東洋医学の概念では証という状態を決定し、標本・主客を決定して治療を行うことが大切だとされていますが、これは、治療のポイントを絞るため、結果を出すためも重要になります。
主客は標本と考え方が似ているものですが、東洋医学の考え方としては標本が重要としてよく出ている言葉なので、標本について説明していきます。
標と本は物事を二つに分ける考え方でもあり、どちらが本質で、どちらが表面上・一時的なのかということにも繋がります。例えば、姿勢が悪くて、頚肩の問題が生じたのであれば、頚肩に対してアプローチをしても、普段の姿勢がよくならない限りは本質的な改善をしにくいです。
ということで、姿勢が悪いのが本で、頚肩の問題が標になるので、治療においてどちらを主として行うのか、それとも両方行うのかという選択をすることになります。
頚肩が痛くて来院されたのであれば、頚肩の問題が改善しないと、満足する訳はないので、標に対処することになります。姿勢を変えたら痛みが改善するのであれば、姿勢の改善という本の治療で、標に対する治療は勝手に終わることになります。
通常の治療では、主訴として来院した標に対してアプローチしながら、本を改善していくというのが多いのではないでしょうか。
普段、体質改善で治療をしていたとしても、ギックリ腰などの急性の症状が出ることがあるので、その場合は、体質改善を行うよりも、まずは歩かせることが重要になるので、本の治療ではなく、標の治療が重要になります。
多くの治療院では、標と本のバランスを見ながら、標治、本治、標本同治を行っていくのではないでしょうか。
治療に慣れてくると、標本を考えなくなって、その時の状況に合わせて治療を行っていきますが、病能が複雑化していくと、基本である標本に戻って考えてみると物事を整理してポイントを絞ることができます。
例えば、頭痛、肩凝り、腰痛、冷え、のぼせを患者さんが訴えたとしたら、病能をしっかりと理解しないと本で治療することができないです。治療に慣れて行けば、五臓六腑のどこからアプローチするというのが決定するのでしょうけど、実は本当の本は別のところにあることもあります。
例えば、この患者さんが、小さな子どもがいて、夜泣きもしているので、世話をしないといけないし、抱っこもすることが多くて眠れていないし、肉体的な疲労があるとすれば、実は本は「子どもの夜泣き」の場合があります。
この場合は、患者さんの治療は全て標になり、夜泣きの治療が本になるので、原因と病能の関係性を繋げていくことができます。
実際に私も以前に寝違えの治療をさせてもらっていたら、実は子どもが夜泣きをするので、抱っこをしながら、変な姿勢で朝方まで寝てしまったということがありました。
初診だったので、最初は、起床したら寝違えていて、段々と痛くなってきて動けなくなったので、辛すぎて来院したという話しだけだったのですが、話しを尋ねていくと、「子ども」が本だったということがあります。
こういった場合は、本の治療が大切なので、子どもの夜泣きも治療できますよという話しをしたのですが、頚部の痛みが改善したら来なくなりました。私自身が辞める直前だったので、その後に何度来院したのかは分かりませんが、私がいる間は来院しなかったですし、子どもを連れてくることもなかったので、この症例は標治のみで終わりました。
理想は本治なのですけど、標治だけで終わってしまうという実例でした。