麦門冬湯(ばくもんどうとう)

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 空咳と言えば、麦門冬湯になるので、患者さんが飲んでいることも多いので、名前を聞くことが多いのではないでしょうか。

 麦門冬湯を使用する弁証は、肺陰虚・肺胃陰虚になり、八綱弁証としては裏虚熱になっていきます。陰虚が中心の処方として考えることも出来るのですが、気血津液の状態としては気陰両虚の状態に使用するとも考えられます。

 

 肺は水の上源とも言われ、全身に水分である津液を輸送する働きがあるので、肺の機能が低下をするということは、津液の不足と関係をします。津液は陰陽で考えていくと、陰の働きがあるので、津液の減少は陰気の減少と考えることができるので、陰虚を生じやすい性質があります。

 

 さらに肺は主気(しゅき)という働きがあり、呼吸と関係をする性質があり、宗気の生成に関与し、衛気を全身に宣発する働きがあるので、肺の機能が低下をしてしまうと、気を全身に送れない状態になってしまうし、気が不足をしてしまう状態になってしまいます。

 

 肺の機能は気・津液と関係をしやすいので、気陰両虚を発生しやすい臓の一つと言えますね。

 

 肺の機能低下が生じてしまうと、呼吸の異常が発生をしてしまうので、気逆証である肺気上逆になってしまい、咳が発生をしてしまいます。これは肺の粛降が低下をしてしまっているので、気が降りることができないために、上から出てきてしまっている状態ですね。

 

 肺の粛降という働きは宗気の生成を行っているので、肺気上逆の状態になってしまえば、宗気の生成が不足をし、さらなる肺気の低下を招いてしまうことで、自力で改善をしていくことが難しいので、肺気・肺陰を補う治療をしていくことが重要になります。

 

 胃の働きは、喜湿悪燥とも言われていて、湿潤状態を好む傾向にあるのですが、津液が不足をしてしまい、胃の津液不足が発生をしてしまえば、胃陰の不足にもつながってしまいます。

 

 胃の働きは通降という食べた物を降ろす働きがあるのですが、胃の働きが低下をしてしまうと、降ろすことができないために、上に昇ってきてしまう状態になるので、悪心・嘔吐・便秘が発生をしやすい胃気上逆になってしまいます。

 

 肺気上逆・胃気上逆が同時に発生をしてしまえば、気が上に昇る働きが強くなってしまうので、咳を止めようとしても、止まらない状態になってしまいます。さらに肺・胃は津液との関係が深いところでもあり、働きが低下をするということは陰液とも言われる津液の不足が発生をしてしまうので、陰虚であり、虚熱が発生をしていると考えていくことができます。

 

 熱が発生をしてしまうと、上に昇っていく性質が強いので、肺気上逆・胃気上逆・熱の炎上と上に昇る性質が集まってしまうために、咳嗽がなかなか止まらないことになってしまっています。

 

 麦門冬湯で使われるパターンは、喘息という訳ではないけど、昼間に咳が止まらなくなってしまうことがあったり、夜中に酷い咳で眠れなかったりというときだと思います。

 

 特徴としては陰虚であり、熱がある状態なので、痰が多く出ることはなく、何かが出るという感じではなく、喉の辺りが渇くような感じがしてしまうので、咳が止まらないと言う状態です。

 

 陰の不足が発生してしまうのは、慢性病や過度な疲労、加齢によって生じてくるので、麦門冬湯が必要な方は、身体がかなり疲労している状態だと考えていくこともできます。

 

 麦門冬は、肺胃の陰液を補充して熱を冷ます傾向が強い生薬であり、粳米(こうべい:うるち米の玄米)・大棗(たいそう)・甘草(かんぞう)は脾胃の働きを助ける機能があります。脾の運化は気血津液の生成を行うだけではなく、気血津液の輸送を行うので、脾胃を助けることによって陰液を生成して、肺・胃に送る働きを強めることになります。

 

 半夏(はんげ)の働きは温めて乾かす働きがあります。麦門冬湯には麦門冬が潤す働きが強いので、麦門冬の潤す働きがいきすぎないようにすると同意に、半夏の降ろす働きによって咳を止める作用があります。

 

 麦門冬について調べてみると、空咳という一つの症状に対して、東洋医学で考えていくと、気血津液や臓腑の働きを本当に理解していないと、身体の状態を説明するのが難しいというのが分かりましたね。それと同時に調べてみて、文章にしてみて初めて肺・胃・陰液のつながりが自分の中で納得できることも多かったので、漢方薬の勉強をしようとするのであれば、自分で文章化をしてみると理解が進むと思います。

 

 さて、麦門冬湯が適応となる方に対して、鍼灸治療ではどのようにアプローチをするかと考えたときには、肺・胃・脾を使った治療を行っていくことが重要だというのが分かりますね。

 

 気・陰液の生成は脾胃が行っている物であり、脾胃の機能を高めることによって、気・陰液の生成を助けていき、陰液不足を改善していくことになります。宗気は肺の粛降と脾の運化によって生成されていくものであるので、脾の働きを強めれば、宗気の生成を助けることが出来ます。

 

 胃の働きがダメになり、上逆しているのが問題なので、胃の降ろす働きを強めることが大切になるのですが、経穴として降ろすためにあるものは存在していないので、胃・小腸・大腸を使っていくことで、身体の中に停滞している物を下へ降ろし排泄することが出来るので、足三里・上巨虚・下巨虚を使うと小腸や大腸の伝化という力を借りることが出来るので、効果的ではないかと思います。

 

 咳に対しては、天突を使っていくこと、降気することが出来ると言われるので、天突を使って咳に対処をすることもできます。

 

 空咳は、喉が渇いたような感じが継続することが多いので、喉の乾燥感を解消することが大切になってくるのですが、喉の渇きに対するツボがないので、後頚部を治療で使うと口腔内乾燥に効果的なので、局所の治療として加えていくのもいいのではないかと思います。

 

 咳が続く喘息の治療では定喘も効果的だと言われているので、空咳のときにも定喘は効果があると思うので、使用をしていくことが可能になります。

 

 流注で考えると喉に関係をするのは、腎・脾・心を考えていくことができ、その中で腎は納気という吸気に関する降ろす働きがある臓にもなるので、どうしても症状が変化をしないときに使用するのもいいのではないかと思います。

 

 陰虚に対しては、陰陽の根本である腎が重要になってくるので、陰虚の治療と同時に喉に対する治療として腎はやはり重要なのだろうなと思います。

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