腹診―難経系腹診と傷寒論系腹診

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 鍼灸の診察ではお腹を診るという腹診があり、他の国にくらべ日本ではよく使われている方法になります。

 中国では発達しなかった腹診が日本で発達した経緯は人の身体に触れるのが日本では抵抗がなかったのからかもしれないですね。

 

 『東洋医学概論』の新しい教科書を見てみると、難経系腹診と傷寒論系腹診として分けられています。難経系腹診はお腹に臓を配当させる方法で、心窩部が心、右腹が肺、左腹が肝、下腹部が腎、臍のところが脾という分類になります。

 

 難経系と書かれているのは『難経』が鍼に関して使われている書籍なので、一般的にはよく用いられているものになります。傷寒論系腹診は以前の教科書で出ていたのは特定腹証という表現の内容になります。

 

 特定腹証というのは、腹部にある特徴的な所見によって、病能を把握できるというもので、いくつかの種類があります。

 

 心窩部につかえと硬さがある場合には心下痞鞕と表現をされていて、心の病証として捉えられることが多いので、漢方薬では瀉心湯類が使われることが多いですね。痞は自覚的なつかえるような感覚で、鞕は触って硬いということなので、両方がある場合は痞鞕になります。

 

 心窩部の問題は臓としては心として捉えられるので、心の病証と考えることが出来るのですが、腹部の痞え(つかえ)は脾の症状に一つでもあるので、脾の病証の場合があります。

 

 胸脇苦満は国試のときにも覚えた内容ですが、胸脇部が張って辛いや押すと痛みが生じる場合のことを言います。この状態になりやすいのが女性の月経前にもなるので、女性が生理前で胸が張るのは気滞によって生じると考えられます。

 

 臍下不仁・小腹不仁はへその下が軟弱や力がない場合のことを言いますが、この部位には先天の精が変化した原気があるところなので、生命力の低下を考えることができるところです。高齢者の方ではよく診られるので診察の時に注意をするといいですね。

 

 少腹急結は左少腹が関係をすることが多いので、少腹急結は左少腹部の痛みと考えてしまうのが早いと思います。病証としては瘀血が関係すると言われるので、刺しこむような痛みが生じることがあります。

 

 これも女性は月経のときに感じやすいものなので、月経前後にこの部位に痛みが生じるようだと月経血に血塊が混じっていることが多いです。生理痛と言ってもどこが痛いのかしっかりと尋ねておくことが大切になります。

 

 これ以外には心尖拍動部は虚里の動(こりのどう)と言われ、左乳根が当てはまります。腹裏拘急(ふくりこうきゅう)はお腹のひきつりで、疲労と大きく関係をしやすいものです。

 

 裏急後重(りきゅうこうじゅう)は腹痛で排便をしたくなり、排便後に残便感が生じるような状態なので、お腹の調子が悪いと言われる状態になります。

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