日本鍼灸の特徴として言われることがあるのが打鍼術ではないかと思います。打鍼は鍼をお腹において木槌で叩く治療方法になります。
治療で用いていくと、コンコンという音が響くので、治療を受けている方からすると何の治療をしているのか疑問に感じることが多い物ですね。鍼灸学校では名前は習うでしょうが、実技としては習うところは少ないのではないでしょうか。
1.打鍼術の成立
打鍼術は御園意斎(みそのいさい:1557~1616年)によって創案されたと習いますが、禅僧の無分斎(むぶんさい)によって作られた物を御薗意斎が習い、弟子の奥田意伯が刊行したのが『鍼道秘訣集』と言われています。
打鍼の起源を考えていくと、お腹の診方も関係してくるので、腹診の起源を調べていくことに近くなってしまいますね。調べられるだけ見てみると、腹診やお腹の治療を行う人達がいて、流派として秘匿されていた物の一部が打鍼術とともに世に残されたようですね。
腹診の起源に関しては、大塚敬節(おおつかけいせつ:1990~1980年)の腹診に関する「腹診考」が参考になると思います。大塚医師は昭和の漢方復興に尽力をし、北里大学東洋医学総合研究所の設立にも尽力された方です。
「腹診考」では、無分斎は禅僧の多賀薬師別当法印見宜白行院に習ったとされていますが、多賀薬師別当法印見宜白行院はいくつかの腹診を学んだという話があるので、それ以前から腹診があったので、打鍼術もあったかもしれないですね。
その当時も現在と同じように、自分が作ってまとめた知識や経験は財産という考え方があったようで、情報として多くは残っていないのですが、多賀薬師別当法印見宜白行院が習ったという話があるので、以前から腹診に対する考え方があったというのが分かります。
江戸中期以降は杉山和一(1610~1694年)の影響からか管鍼法が一般的になっていくようで、打鍼は衰退していったようです。
江戸期が終わり、柳谷素霊(やなぎやそれい:1906~1959年)が打鍼というやり方について紹介したようで、それ以降は打鍼を行う人達が出てきたようです。書籍として残っているところでしか情報を見ることが出来ないので、打鍼をやる先生は一定数いたのかもしれないですが、歴史に残るような人がいなかったのかもしれないですね。
または、書籍を書いていたとしても発見されていなければ分からないので、いつか打鍼に関する書籍が出てくるかもしれないですね。
打鍼に関しては、『弁釈鍼道秘訣集』という書籍があるので、こちらを参考にするといいと思いますよ。
2.打鍼の道具
打鍼の道具は特殊な物ですが、購入することができるので、自分で購入して臨床応用の道を探るのもいいと思いますし、書籍を参考としながら行うのも一つの方法だと思います。
打鍼は鍼を刺すというやり方もありますが、痛みなく刺していくのは難しいと思いますね。皮膚面に鍼を置いて木槌で叩く方法であれば、独特の振動を腹部に加えることができるので、振動での治療をしていくと考えてもいいのかもしれないですね。
打鍼で使う道具は、鍼だけでなく木槌も重要がありますが、慣れていないうちは、まっすぐに叩けないので、木槌が先に傷んでしまうことがありますね。
3.打鍼の治療
打鍼の治療を行っている人は多くはないと思うので、どのように行っていくのかは書籍を参考にしていくか、誰かに習うのかがいいと思いますね。
打鍼を受けた感覚としては、叩かれたその場所に刺さるように感じるとき、全体に響くように感じるときがあるので、自分が捉えた身体イメージと治療イメージがあるのであれば、感じ方によって治療を分けていくこともできるでしょうね。
場所を変えて連続して叩いていくこともできますが、鍼が滑りやすいですし、木槌もずらしながら叩いていかないといけないので非常に難しいですね。
打鍼は腹部に用いていくのが基本ですが、応用として手足の末端などに使用していくことができます。この時も、その場所だけや他の場所に響きが出ることがあるので、面白い治療法の一つだと思います。
4.まとめ
私は打鍼に関して習ったことがないので、書籍を読んだ中や話で聞いた程度しか知識がないのですが、道具としては使ってみたことがあるので、面白い道具だなと思っています。
普段に使うことはないですが、鍼の変わりに鍼管を木槌で叩いてみたり、指で鍼管を叩いてみたりすると打鍼とどう違うのかなと実験したことがあります。やっぱり、打鍼の鍼を使って木槌で叩くのが独特の感覚があって面白いですね。