鍼灸の年間受療率(1年間で受けた人)は約5~7%と言われていて、生涯受療率(一生の間に受けた人)は約20~30%と推測されていて非常に少ないと言われていますが原因は何なのでしょうか?
受療率のデータは「森ノ宮医療大学鍼灸情報センター」を参照にしています。受療率が低いと言っても他のデータがないとイメージがないとイメージがつきにくいと思うので、症状がある人がどのぐらい鍼灸を受けているのかを考えてみたいと思います。
厚生労働省が実施している調査に平成22年国民生活基礎調査の概況があり、年代別の自覚症状の状況(有訴者率)があります。そこに鍼灸の受療率を7%とすると、症状がある人のどのぐらいが鍼灸を受けているかになります(いろいろと誤っている可能性もありますが何となく分かってもらえれば・・・)。
年齢 | 有病率% | 鍼灸受療率% |
9歳以下 | 24.81 | 1.74 |
10~19 | 20.34 | 1.42 |
20~29 | 22.19 | 1.55 |
30~39 | 27.24 | 1.91 |
40~49 | 29.21 | 2.04 |
50~59 | 32.13 | 2.25 |
60~69 | 38.16 | 2.67 |
70~79 | 48.43 | 3.39 |
80歳以上 | 52.51 | 3.68 |
総合 | 32.22 | 2.26 |
病院で治療をしている方もいるでしょうが、実際は何もせずに、そのまま放置をしている人も多いのではないかと思います。少しでも鍼灸を受ける人が増えてくれれば、「辛い」という症状を改善できる可能性があるのでもったいなく思います。
この受療率は特に変化がある訳ではないようなので、原因が何かを考えないといけないのですが、鍼灸師の数が増えたので技術の低下を上げる場合もありますが、昔は全員が素晴らしく技術が高かったのでしょうか?
この辺りに正解はないのですが、人の集団ということを考えたときに、「2―6―2」の法則に当てはまるのではないかと思います。この法則は一つのグループを出したときに、2割が非常に優秀で6割が普通、2割が不良者と言われます。ただし、不良者2割だけで集団をつくると同じように「2―6―2」に分かれると言われます。
これは働きアリの法則と言われますが、人間のグループで考えたときにも応用できるので、ビジネス書にもよく見られる内容です。似たようなものに「パレートの法則」「2―8の法則」というのがあり、2割の顧客が8割の売上を作ると言われ、2割が牽引しているとも言えます。
こういった点で考えてみると、鍼灸師は技術職なので、全員が死にもの狂いで努力をし続けていると信じたいですが、これらの法則から考えるとそうではないとも言えます。ありとあらゆるところに職人がいて、調理職人、物作り職人などがいますが、全員が高い技術という訳ではないですよね?
ということは、昔の学校が約25校で60名ずつだとすると、1500人の鍼灸師がいる場合、上200人、中900人、下200人と考えることができますね。しかも競争が高かったので、能力が高いけど入れなかったという状況もあったと思います。
現在の学校数を約65校で60名ずつだとすると、3900人の鍼灸師がいる場合、上480人、中1440人、下480人と考えることができますね。そうなった場合、技術が低い人も増えていると言えますが、上も増えていると言えます。
さらに昔の時代では徒弟制度を経て試験を受けることになったので、優秀でも出来なかった人もいるのではないかと思います。門戸が開かれた分、優秀な人も入ってきているでしょうし、市場原理から出来ない人は去っていく状況はあるのではないかと思います。
現在は、国家試験という基準もあるので、資格を取って技術が低い人もいるでしょうが、市場原理から淘汰されてしまう状況は昔から変わらないと思うので、受け皿は広がっているはずなのに受療率が低い状態です。
徒弟制度があったから昔がよかったという意見が出る可能性がありますが、全ての鍼灸師が師匠に付けていたかというのも疑問点として残りますし、優秀な技術者は独自で成長を遂げることも多いので、徒弟制度だからいいというのも疑問があります。
現在だと、インターネットも普及し情報が広がったので、口コミ以外でも情報が得られる状況になったので、鍼灸以外の療法も多く、そちらに受療率が流れているのではないかと思います。
何故、鍼灸の受療率が上がらないのかといえば、「分かりにくい」「痛そう」「熱そう」「どういうときに行くのか分からない」というイメージではないかと思うのが私の結論になります。
これから、超高齢化社会になり、医療・介護の手が足りなくなる状況では、医療費の抑制も生じる可能性があり、そうなるとQOL・ADLの低下がしてしまうと動けない人が多くなってしまうので、家族介護で労働人口がより低下をしてしまう可能性があるので、鍼灸の受療率が向上し、QOL・ADLが低下をしていかないようにしていきたいと思います。
鍼灸の情報発信はこれからも増えていくでしょうが、大きな広告が入らない分、地道な活動が必要でしょうし、10年前と比べると、一般向けのブログや内容も増えてきているので楽しみなところでもあります。
参考文献
あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師学校養成施設の変遷と現状-特にその創立期に着目して-、箕輪 政博・形井 秀一、全日本鍼灸学会雑誌,2006年第56巻4号,644-655