生気通天論は、人間の生命は自然と繋がっていて、自然の陰陽と身体の陰陽が合わさることが大切という話しが書かれています。
生気通天論を読んでいて疑問に感じたところがあるので、今後のためにまとめてみたいと思います。
1.疑問に感じたところ
生気通天論では、五味と五臓についての話しがあるのですが、五行の表にある、酸味は肝、苦味は心、甘味は脾、辛味は肺、鹹味は腎と少し違うところがあるので疑問に感じました。原文では以下の通りになっています。
『素問』生気通天論
是故味過於酸、肝気以津、脾気乃絶
味過於鹹、大骨気労、短肌、心気抑
味過於甘、心気喘滿、色黒、腎気不衡
味過於苦、脾気不濡、胃気乃厚
味過於辛、筋脈沮弛、精神乃央
原文を見てみると、酸味は肝ですが脾と関係し、鹹味は大骨(腎?)ですが心と関係し、甘味は心ですが腎と関係し、苦味は脾ですが胃と関係し、辛味は筋脈で精神と関係しています。
最初の表現だと、酸味は肝、鹹味は大骨(腎?)、甘味は心、苦味は脾、辛味は筋脈なので五行の表と違いがあります。後半を見てみると、酸味は脾、鹹味は心、甘味は腎、苦味は胃、辛味は精神なので、こちらも五行の表と違いがあります。
五行の分類は時代によって違いがあるのは知っていますが、それが影響しているのか、それとも病能として観察した結果なのかも疑問です。考えているだけでは答えがでないので、手持ちの文献から一つ一つをみていきたいと思います。
手持ちで『素問』の解釈書は学苑出版の『素問釈義』になるので、『素問釈義』から内容、解釈、個人的な考えを書いていってみたいと思います。
2.是故味過於酸、肝気以津、脾気乃絶
まずはどのような注があるのかを見てみると、「津」は「潤」や「溢」とも考えられるようです。面白いと思ったのは、「酸多食之、令人癃小便不利、則肝多津液。津液内溢、則肝葉舉」と書かれています。
最後の文章の意味が難しくてよくわからないですが、「酸味を多く取ると、癃になり小便不利が生じることで、肝に津液が多くなる。津液が内にあふれ、肝葉が挙がる」ということなので、酸味は体内に水分を停滞させる働きということですが、酸味は収斂・固渋という作用があるので、外へ出る働きを阻害するのでしょうね。
『素問釈義』では後半の「脾気及絶」は、『黄帝内経太素』では「脾」は「肺」であるという説も出てくるのですが、注を見ると、脾での注釈、肺での注釈がありますね。それぞれ、「脾」の場合は木克土で説明されていて、「肺」の場合は金克木で木がだめになってしまったために、金が働けないという話しがあります。
水が沢山存在している状態だと、水が多いのを嫌う脾、水が停滞しやすい肺はそれぞれ障害されやすいので、両方の説はそれぞれ意味があるのかなと思いますが、私の感想としては、脾を障害する方が理解できます。
酸味は、お酢や発酵食品と関係をしていると考えられ、特にお酢の影響についての話しで考えれば、お酢を多く飲むようだと胃腸に負担がかかるので、飲食をする気持ちが低下をするでしょうから、お酢を多く飲んだ人に出てきた状態からこの文章を作ったのではないかと思います。
3.味過於鹹、大骨気労、短肌、心気抑
まずは「大骨」が分からないのですが、昔の人も同様みたいで、いくつかの注があります。「大骨」は「腎」や「命門の上の骨」などの意味があるようなので、腎と大きく関係をするようです。
「短肌」は肌の状態が短縮されたような感じのようなので、皮膚が張ってしまっている状態ではないかと思います。腎が弱ることで、脾が克するところがなくなるので、脾の働きが低下し、肌肉の異常が発生することだというような解釈もあるようですね。
心気が抑制されるという話しは、鹹味は血の流れを活発にすると考えられているようで、血が心にいかないために心気が低下をしてしまうようですが、『黄帝内経太素』には「心」の字はないようなので、「心」が無い状態で考えると、腎の働きが低下をすることで気(生命)が低下をしてしまうというところでしょうか。
鹹味というと塩分になり、身体に必要な物であると同時に、30~300グラムの摂取では生命に危険を及ぼす物質に変わります。塩分の過剰摂取は身体に浮腫みが生じやすくなるので、肌が張った状態になりやすいでしょうし、塩分を大量に摂取し続けると喉の渇きが強く出て水分を多く摂取することになります。
水分を大量に摂取すると、排泄も多くなるので、排泄によってカルシウムが放出されるので、骨がもろくなってしまいます。大量の摂取であれば塩分中毒とも言えるので、頭痛、嘔吐、口渇、発熱、下痢、意識障害が発生し、脳出血を起こしてしまう場合があるので、脈の異常が発生すると考えると心気に影響が生じてしまうという意味でも良さそうな気がします。
4.味過於甘、心気喘滿、色黒、腎気不衡
こちらも『黄帝内経太素』では「甘」は「苦」、「衡」は「衛」と書かれているようなので、複数の解釈をしていくことが出来てしまいますね。『黄帝内経太素』の解釈であれば、苦い物を食べ過ぎると心の働きが低下し、色が黒くなり、腎の働きが低下をするということでしょうか。
心火が強くなることで、身体は焦げたような状態になるので、黒となり、心腎という水火のバランスの失調ということになるのかもしれないですね。ただ、そうなると、甘味から心、腎という繋がりの話しではなくなります。
甘味が過ぎる状態は、糖尿病が発生しやすくなるので、甘味と身体へ生じる変化、糖尿病として考えていく方が私に取っては理解しやすいですね。
甘味を多く摂取することで、胸苦さやだるさが生じることがあるので、食べ過ぎてしまったことにより、心気(胸?)がいっぱいで息苦しい感じが続き、だんだんと色黒にあり、腎の働きが正常を失ってしまうのではないでしょうか。
腎の働きが失調してしまうことを、心腎の水火バランスの失調として考えるのか、それとも腎の力が低下することで生じやすいのは、尿の異常なので、糖尿病で生じやすい症状の多尿と繋げることもできるのではないかなと思います。
5.味過於苦、脾気不濡、胃気乃厚
こちらも『黄帝内経太素』では「苦」は「甘」であると書かれているようで、「不」の文字が入っていないようです。こうやって見ていくと、文献によって違いがあり、しかも意味内容が全く変わってしまうので、多くの文献がないと確認することもできないですね。
「甘」で「不」が無い状態で理解をすると、甘味を取り過ぎると脾気は濡になるので、胃気が強くなるというところでしょうか。脾は湿を嫌い、胃は湿を好む傾向があるので、甘味は湿性があるものなので、納得しやすい内容にまとまりますね。
苦味は熱を冷ます働きがあり、下降の力があるので、苦味を取り過ぎることにより、脾気に失調が生じ、胃気が停滞することにより、お腹の張り(厚)が生じるという説明もありますね。
苦味は生物に取って危険かもしれないと思わせるような物なので、慣れないと食べられないことが多いですが、苦味を多く摂取すると腹痛や下痢を起こすので、苦味が脾を低下させ、胃の働きを強くしてしまうことで下痢、腹痛が生じるという方が身体の働きとしては正しいのではないかと思います。
6.味過於辛、筋脈沮弛、精神乃央
『黄帝内経太素』では「沮」は「涅」、「央」は「英」だとしているようです。意味内容的には違いが出てくるのでしょうけど、このままの文章でもいいのではないかと思います。
五行の話しを加えた注があるのですが、そこでは、辛味によって肺の失調が生じ、金克木により、木である肝と関係する筋に問題が生じるという話しがあります。辛味は気の消耗につながり、精神は気として考えると、辛味は精神を尽きさせる(央)働きがあるということです。
辛味を摂取すると発汗も多く出て、身体が活性化する感じがありますが、過ぎれば身体を無理に働かせることになるので、気血の消耗が進み、筋・精神へ問題が生じるのはイメージしやすいですね。
7.まとめ
五味と五臓について疑問に感じているところを抜き出して書いてみましたが、本文は非常に短いのに、結構な長さの文章になっていました。古典は文献が多くないと理解しにくいですが、気になったところを集中して考えてみるだけでも、自分の勉強としていいと思いますよ。