幻肢痛の治療

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 手足などを切断して、無くなったところが痛いのを幻肢痛と言いますが、痛みを感じる部位が無いので、治療でどうしていいのか分からないですが、鍼灸師として駆け出しの頃に治療をしたことがあります。

 幻肢痛のメカニズムははっきりと分かっていませんが、存在しないところを痛いと感じるので、患者さんも辛いですが、治療する方もどうしていいのか分からずに悩むことが多いと思います。

 

 四肢などの切断がある人では、50~80%にも見られると言われるので、多くの人が悩んでいるものだと思います。

 

 ボスニア・ヘルツェゴビナでは、紛争によって四肢を失った方も多く、治療は健側へのトリガーポイント療法を使うことで対処をしているという話もあります。

 

 存在しないところを治療することが出来ないので、存在するところから治療するしかないですよね。

 

東洋医学の治療で考えてみると、反対側からの治療は九刺の中の巨刺という方法があるで、ボスニア・ヘルツェゴビナで行っていた反対側の治療は巨刺と考えられますね。

 

 私が治療したときは、巨刺のことはすっかり忘れていたので、経絡を使って治療をしました。

 

 その方は、示指のDIPから先がない状態で、いつも存在しない指先に痛みを感じていて、いつも痛いと言っていました。切断面のところはしっかりと治っていたのですが、切断面が何かに触れると言い様のない痛みと不快感があるということでした。

 

 幻肢痛があるからなのか、指先がないことによるバランスの低下からなのかは分かりませんが、その方は肩に強い痛みが出ていて、肩が気になって仕方がないので、頚部を動かさないと落ち着かない状態になっていたので、チック症状も発生していました。

 

 駆け出しの頃なので治療にも慣れていないし、どうやって対処をするのかを悩んでいて、主訴が頚部の痛みだったので、まずは頚部から対処することにしました。

 

 すぐにいい治療法が考えられなかったので、局所の対処をまず考えてみましたので、頚部の局所への刺入をしました。局所への刺入によって、強い痛みはその時は改善したのですが、すぐにもとに戻ってしまったので、2回目の治療では、透熱灸をしてみました。

 

 本人は痛みが取れれば火傷しても構わないということなので、透熱灸を選択して、少し火傷をする程度で行ってみました。正直なところ、透熱灸のコントロールがそこまでできなかったので、透熱灸を選択した時点で火傷をするのは当然のことでしたね。

 

 透熱灸は当たり前ですが、かなりの熱さを感じたようでしたが、鍼の効果よりも治療効果は持続したのですが、芯の痛みは軽減しませんでした。

 

 今であれば他にもいろいろ対処することも出来るでしょうが、その時は他に治療が浮かばなかったので、大元の原因はどこなのかなと考えるようになりました。

 

 本人にもう一度問診を行ってみたところ、頚部の痛みは、幻肢痛より後に出てきたということだったので、幻肢痛を先に治療をした方がいいのではないかと考えるようになりました。

 

 幻肢痛の治療と言ってもその当時は何をすればいいのかが分からなかったのですが、無いところを治療することが出来ないので、経絡の問題ではないかと考えました。

 

 示指は陽明経が走行する部位であり、陽明経の原穴は合谷なので、合谷への刺入をしてみようと考え、実際に刺入してみました。切皮が上手くなかったとかは分かりませんが、切皮をしてすぐに幻肢痛を感じているところに電撃が走ったと言われました。

 

 電撃様の痛みを感じてすぐに抜くと、痛みが残るかもしれないと思ったので、鍼を数ミリ動かしたら痛みが軽減しないかなと考えました。

 

 切皮したぐらいなので、本当に数ミリしか入っていないのですが、そこから1ミリ程度鍼を引き上げてみたら、幻肢痛のところに感じていた電撃様の痛みが軽減したので、ゆっくりと抜鍼したら、幻肢痛の痛みが消えるのかなとその時は感じたので、残った数ミリの抜鍼は数分かけて行ってみたら、幻肢痛が軽減していく感覚が出ていたので、幻肢痛がゼロになってから完全に抜鍼してみました。

 

 相手も私も一作業終わった感じになったので、2人でため息をついたあとに、患者さんが示指の橈側の幻肢痛が消失したと言いました。

 

 それはもうこちらも驚きましたよ。1指を失ってから数年続いていた痛みが数分で消えたので、患者さんも驚き、喜んでいましたね。

 

 幻肢痛は示指先端にあったので、橈側が消えても、尺側が残っているのですよ。

 

 一難去ってもまた一難というものでもないですが、橈側で100%の結果が出てしまったので、尺側も100%じゃないと満足できなくなりますよね。

 

 合谷は使おうとは考えていたのでスムーズにいったのですが、尺側が残るというのは考えていなかったので、どこで治療をするのか非常に悩みました。

 

 合谷と同じぐらい強い作用があるツボが尺側に何かないかなと考えたときに、合谷の刺入方向は後渓に向けるし、後渓は督脈の八脈交会穴だし、後渓に刺入をしてみようと考えました。

 

 その当時は駆け出しなので、後渓への刺入経験が少ないので、押手をどう構えていいかも分からなかったので、どうやったら安定するかを考えて刺入してみました。

 

 後渓に切皮をしても合谷のときのように響きが出なかったので、ダメかなと思ったのですが、示指までは距離があるからかもしれないと思ったので少し刺入していくことにしました。

 

 1センチ近く刺入したときに合谷と同じように示指に電撃様の響きが出たので、合谷と同じように、時間をかけながらゆっくりと抜鍼していきました。

 

 合谷と同じように痛みが消えた瞬間に抜鍼をしたら幻肢痛は完全に消えました。合谷と同じように、患者さんと2人で大きなため息をついたのですが、私は脇と背中に汗ばんでいたのに気づきました。

 

 患者さんも再度驚きましたが、こちらも驚きましたよ。肩の主訴のことをお互い忘れて、スゲーって言っていました。

 

 2人で興奮をしていましたが、主訴を忘れては問題だなと反省し主訴の確認をしたら芯の痛みが抜けた感じがあると言われたのですが、まだ残っているということだったので、今までで効果が高かった透熱灸を頚部局所に行って終了しました。

 

 頚部の痛みは疲れると出てくるということでしたが、幻肢痛はこの時以降出なくなったということでした。

 

 この時はたまたま上手くいったのですが、今後はどうするかを考えるようになり、様々な書籍を読んでみたら、経絡の走行を使う治療だけではなく、反対側治療の巨刺、無い部分に鍼をする、頭部の反射点で出来ると言うのが分かりました。

 

 今だったらどうするかは時々考えるのですが、最近はその方の体調を見て、全体からでも治療が出来るのではないかと思っています。

 

 劇的に治ることばかりではありませんが、こういったことがあると、治療へのモチベーションが上がりますよね。普段はなかなかよくならなくて悩んでばかりですが、治療が出来るようになるというのは、こういうことの積み重ねなのかなと思い、書いてみました。

 

 鍼の響きなどの話も書きましたが、鍼の響きに関してはこちらのブログを参考にしてください。

「鍼のひびきとは?」

「鍼の響きが出る深さ」

「鍼のひびきとは何か?」

 

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