体が不安定にならないように治療で注意をしないといけないのだろうなと思いました。
4.まとめ
神経麻痺ということで、自分だったらどうなのだろうかという思いがあったのでブログに書いてみましたが、報道で知った程度のことなので、本当はどうなのかという真偽については分からないですね。
プロ野球というお金が大きく動くところなので、何かの力が働いているという可能性を考えることも出来ますが、陰謀説の方ばかり注目していたら、自分のためにならないので、考えないようにしています。
治療者としては、相手をよくすることに集中するしかないので、身体が不安定な状態にならないように、治療の刺激がどのような変化を起こしているのか、圧痛や脈、お腹、顔色などをしっかりと観察しながら治療していくのも大切なのかなと思いました。