症例1_解説と治療

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 症例1の解説と治療ですが、肝血虚による肩こりと考えていくことができます。治療効果の持続がみられないのは、局所治療では血の流れを良くすることが出来ても、血の不足を補っていないからだと考えられます。

1.解説

 筋は血で栄養され、五行では木に属するので、肝の病証ということが分かります。持続的な効果がみられないのは、局所の血流改善を図っても、血が足りないために肩の経筋が滋養されないために生じていると考えることができ、筋を滋養出来ていないので、足のつりも生じているのではないかと推察できます。

 

 肩こりは高校生のときから始まっていとのことですが、その理由を尋ねておくことが重要になります。例えば、高校生のときに受験勉強を始めてから肩こりが生じたというのは非常に多く、最近では「お受験」をする小学生なども肩こりを訴えることもあり、その原因は勉強をしないといけないというストレスから生じていることが多いからです。

 

 出産歴の確認は、出産は精・気・血の不足を生じやすく、出産後から体調が変化することがあるので、確認をしておくことが必要になります。

 

 後頭部の締め付けられる感じは、現代医学的には筋収縮性頭痛ではないかと考えることができますが、東洋医学的に考えれば、血によって、後頭部の経筋が滋養されないことによって生じたのではないかと推測でき、側頭部痛も同様に考えることができます。

 

頭痛の経絡による分類では、肝は頭頂部、胆は側頭部と関係し、肝の病証のときにも生じることがあります。肝による頭痛は肝気上逆とも呼ばれ、肝火や肝陽によって生じることがあります。血は陰陽の分類では陰に該当し、血が不足すると陰の不足につながりやすく、肝陰虚や肝陽亢進のような症状を生じることもあります。

 

睡眠は血が肝に収まっていないと質が低下しやすい傾向があり、便秘は血の滋養が不足すると、便の形成に問題が生じ、ころころとした硬い兎糞状の便になることもあるので、便の状態も質問をしてみるといいですね。血が不足した状態では、月経周期が遅くなることもあるので、月経周期の確認をしておくことが大切になります。

 

2.治療

 肝血の不足に対しての治療が根本になるので、肝経と血会の膈兪を意識していきます。肝血の治療に対して太衝穴は治療効果が高いとも言われるので使うのもいいと思います。

 太衝穴は学生時代の刺入では痛く響きが強くて苦手意識を持つ方も多いと思いますが、卒業してから注意をするように刺入をすると思ったよりも痛くもないですよ。痛みを軽減させるのには、切皮をする前に、皮膚を押手で皮膚を抑えないといけないのですが、中足骨があり、押手がしっかりと構えられない場所なので、押手を構えたときに、指先を確認しておくと切皮痛が出にくくなります。響きに関しては、刺入後に感じることもあるのですが、足底に抜ける響きが生じやすいのは1㎝近く刺入してからになるので、怖ければその前で刺入をやめるといいですよ。

 膈兪は、背部の刺入になり、刺入進度と方向に危険性を伴う傾向があるので、取穴をするときには、棘突起からの距離に気をつける必要があります。慣れないうちは、左右で鍼を刺入した場合、上面から全体を見てみると、手前か奥に偏るように刺入していることが多いので、慣れてきても刺入位置に問題がないのかは刺入する前に確認することが大切になります。

 

 血の生成には脾胃の働きも密接になるので、脾・胃経の経穴も選択対象になっていきます。有名な足三里や三陰交もよいでしょうし、三陰交は足三陰経の交会穴とも言われるので、血に対する治療効果が高いところにもなります。血海も「血が集まる(海)」という意味があるので、血の病証の時には治療効果が高いところになります。

 背部は膈兪を使うのも大切になりますが、肝の病証にもなるので、肝兪・胆兪を用いるのもいいですね。排便の状態も気になるのなら大腸兪も足すことによって、通便する働きもあるので使ってみるといいと思います。

 手技療法で施術をするときにも、肩周りだけではなく、ここでツボの話しをしたように背部、下肢への施術がこの症例では効果がみられる可能性があるので、東洋医学の考えを使うといいと思います。

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