鍼灸での押手の重要性

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 鍼を刺入するときに押手を構えるのが当然になっていますが、押手にはいろいろな働きがあるので重要なものになります。

 現在だと、感染症を防ぐためにクリーンニードルテクニックということで、鍼体や皮膚などを素手で触らないようにするやり方があるようですが、その場合でも押手を使うメリットがあります。

 

 クリーンニードルテクニックは簡単に言ってしまえば、鍼体と鍼孔を触らないということで、鍼管で弾入・切皮をしたら、鍼管を取り除いて、押手を離して刺手だけで刺入をするやり方や、綿花で鍼体を挟むか指サック(ゴム手袋)直接鍼体に触らないというやり方があります。

 

 押手を使うのになれると、ゴム手袋などを使うと感覚が分からなくなることがありますが、間は順応をするので、使うのが当たり前になればゴム手袋でも感覚が分かるのではないかと思います。

 

 クリーンニードルテクニックを知ったときに、実際の臨床でどこまでやれるのかを考えたのですが、片手で全てを行うのであれば中国鍼の方が楽ですが、中国鍼を上手く使える自信がないなと思いました。他の鍼でも出来ると言えるのですが、片手で刺入をしようとすると、非常に細い鍼を扱うのは、練習もしないといけないのですが、集中力と時間を使ってしまうので現実的ではないなと思いましたね。

 

 ゴム手袋で治療するというのも考えたのですが、身体を触っているときはゴム手袋の状態はいいのですが、患者さんの起居動作を補助やタオルを扱うときには手を使わしかないので、患者さんの血液をゴム手袋で防ぐことは出来ても、周りは守れないので現実的ではないなと思いましたね。

 

 手術室のような状態で誰かがサポートしてくるならいいのですが、鍼灸治療でそこまで設備を整えるのは難しいので出来ないですよね。ゴム手袋をつけながら、お灸を扱うのは私には難易度が高すぎることなので、やはり押手は素手でいきたいところですね。刺入時や抜鍼時に綿花を使えば対応できるので、綿花を使うぐらいの方がいいかと思います。

 

 クリーンニードルテクニックはユニバーサルプレコーションという概念が元にあるので、医療者としては何故、重要なのかは知っておくのが必要です。

 

 ユニバーサルプレコーションは「全ての患者の体液・排泄物は感染源となる可能性があるとして対策をする」という考え方です。例えば、感染症の患者さんがいて、医療者が感染症になってしまえば、感染症を拡大させてしまうので注意をしなければいけないということですね。

 

 衛生学で習うのかもしれませんが、妊婦の死亡率が高かったのは医療者が手を洗わないし消毒をしなかったからという話しがあり、ここから感染症に対しての対策意識が生まれました。今で言えば当たり前のことなのですが、最初に手洗いが必要だと言う話をしたら非難をされたのです。衛生学は病気にならないための予防ということで重要なもので、医学の歴史とリンクすることが多いです。こういった話を知るには『漫画医学の歴史』がお勧めです。

 

 押手の重要性を書こうと思ったのですが、話がだいぶそれてしまいましたね。押手は鍼を刺入する助けのためという意識の方が多いかもしれませんが、押手にも感覚があるので、刺入している間、押手を肌に触れていくことで、治療とともに身体が変化していくのを感じ取ることができるので、治療の刺激量を決定するのに大切なものになります。

 

 刺入がスムーズにいかない間は、押手で皮膚感覚を感じながら刺入をするゆとりが出ないですが、刺入技術が上がり、刺入に意識を取られないようになってくると、ようやく押手に意識が向うことが多いです。

 

 押手をうまく使えるようになることが大切なのですが、刺手・押手で手の動きがバラバラになるのは少し難しいことになります。例えば、ピアノやパソコンのキーボードは両手で違う動きをしながら制御をしないといけないので、慣れるまでは自由に扱えないというのと同じです。

 

 私も押手で治療効果を感じるようになってきたのは、卒業してから数年経過してからで、治療をしているときに、ふと肌が緩んでいくなという気づきがあり、そこから意識をするようになってわかるようになってきました。

 

 言われて当たり前だと思う人もいるかもしれませんが、腑に落ちるまでは時間がかかることが多いなと思った記憶があります。

 

 押手がしっかりしていると、切皮痛も出にくくなるので、人に鍼をするようになったばかりの人はとにかく押手を安定させて、皮膚面にしっかり密着するように、押手を置くことが大切になります。

 

 押手は感じるだけではなく、圧をかけることができるので、押手がいつでも安定して置けるようになったら今度は押す押手も意識をすると、治療の幅が広がることが多いです。押手を押して使う方法に関しては過去のブログに書いていますので、参考にしてください。

鍼の刺入で押手を上手く使うと刺入深度がいらない

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