鍼灸学校の実技の練習でも使ったところで、自分で練習しやすいところなので、日常的に使うのが足三里です。一般の人でも知っている人が多いツボの一つですね。
足三里の意味は、膝下3寸という意味でつけられたという説がありますが、それ以外に腹部の三部に対して治療を出来るので三里という名前になったという説があります。三里の三は3を意味して、里は人が集まるところなので、3つが集まるという意味ですね。
三部の中で、上・中・下焦という説があるのですが、胃経の流注で考えれば、上・中・下焦に関係をするとも言えますが、腹部の疾患に多用することと、文献から考えると、上腹部・下腹部・腹部の中と考えるのもいいのではないかと思います。
治療で使う内容を見ても、腹部疾患に対して効果が高いということが分かるので、四総穴でもお腹の治療は足三里と言われます。
足三里と言えば、お腹の治療として有名ですが、お灸博士の原志免太郎(はら しめんたろう)先生は足三里の灸を勧めていたのも有名な話しです。原志免太郎先生は、1882年に産まれて、医者として働いていたのですが、お灸で免疫力があがるのを発見して、お灸博士になりました。業績は多岐に渡っていながら、自身の足三里にお灸をしていたので、男性長寿日本一を達成したと言われています。この研究自体はヒートショックプロテインの初期とも言えますね。
他には、江戸時代に旅をしながら俳句を書いた松尾芭蕉(まつお ばしょう)の『おくのほそ道』の中にも足三里が登場します。『おくのほそ道』の序文に足三里の記述があります。
ももひきの破れをつづり、笠の緒付けかえて、三里に灸すゆるより、松島の月まず心にかかりて、住める方は人に譲り、杉風が別墅に移るに、草の戸も住替る代ぞひなの家、面八句(おもてはちく)を庵の柱にかけ置く。
何故、三里の灸が出てきたのかと言えば、昔は、三里に灸の痕がない人と一緒に旅をしてはいけないと言われていたそうです。
昔は水の衛生問題もあったし、食事で体調を崩してしまうと旅が出来なくなりますよね。足が弱くて疲れたと言っても電車もないですし、宿も今よりは少ないので目的地まで行けないと、旅に支障が出るだけではなく、襲われてしまうかもしれないので、歩けるということが大切ですよね。
足の疲労をしっかりと取るということと、お腹の調子を整えておくというのは、旅をする上では必須のことだったので、足三里にお灸をすえておくことが大切だったのだと思います。この考え方を我々の生活で考えれば、足を丈夫にして、お腹の調子を整えるのには、やはり足三里がいいと言えますね。
足三里についてネットで調べるといろいろな情報がでてきますが、それだけ重要なツボの一つなのだと思います。
老年医学に関する論文でも足三里の効果を見ることができます。足三里と太渓に直刺して15分間の置鍼を行うと、高齢者で問題となっている嚥下障害・誤嚥性肺炎・歩行障害・緑内障・排便障害に対して効果があると言われています。
「老年医学と鍼灸」関隆志、全日本鍼灸学会雑誌、2010年第60巻1号13-22
足三里は足の陽明経の経穴になるので、下腿・大腿・胸部だけではなく、喉・顔面部に流注しているので、嚥下などに対する問題に対処できるということですね。流注をしっかりと覚えておくと、いろいろな症状に対して治療を行うことが出来るので、ツボだけではなく、経絡の流注を覚えておくのは大切ですね。
刺入は深くても入るところですが、5~1㎝程度の刺入の方が効果は出やすいのではないかと思います。切皮でも使う人もいると思いますが、切皮だけだと胃経の他の経穴を使った方が効果は出やすいと思います。
有名なツボで使いやすいツボなので、少しずれたところで施術をしていたとしても、長年行っていれば、効果が出やすいところを探すようになるでしょうし、よく使っているから再現性も出るので、取穴は、治療者ごとの個人差が大きいと思います。
実技を見ることが出来る場で足三里の取穴を見てみると、違いがあるので、やはりよく使うだけに個人差も大きくなっていくのだと思います。
足三里は胃経のツボになりますが、脾胃は連携して働いていくので、気血津液精陰陽の生成を行っているので、どんな人にでも使いやすいところだと思います。
学生時代は鍼を足三里に行うと、ひびきが残って辛い思いをしたツボですが、臨床で大活躍のツボですし、自分の体調管理にもいいですね。一時期、自分の足三里に数か月お灸を継続してみたのですが、足も軽くなって、お腹も軽くなりました。その後は、他のツボを使ったりしているので、あまり行っていませんが、思い出した時に自分の足三里にお灸をしています。