小児の発達障害は精虚の症状として考えることができ、腎の働きが低下していると言われますが、特徴的な症状を五遅(ごち)・五軟(ごなん)と言います。
五遅・五軟と言ってもあまりメジャーな話しではないので、イメージがつきにくいですが、腎精不足によって生じる小児の発達障害で起きやすいものをまとめたものになります。
五遅は、発達が遅くなりやすいものをあげているもので、立遅(りっち)、行遅(こうち)、髪遅(はっち)、歯遅(しち)、語遅(ごち)があります。五軟は頭軟(ずなん)、項軟(こうなん)、手足軟(しゅそくなん)、肌軟(きなん)、口軟(こうなん)があります。
五遅の方から見ていくと、立遅というのは、立つのが遅いと書かれているように、一人で立ち上がるのが遅いということになります。筋力などの発達によって立ち上がる時期は違いますが、立ち上がりが遅いと心配になることですので、一人立ちが遅いようだと発達障害として考えます。
行遅の行は歩くという意味が含まれてくるので、立遅と関係をしやすいですが、歩くことが遅い場合のことを言います。行と立は身体の筋力の発達と関係をしていくものなので原因は同じになりますね。生じる年齢として立遅は1歳頃と言え、行遅は歩き回るようになる年代なので、2~3歳頃に起こった場合と言えます。1歳頃は立つのもやっとのことが多いので歩けないのは当たり前ですしね。
髪遅は、髪の発達のことで、生まれたときに髪の毛がない子どももいますが、髪が伸びてくるのが遅いようだと、髪遅になります。髪は血余と言われるように、血が十分にないと生成することが出来ない物ですし、腎の働きと関係をしやすいので、腎の力を見ることが出来るものです。髪の色も黒々しいのが東洋人では正常なので、色が抜けてしまっているのも髪遅に入れることができます。
歯遅は歯の発達が遅いものですが、歯は骨余と言われるように、骨がしっかりと生成されていれば、歯も充実することが出来るということで、腎と関係する骨の状態を見ることにもなります。
語遅は、言語発達が遅れていることを言い、5歳頃になっても話しをすることが出来ない場合のことを言います。発生は、音を出すという身体全体の機能も大切になるだけではなく、文章を考えないといけないので、頭と身体の発達の双方が必要になります。
五軟は、軟という言葉が入っているので運動能力の低下や力が入らないという状態になります。頭軟・項軟は「あたま・うなじ」という意味が含まれてくるので、頭を上げられない状態になります。頭部の力がないので、起き上がる力がないことになります。頭項が持ち上げられなければ、立ち上がることができないので、立遅にも関係すると言えます。
手足軟は手足の力不足のことを言っているので、成人で言えば、四肢の運動麻痺が該当をしています。肌軟の肌は肌肉のことになるので、肌肉は身体のサイズや太さのことを言っているので、身体がやせ細ることに関係をします。手足軟も肌軟も脾の働きが低下することによって生じやすいものになります。
身体の肉がやせ細るということを考えると、軟という状態になるので、軟は脾と大きく関係する病証というのがわかります。残ったのが、口軟ですが、食べ物を十分に咀嚼する力がないことになります。
軟はこのように、全て運動麻痺を現すものであり、脾の働きと大きく関係をするので、成長には後天の精を生成する脾の働きが重要になっているのが分かります。
五遅・五軟は腎精不足によって生じるものとして言われていますが、腎精は先天の精とも言われ、脾の後天の精によって補充されるものなので、腎の働きだけではなく、脾の働きが低下をしてしまうと、成長障害が発生しやすくなります。
精に関しては「生殖能力と東洋医学―精と気」を参考にしてください。
小児の発達障害をこのように分類をしても、治療に関しては脾腎を高めるということで一致しているので、細かい病能として分けて考えないことも多いので、五遲・五軟があまり有名にならない理由だと思います。
昔は乳幼児死亡率も高く、子どもが大きく成長するのは賭けのようなものだったので、成長するまでに問題が生じたときに、いろいろと分類をされたのだと思います。現在の日本では乳幼児死亡率も低いし、発達障害も起きにくい状態になっていますが、医療の発達度合いによっては、こういった考えを使って、病能の鑑別と治療をするのが大切なのだと思います。
古典文献の中でも婦人・小児に関する記載は多く、それだけ出産・産後に問題が生じやすかったのだと思います。現在の日本は、こういった問題が少ない国になるので、現代医学の発達は人々の生活に恩恵を及ぼしていると思います。