治療家としての手の訓練

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 鍼灸や手技療法では道具を使わないで施術を行うので、自分の手が商売道具になりますが、その手を上手く扱えるようにするためには手の訓練が必要だと思います。

 手の訓練と言っても特別なことをする必要はないですし、自分の思った通りに手を動かせるようにしていくのが重要なのだと思います。私は特別な訓練はしたことがないですが、思ったように動かせるようにする訓練はしています。

 

 例えば、鍼灸学校に入学して最初に行っていくのに片手挿管や弾入切皮があると思いますが、こういった手の動きをいつでもできるように訓練はしていました。片手挿管を練習する場合は、鍼と管を絶えず持っていると、外で鍼を落としてしまうと危険なので、プラスチックの鍼管だけを持ち歩くようにしていました。

 

 プラスチックの鍼管をポケットの中に忍ばせて、そのままポケットの中で片手挿管の練習をすることもありました。今、考えてみると、もしその状況が多くの人の目に触れていたら、ポケットでごそごそしていて、ちょっと変な人に見えたでしょうね。

 

 どういう状況でやっていたかと言うと、授業中は机の上で片手挿管の練習をしていましたが、学校以外で椅子に座っているときや自宅でよくやっていましたね。出かけるときにもポケットに入れておけば、ちょっと休憩しているときにも練習が出来るので、都合がいいのですね。たまに、移動中にやっているときはポケットの中でゴソゴソとしていましたが、本当にたまにしかやっていません。

 

 弾入切皮の練習もどこでも出来るのでよく練習をしていましたが、例えば、机に触れるぐらいを指先で叩くというような練習もよく行っていました。弾入切皮の練習に関してはこちらのブログに詳しく書いています。

「弾入切皮の練習に最適なもの」

 

 弾入切皮をするときには手関節を柔らかくして叩く必要がありますが、上手な人の手の動きを見て、肘関節や他の関節がどのように動いているのかを参考にして練習をしていました。

 

 素早い動きで練習することも大切なのですが、しっかりと動かせるようになるためには、動作を習得しないといけないので、最初は非常にゆっくりと手を動かしてみて、上手な人と同じような手の動きをしているかを確認しながら行っていました。

 

 非常にゆっくりのスピードで出来るようになった後に、少しずつスピードを速めていくことで、日常的に使えるようにしていきました。例えば、字を書けない子どもが書く練習をするときには早く書く練習をするのではなく、一つの線を丁寧に書く練習をしていくことを積み重ねて、字を完成させ、書くスピードを上げるのが一般的なので、ゆっくりから早くと動作のスピードを変化させていきました。

 

 関節が柔らかい方が動きはいいと考えられるので、一時期はストレッチも入念に行っていたのですが、もともと関節が硬くなりやすいからなのか、手を使い過ぎているのか分かりませんが、すぐに硬くなってしまって、関節の可動域を広げるのはそんなに上手くいかなかったですね。

 

 何かを身に付けるのは、基本的には時間がかかることなので、焦らずに“継続”していくことが手の訓練には大切なのだと思っています。

 

 触診の感覚に関しても、鍼灸学校に入ったとき、卒業してすぐ、鍼灸師として時間が経ってから、現在と比べてみると、入学してすぐと比べると大きく変化をしているので、訓練次第で手の能力は伸びていきます。

 

 触診感覚を伸ばす手の訓練に関しては、いろいろな物を触り、感触を覚えておくのも大切なのですが、一番大切なのは、患者さんや自分の身体を触りまくるのがいいのではないかと思います。

 

 毎回、ベタベタと身体を触れていれば、少しの変化でも分るようになってくるので、患者さんの身体の状態を理解していくことができます。

 

 人での訓練が難しいというのであれば、食べ物なども生き物なので参考になることがあると思います。例えば、肉でも少し厚めの物であれば線維も含まれていて、スジばったものがあるので、実際の身体だったらどこにあって、同じ感触なのかなと考えながら触れると実際の臨床に役立つことがあるのではないかと思います。

 

 柔らかい食材であれば、微妙な力加減で触れないと壊れてしまうので、微妙な力加減を身に付けるのにも役立ちます。特別な手の訓練をしていなくても、日常生活の中でちょっとした工夫をすれば手の訓練になるので、いつも自分の感覚を伸ばそうとする姿勢が大事なのだと思います。

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