治療院では自費治療と保険治療で悩んでいるところも多いですが、どちらの方がいいのでしょうか。
1.保険治療
保険治療は健康保険が使用できる治療のことで、年齢や収入など様々な要件がありますが、自己負担金1~3割で、全国一律で同じ治療を受けられるというシステムになります。日本は国民皆保険制度があるおかげで、基本的には、どこかの保険に属することになるので、ほとんどの人が安価に治療を受けることができ、高額な医療費がかかったとしても、医療費控除や高額療養費という制度があるので、保険を使った場合は、支払が軽減されるようになっています。
保険医療については、国が主導となる公的な制度によってカバーされていますが、医療の供給に関しては、民間主導で行われ、フリーアクセスが可能となっています。フリーアクセスとは、個人でも割増料金を払えば大病院の外来を受診することが出来るので、どの医療でも受けに行けることです。国が目指しているのは、地域担当医から大病院に行って、ゲートキーパーの役割をして、制限したいのですが、なかなか簡単にはいかないですね。
海外在住者の話しを聞くと、国にもよりますが、ゲートキーパー機能が機能している国は、簡単には大病院に行けないし、地域担当医を受診するのにも時間がかかるので、風邪などでは病院に行かずに、自分で対処するという話しも聞きますし、健康に対する意識が高まりやすいでしょうし、医療費の抑制にはなりますね。
保険制度は、当時のドイツを参考に作られていますが、病気になって、働けない人が増え、医療が整っていないと、納税できる人達も減ってしまい国力が低下をするのを防ぐ目的から始まり、変化している物です。
1972年に老人医療費無料化が行われたことで、通院する人のコスト意識が低下し、過剰診療が行われるようになったのもあり、医療は安く行うのが当たり前という風潮を招いてしまったことで保険財政の悪化が生じています。
保険制度自体は多くの人が金銭を負担し、病がある人を互助するような働きがありますが、経済発展をして、人口が増えているのであれば費用負担をまかなえますが、現在のように経済が停滞して、人口が減る状況では互助することができないので、保険財政は悪化しやすい状況です。
寿命が伸びたことで医療を受ける老人が増えたことで、医療財政だけでは対応できなくなってきたので、介護保険が導入されていきます。医療は状態をよくするというのが前提なので、治癒か固定(症状がもう変わらないので医療を加える見込みがないので医療の打ちきり)になります。
介護は日常生活を営むことが困難な人に対して、自立を図ることを目的として、家事や健康管理などを行うことなので、医療と前提が違うものです。
こういった点を踏まえると、保険を使った治療は、長く行う物ではなく、短期でよくするために利用される物ですが、現代医学もですが、建前通りいかないので、様々な問題も発生します。
鍼灸や柔整でも保険制度を利用できますが、長期で継続して通う場合は、それは本当に医療なのかという話しにもなりやすいです。鍼灸の場合は、慢性疾患なのでまだいいのですが、柔整の場合は骨折・打撲・捻挫という急性疾患が対象なので、3か月程度で行うもので、段々と通院回数が減るのが当然という前提になります。
延長料金という形で別料金を取る場合もあるでしょうが、医療保険で行う医療は1処置なので、時間の概念がないので、延長で料金を取るのは本来できないですね。なので、通常は別処置という扱いで別料金になります。
医療保険制度に関しては、歴史や問題点など踏まえ、非常に細かく書かれている書籍があるので、そちらを参考にしてみてください。
『日本の医療―制度と政策』
2.自費治療
保険治療では制度を利用することになるので、制度に則って行わないといけないですが、値段も安く設定されているのと、時間という概念がないので、早く大量にこなさないと経営が成り立たない状態になりやすいです。
さらに医療制度では、疾患などになった人が対象になるので、予防に対する支給がないですし、最先端医療など制度に採り入れられていないものは、保険で対応することができないので、自費治療になります。
妊娠・出産も健康な人なら当然にありえることだということで、保険治療ではありません。ということで、妊娠・出産は自費になりますが、人口が増えないと経済も国力も低下するので、妊娠・出産に関してはサポートがあります。
保険医療では安く、早く行わないといけないので、予防もしっかりしたいという場合は自費治療を中心にする場合があります。保険医療だと安いし、文句も言われやすいから自費治療に移行するという話しも聞くことがあるので、鍼灸・柔整でどういった形にするのかは、その先生の考え方にもよるでしょうね。
3.自費治療と保険治療のビジネスモデル
1)自費治療のビジネスモデル
自費治療のビジネスモデルは、治療者が値段を決め、消費者が利用するということで、個人間の取引になるので、ビジネスモデルとしては「C to C」になります。個人対個人になるので、個人評価が重要になってくるので、個人としてのブランディングが重要と言えますね。
- C:Consumer(消費者)
- B:Business(企業)
何に特化をしているというのも重要ですし、多くの人に知ってもらわないといけないので、ホームページなどを作成しているところが多いですね。ホームページに写真やブログなどがあると、治療者を近くで体感した気になりやすいので、多くの治療院が写真・プロフィール・ブログをやられていますね。
治療院を企業・会社として捉えれば、「B to C」になりますが、この場合は、会社としてのブランディングが重要になるので、統一したホームページを作成したり、広告をまとめたりすることで、数が多いメリットを利用できることになります。
基本的には、消費者と直接つながって販売するようなものなので、詳細な手法としては回数券や紹介割引など料金に合わせた物が利用されることが多いですね。
2)保険治療のビジネスモデル
保険治療のビジネスモデルは非常に秀逸に出来ていて、「C to C」が基本なのですが、保険という収入があるので、「C to B」も含まれていきます。ビジネス用語だと難しくなるので、文章にしますが、消費者は保険の料金を定額で支払い、保険治療を受けたときには、一部負担金を支払って終わりですが、治療院は保険者に請求をして残りの金額をもらう形になります。
消費者は一部負担金だけで済むので、安く治療を受けることが出来るし、自分が全額をその場で支払ったという実感を伴わないので、金銭を失うという損失感に乏しくなります。その状況だとどうなるかと言えば、もう少し受けてもいいかもという考え方になるので、継続した通院に繋がりやすいです。
こういった状況は治療院としては収入を作りやすいのですが、医療財政からしてみたら、好ましいことではないですが、継続しやすいことから通院するのであれば、早く治癒して社会復帰が出来るので、悪い点ばかりではないですね。
財政のことを主に考えて、個人が医療に関心を持ってもらうためには、支出は個人が全額支払い、個人が保険者に請求して負担金以外を受取るという形にすると、手間が増えるので、受診しようという気持ちを低下させることが可能でしょうが、個人と保険者の手間が増えるので、導入は難しそうですね。
保険というビジネスモデルは誰でも利用出来る訳ではなく、資格制度になっているので、参入障壁が高いので、恩恵もありますが、制約もあります。
電子カルテ化し、医療情報が統一されるようになると、どういった医療を受けたかが一瞬で分かるようになるので、厳しいところも出てくるかもしれないですね。
4.自費治療と保険治療の今後
自費治療か保険治療かを考えていくと、今後は保険財政も増々厳しくなっていくでしょうし、電子カルテにより医療情報の統一が行われていくと、鍼灸マッサージは大丈夫そうですが、柔整は保険の主旨に則っていないところは厳しい状況になるでしょうね。
自費治療は制約がないので、自分のスタイルの確立し、一般に受け入れられれば伸びるでしょうし、伸びることはあっても低下することは少ないと思います。ただ、自費ということは制度から外れるので参入障壁が低いために、競合が多くいて大変でもあります。
鍼灸は鍼灸師以外では、医師しかできないので参入障壁が高いですが、手技系は美容・整体・リラクゼーションなど多数あるので、柔整のみから自費治療を行うと言うのであれば、しっかりと自分のスタイルを確立していくことが必要だと思います。
今後、日本はオリンピックをひかえていますが、オリンピックまでは経済が順調で、その後は低下するだろうという予測もあるので、その場合は、保険治療だけではなく自費治療も難しくなるでしょうが、観光立国の状況を作れれば自費治療は伸びそうですが、言語対応を考慮しないといけないと思います。
5.まとめ
自費治療と保険治療について、自分なりに思っていることをまとめてみましたが、まだまだ分からないことも多いので、本当に正確なのかと言われると難しいですね。ただ、今後の保険が厳しいというのは財政を考えても当然なので、保険に頼るだけではなく、自費についても考えていくのが大切だと思います。