心身一元論

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 東洋医学の思想として重要なものはいくつかありますが、心身一元論というのも重要な考え方になります。

 心身一元論は、人は心と身体が合わさって一つの物であり、心と身体が合わさって初めて人として成り立つという考え方になります。生きている人には心と身体があるのは当たり前ということになるのでしょうが、二つが合わさっているのが当然という言葉がないので、一元論という表現になっています。似たような物として「心身一如」があります。

 

 これは生と死ということを考えることに重要なことでもあるので、死生観を持つというのと同じような意味だと思います。死生観は、生死をどうやって捉えていくのかという考え方であり、死と生を定義するものだと言えます。

 

 例えば、人はどこまでが生きている状態で、どこからが死なのかという境目に関しては、多くの人は漠然と捉えていて、はっきりとした定義付けを出来ないものになります。具体的な例でいえば、考える・行動するというのが出来なくなってしまった脳死は、現代医学的には脳の死ということで捉えられますが、生死という分類で分けたときには、その状態は生と死のどちらに属するのかというのは答えられないですよね。

 

 脳死の家族にしてみれば、肉体という現実があるので、身体だけでも残っていれば生きていると考えることになるのでしょうが、その人がその人で居られない状態であれば、生かされているだけと捉えてくることも可能なので、死の状態だと言うことができます。

 

 法律で定義付けしようとしても、そこから回復するかも分からないという状況であれば、生死を決定することはできないですよね。なので、脳死状態になったらどうするのかを生前に決めておくというのが最近の傾向であり、保険証にも記載する場所がありますよね。

 

 このように人の生命という現象を生死という定義で考えるのは非常に難しいのですが、東洋哲学の中では心と身体が揃っているものであり、相互に影響を与え合うと考えていくものになります。

 

 心身一元論の話なのに、生死というところまで踏み込みましたが、心身一元論は心と身体が一つの物であるという文章は多いのですが、何故、そう考えるのかということに関しては少ないので、文章化をしてみました。

 

 心身一元論は心の影響は身体に影響を与え、身体の影響は心に影響を与えるという相互の関係があるので、心も身体も大切だという話になります。

 

 例えば、精神的なストレスが強くなってしまえば、腹痛や動きたくないという身体の問題として生じてしまうことがありますよね。

 

 全身の痛みが強いと、動きたいという気持ちがあったとしても、痛みで動けないので、動きたくなくなってしまい、何かをしようという気持ちが出なくなってしまうことがあります。

 

 いい方向として相互の影響は、精神的に楽しい状態になると身体が軽やかに感じて動きたくなることがありますし、精神的に元気が落ちてきているときでも、身体の調子がいいと運動でもして発散をしようかという気持ちになります。

 

 このように心と身体は相互に強く影響をしあうので、心だけ、身体だけで考えるのではなく、両面の影響し合う側面を重視していこうという考え方が心身一元論になります。東洋医学の治療原則と言ってはいても、鍼灸師自身も身体の状態についての治療が中心になるので、心身一元論を絶えず意識をしているのは難しいことだと思います。

 

 正しいかどうかは分かりませんが、治療をしても治らない場合は、身体の問題ではなく、心の病だということで考えるのも可能なので、身体に対する治療ではなく、心の治療となるカウンセリングが中心になる場合がありますね。

 

 治せない物に対しては、心の病だと考えることも出来てしまうことができるので、治療家からしたら逃げ道としても使うことが可能なので、心身一元論を本当に理解して治療に活かしていくのは、難しいものではないかと思っています。

 

 治療家との信頼関係が出来ると、治療院に来るだけで治ってしまうという話もよく聞きますが、これは心の治療をしていると言えるのではないでしょうか。ここまでの信頼関係が出来ると治療家としてはうれしいですね。

 

 心身一元論の考え方のベースには、やはり気の思想というのが入っていると思います。全ての物事や気という単語で説明をすることができるので、人が成立しているという心身一元の状態は、気があると言うこともできますね。気は東洋医学の話の中では、どこにでも繋がってきますが、東洋医学は気の思想がベースになるので、仕方がないですね。東洋医学を学ぶのであれば、気についてはやはり避けては通れない道なのだと思います。気に関する過去のブログはこちらになります。

「だから気って何だよ」

「気は見えるのか」

「気には分類がある」

「生命現象と気―気の作用」

 

 一元論に対する考え方として二元論がありますが、これは現代医学の思想と考えることができます。症状や局所に対してとにかく調べていくもので、これは医療としても大切なことです。

 

 症状や局所に対する研究が進むことで治療が作られていき、今の現代医学が成立しているので、現代医学と言う財産は人類にとって非常に大切なことになります。症状や局所を徹底的に調べていく先の将来は、身体のパーツを取り換えるということになるのではないでしょうか。

 

 現代医学でもメンタルヘルスケアという考え方もありますが、身体のパーツを取り換えるというときには、その身体のパーツを失ってしまったという心の問題をかかえてしまうというのが分かってきたので、現代医学では、PTSD(心的外傷後ストレス)というのがあるので、現代医学全体としては一元論も重視していると考えることもできるのですが、症状や局所という物として研究をしてきたというのがベースにあるので、基本は二元論になります。

 

 二元論は医療を考えるときには重要なことなので、一元論と二元論が上手くかみ合えば、いい医療制度になるのではないかと思いますが、心という数字で測りにくいものが含まれるので、医療制度に組み込むのは難しいところもありますね。

 

 東洋医学では東洋哲学思想も多く含まれてきていて、その一つが心身一元論であり、他に気の思想はもありますが、まだまだ多くの理論があります。ということで、東洋医学の思想は以下のブログも参考にしてみてください。

「東洋思想(天人合一思想・気)」「天地人三才思想」

「東洋医学の陰陽って何?」「東洋医学で考える相性―五行」

「風水と東洋医学―五行」「経絡とは何か?」

「身体の中に神様がいる―神の思想」

臓器と臓腑の違い

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