季節による刺入深度の決め方

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 鍼灸では、昔から行われている治療法になるので、季節のよる刺入深度の決め方もあります。

 季節によって刺入深度の決定に関しては、詳細に考えていくと難しいことがあるので、東洋医学の考えを使って、季節によって身体がどのように変化をするかを考えておくのが簡単だと思います。

 

 春夏秋冬という四季がある中で身体がどのように変化をするかと言えば、それぞれの季節が持つ性質が身体に影響をすると考えるのが大切になります。春は木、夏は火、秋は金、冬は水と考え、各季節の間は土という考え方になります。

 

 五行の働きは、五能というので説明をされているのですが、木は生、火は長、土は化、金は収、水は蔵と言われています。生は物事が成長発育していく状況なので、草木が土から出てくるような状態を指します。

 

 長は成長がピークに向かう状態のことを示しているので、上へ上へと伸びていく力が強いことになります。化は、季節が変化をしていくということで、身体が順応をしないといけない状況なので注意が必要な季節になります。土用の丑の日に精力をつけるという考えは、江戸時代にウナギを売るために考案されたもので、本来は土用の丑の日は身体を養うために胃腸に負担をかけないものを食べるのが大切になります。

 

 収は、草木が枯れていく状態を示すものなので、だんだんと低下をしていく状態のことを意味しています。蔵は草木が寒さから逃れるように、土の奥深くに隠れている状態のことを示しています。

 

 こういった五能の働きが身体に影響を与えているので、人体も季節によって気血の動きが変化をしていきます。例えば、春から夏にかけては、成長発育が強くなる時期であり、気血の働きも活発にならないといけないので、身体の内側よりも外側に気血が流れていくことになります。

 

 秋・冬は収と蔵の働きが中心となっていくので、表面にあった気血が身体の中の方に入っていく状態になると考えていきます。

 

 これを感じるのは、熱い時期は薄着になり、気血の熱さに対抗するために発汗を行いますし、血流が盛んになるので、皮下静脈が浮き出やすくなります。この皮下静脈が熱いときに見えやすいということで、気血は季節の働きの影響を受けると考えたのだと思います。

 

 秋・冬という寒い季節になると、熱さに対抗する必要がなくなり、身体に熱を留めないといけない季節になるので、皮下静脈の浮き出る様子がなくなってくるので、収・蔵の働きが身体に影響をしていると考えていきます。

 

 こういった季節による働きかけによって気血の流れが変わるので鍼を刺入する場合は、その季節にあった深さに刺入することが大切ということになります。

 

 春・夏の時期は、表層に気血が流れてくる時期になるので、深く刺入するよりも表層で治療を行う方が治療効果は高いと言えます。特に、夏の時期は熱さも強い状態なので、夏の時期はより表層から治療を行うのが適切な方法だと言えます。

 

 秋・冬の時期は、気血は表層ではなく深部に流れている時期になるので、鍼の刺入は深くしないと気血への影響が少なくなってしまうので、刺入深度を深くすることが大切になります。ただし、中に籠っていなければいけない時期に当るので、表層に気血が流れてしまうようだと気血を消耗してしまうことになるので、冬の時の刺入ではより気血を漏らさないようにすることが重要になります。

 

 土の時期は身体が大きく変化をするときになので、治療においては慎重にすることが大切になります。土用の時期は各季節にある立春(りっしゅん)・立夏(りっか)・立秋(りっしゅう)・立冬(りっとう)の直前18日が当てはまります。この時期は身体の状態が不安定になることが多いので、食事に注意するのはもちろんですが、労逸(ろういつ:労倦と安逸)にも注意をする必要があります。

 

 例えば、高齢者が亡くなる時期は熱さや寒さが落ち着いた頃と言われることがありますが、これは変化の土用に該当をする時期とも関係をしやすいと言えます。

 

 五行の性質では他に五主(筋・脈・肌肉・皮毛・骨)という考えがあり、五主に対応して治療を行えば五臓に対して治療を行えると言えるのですが、季節のことは考えていないので、全身治療を行う際の刺入深度で季節のことを考えてみると治療効果が変わることがあります。

 

 一人の人を治療していて、いつもは深く刺入をしていたのに、浅く刺したら効果があったというのは五主だけではなく、季節の刺入深度を使ったからということも言えるので、季節によって身体が変化をするというのは知っておいて損はないですよ。

 

 治療で悩んだときに、冬だから少し深めにしてみるかという話しになれば、いつもの治療と変えるきっかけになることがあります。

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