症例12_解説と治療

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 この症例は典型的な脾気虚による症例です。鍼灸院であれば、お腹の調子について話しをすることも多いですが、整骨院で痛みに対して治療をしているときだと、内臓の不調については話をしないので、大便の状態などを尋ねてみると、典型的な状態の方もかなり多くいますよ。

1.解説

 お腹が弱いということで考えなければいけないのは脾の働きの低下です。国家試験への学習でもお腹が弱く、下痢気味とあれば脾の問題として考えることが多いので、分かりやすい人も多かったのではないかと思います。

 

 脾の働きは消化吸収と関係をしやすいので、脾の働きが低下をすると食欲や排便に問題が出てしまうことがあります。こういう方は結構いるので、整骨院で勤めている鍼灸師でもお腹の調子は当たり前のように尋ねておくことが大切です。

 

 患者さんの気持ちとしては、お腹の調子が悪いのを本当はよくしたいと思っていることが多いのですが、どこで治療できるのかが分かっていないので、対応できるということを教えてあげることが大切ですね。

 

 お腹の調子が悪い人は、背部から腰部にかけての不快感が出てくることが多いので、背腰部の問題がある人は脾胃の問題かもしれないと考えるといいです。

 

 水様性の便が生じているときには、脾の働きが低下しているだけではなく、陽虚が発生していることがあるので、陽虚があるかないかを確認しておくのがいいです。脾は肌肉と関係をして、手足の汗も脾と関わりやすいです。そのため、手足に汗をかくことによって、四肢の冷えが生じてしまうことがあります。冷えと言っても、汗による場合は陽気不足ではないこともあるので、手足の汗をかきやすいかを尋ねておくのも重要です。

 

 食後に眠たくなってしまうのは、食事によって脾の運化が働いていると、昇清が弱くなってしまうために、頭部を滋養することが出来ないので、眠くなることがあります。昔からの食生活で夜遅くに食べてしまうのがよくないので、食生活のリズム改善した方がいいと伝えることが大切です。

 

2.治療

 治療は脾胃に関する経穴を用いるのが基本ですが、お腹の調子が悪いと背中に痛みが出ることが多いというのを先程の解説で説明しましたが、その部位には胃の六つ灸があるので、胃の六つ灸を使って治療するのもいいです。

 

 膈兪は、上焦の治療の治療に用いるだけではなく、中焦の治療でも効果が高いところなので、中焦の異常があったときには膈兪に注意をする方がいいです。

 

 お腹の調子を整えるのには、鍼の治療でも効果があるのですが、私個人の感想としてはお灸が効果を発揮しやすいと思いますね。腹部や背部にお灸を加えていくと、お腹の調子が改善することが多いですし、治療の持続効果も出やすいというのが自分の中での感覚です。

 

 灸療法では、透熱灸の方が治療効果は高いと思っていますが、知熱灸・棒灸など他の灸法でも腹部疾患にはいいと思います。お灸が出来ないという場合には諦めてしまうのではなく、腹部・背腰部にホットパックを行う方法もあります。感覚的な話しになってしまうのですが、ホットパックだと、灸療法よりは時間がかかる印象です。腹部・背部にホットパックを置いて、それぞれ20~30分ぐらい行うのがいいので、ホットパックを置きながら施術を行うと効果が高いと思います。

 

 切皮して鍼が刺入をされていない状態だと、手を離すと鍼が身体に倒れるので、その上にホットパックを置くのも効果的だと思いますよ。ただし、鍼が倒れていないと鍼が入っていってしまいますし、ホットパックで鍼を押してしまうと痛みが出たりするので、置く時にも注意が必要ですし、取るときにも鍼が抜けたりしてしまうので、細心の注意が必要ですね。お勧めの方法ではありませんが、自分に行うのであればリスク管理をしやすいので、セルフケアとしてやってみるのがいいと思います。

 

 下痢が強い人は昇清を強めることが必要になるので、百会は上らせる働きが強い経穴になるので、百会を足しておくのもいいと思います。

 

 患者さんにセルフケアとして、自宅でもお灸やホットパックを行ってもらうと改善するスピードが早いので、指導をして行ってもらうと治療効果が早く出てくることが多いです。自宅で出来ないのであれば、治療回数や時間をかける必要があるので患者さんにしっかりと説明をしておくのが大切ですね。

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