経遅(けいち)―月経異常と東洋医学

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 東洋医学では、月経周期が7日以上遅くなってしまった場合は月経異常である経遅として考えていきます。

 経遅が酷くなると数か月に一度の状態になってしまうので、病気が発生をしているのではないかと感じる人もいるでしょうし、病院の検査でも異常がなければ、自分の身体に何が起きているのか不安になることも多いのではないでしょうか。こういった場合は東洋医学で考えてみるのもいいと思います。

 

1.月経と東洋医学

 東洋医学では、臓腑、気血の働きによって身体の機能が保たれていると考えていくので、臓腑、気血がどのような状態になっているのかを考えておくことが大切になります。

 

 月経は臓腑では腎・脾・肝の働きが重要だと考えらえており、奇経では衝・督・任脈が胞宮から生じてきているので、治療では奇経を用いていくことができます。月経のメカニズムに関しては、過去のブログにも書いているので参考にしてみて下さい。

「月経のメカニズム―東洋医学で考える月経」

 

2.経遅を生じる原因

 月経は胞宮に血が充分にたまり、指示が適切にくることで生じると考えていくので、月経周期が遅れるということは、血が胞宮に十分にたまらない状況によって生じるか、指示が適切ではないことで生じるかの2点になります。

 

 血が胞宮に十分にたまるためには、身体の中に十分な量の血があり、血の流れが正常である必要があります。月経を考えていくのには、ダムの状況をイメージするといいのですが、血は水、放流管理が肝の疏泄になります。

 

 水が少なければ、十分に放流する量の水がないので、たまるまで時間がかかりますし、水がダムに流れてこなければ、水の量が少ないままなので、出すことができなくなります。放流を指示する働きが弱ければ、出すまでにも時間がかかるので、遅れてしまうことになります。

 

3.経遅と弁証

1)血虚による経遅

 血が不足をした状態だと、胞宮に十分な量の血をためることができないので、月経が生じるまで血をためなければいけないので、ためるのに時間がかかるので、経遅が生じてしまうことになります。

 

 血虚が生じる原因としては、生成が不足をしてしまった場合があります。血の生成は脾によって作られているので、血不足は脾が原因と考えることもできるのですが、血虚は心と肝に発生するので、心血虚か肝血虚で考えていくことになります。

 

 血は精神の働きと関係しているので、精神的な疲労が重なると血を使ってしまうために血虚が生じることがあります。もちろん、外傷での出血は血が出たということで、酷い出血の場合には血虚が生じると言われていきます。

 

2)血寒

 寒くなってくると、水が凍ってしまうように、身体に冷えが生じていると血の流れが停滞していくと考えていくので、冷えが生じている場合は、胞宮に十分な量の血が集まるまで時間がかかるために経遅が生じることになります。寒は実寒と虚寒に分けることができるので、弁証名に分けて説明を加えていきます。

 

①血寒による経遅

 外邪や飲食などが身体に影響していくと、身体の状態が変わると考えるのが東洋医学の特徴になるので、外部環境や飲食は月経にも影響を及ぼすと考えていきます。

 

 外邪は寒邪が中心になっていくので、冷えが強い環境にさらされていくと通常は適応していくのですが、適応する力が低下をしてしまうと、寒邪を取り除くことが出来なくなってしまうために、血が冷やされて流れが悪くなることで経遅が生じてしまいます。

 

 飲食の場合は、寒性の食事を続けていると、寒邪を摂取しているのと同じ状況になってしまうために、寒が血に影響をしてしまうと、血の流れが悪くなり経遅が生じてしまうことになります。

 

 これらの場合は、寒が身体に余分にある状態になるので、実寒による血寒により経遅が生じていることになります。

 

②陽虚による経遅

 身体が冷えているという状態を考えるときには、実寒か虚寒かを考えていくのが重要になるので、①の血寒は実寒で、②が虚寒になります。

 

 陽虚は身体を温める働きである陽気が不足をしてしまうことで、陰気が多い状態になってしまっているので、冷えの働きが身体に悪さをしてしまう状態になります。

 

 陽虚の発生しやすい原因は、気虚から進行してくることが多いので、疲労や過労が原因で発生してくることも多いです。気には温煦作用があり、気が不足をすると冷えが生じるので、気虚か陽虚かの鑑別は難しいところですが、冷えやすいは気虚、冷えが強いは陽虚で考えていくといいのではないかと思います。

 

③肝鬱による経遅

 肝の疏泄の働きは月経が生じることとも関係しているので、肝の疏泄が失調をしてしまっている状態は、月経を生じるという指令が出せなくなってしまうことになります。

 

 肝鬱は気滞と言われてくるので、気の動きが停滞している状態になるので、車が渋滞している道路みたいな状況ですね。そういった場合だと、緊急車両も通りにくくなり、時間がかかってしまうので、月経が遅れがちになりやすいです。

 

 肝鬱が生じる原因は、ストレスによって情志の抑うつが生じているので、ストレスの原因となる物を遠ざける、ストレス解消を心がけるようにしていかないといけないですね。

 

4.経遅の治療

 経遅の治療を行っていくためには、体質を見定める必要があるので、弁証を分けることで、原因・身体の状態を把握していきます。経早の場合は簡便な治療を紹介しましたが、経遅の場合は注意点があります。

 

 経遅では血虚と肝鬱が関係することがあるのですが、血虚の場合は身体の状態は虚証であり、肝鬱の場合は身体の状態は実証なので、虚実の鑑別をしっかりしておかないと治療が上手くいかないことがあります。

 

 虚証の人に瀉法を強くしてしまうと、身体が余計に疲労をしてしまいますし、実証の人に補法を強くしてしまうと、停滞が強くなってしまうために、虚の人には虚を強く、実の人には実を強くする治療になってしまいます。

 

 虚実補瀉の考えは知識として大切で、治療としては身体が勝手に反応をするとも考えられるのですが、補瀉法として決まっていることは、歴史的にも積み重ねられている物なので、変化を生じさせやすい方法とも言えるので、虚実の鑑別に自信がないときには、補瀉法を用いずに、関連する経穴だけを使う方がいいかもしれませんね。

 

 血虚の場合は、心・肝が関係をしやすく、肝鬱の場合は肝が関係をしやすいので、鑑別で難しい場合は、肝を使うのは間違っていないので、肝経の経穴を使って補瀉法を行わないで治療をするのもいいかもしれません。

 

 この場合は、身体が反応してくれるのを待つことになるので、イメージとしては、やや時間がかかるかなという感じなので、置鍼を使った治療をするのもいいのではないでしょうか。

 

 経遅は冷えによっても生じやすいですが、血寒か陽虚になるので、冷えが関係しているという場合には温法を用いて行けば、治療としては間違っていないので、比較的やりやすいのではないかと思います。

 

5.まとめ

 経早について書いてみて、ついつい気になって経遅についても一気に書いてみましたが、再度、考えてみることで、自分の中でも治療をどうしていこうか考えるきっかけにもなりましたし、補瀉についても再考してみてもいいのかなと思うようになりました。

 

 経遅の方を治療してみた感想としては、少し遅れる程度の場合は改善しやすいですが、1カ月以上遅れるのが当たり前という場合には少し時間がかかるかなという感じですね。

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