肝鬱気滞の治療―漢方の考え方を使った場合

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 中医学の書籍を見ていると、肝鬱気滞という言葉がたくさんでてくるので、病態では肝鬱気滞を疑うのが大切ではないかと思ってしまうのですが、どのような治療がいいのかと考えたときに、漢方の考え方を使うと面白いのかなと思いました。

 漢方は患者さんから服用しているという話を聞くことが多いですし、自分の勉強のために、漢方を調べるようになりましたが、漢方の考え方は病態に関する考察が非常に細かいので、鍼灸でやろうとしたらどうなるのかを考えてみました。

 

 肝鬱気滞はストレスによって発症をしやすいというのは非常に有名な話だと思うのですが、症状は一つではなく、いろいろな症状が出てくるので、実際の患者さんの状態を考えていくときに、肝鬱気滞では説明をできないのではないかと思っていたのですが、全部まとめて説明ができることに気付きました。

 

 肝鬱気滞というのは、肝の働きである疏泄が失調をして生じたときに発症をします。疏泄は全身の気機調節に関係をしているのですが、脾胃の働きにも関係をしているので、肝鬱だからと言って、肝だけの問題かというと脾胃にも注目をしないといけないのではないかと思います。

 

 例えば、脾の働きに影響を生じてしまった場合は、脾は気血津液の生成を行っていくので、気血津液の不足が発生をしてしまう可能性があります。ここでは、血の生成が不足をしたと考えていくと、身体の陽である気は充実をし、身体の陰である血は不足をしていくので、陽実陰虚の病態ではないかと考えていくこともできます。

 

 身体の陰液である血が不足をしていくと、血虚は風を生みだすことがありますし、気の阻滞は熱化をすることがあるので、風と熱の症状が発生をしてもおかしくない状態になると思います。

 

 血が不足をしてしまうと、陰液の不足として考えていくことになるので、陰虚の状態も発生をしていると言えるのかもしれないです。そうなってくると、陽である気は実の状態になっているし、陰である血は虚の状態になるので、陰虚と陽亢が同時に存在していると言えます。

 

 陰虚陽亢は、陰虚がひどくなってしまったために、身体が陽だけのような状態になってしまっているというのを表す言葉になるのですが、ここでは用語として簡便なので用いています。

 

 こうやって考えていくと、肝鬱気滞という病態でも脾の働きの失調、陰である血の問題についてまで考えていくことができるので、一つの原因によって全身に波及していく様子までを考えていくことができるので、東洋医学の基本の考え方に近いのではないかと思います。

 

 治療の主眼としては肝鬱気滞を改善するのが重要になるのですが、病態としては、血虚、陰虚、陽亢が発生をしているので、肝鬱気滞に対する配穴だけではなく、血虚、陰虚、陽亢に対しての配穴をバランスよく入れていくことで、身体の状態を整えながら、肝鬱気滞を改善できるのではないかと思います。

 

 例えば、肝鬱気滞に対しては、兪原配穴を使っていくとすれば、肝兪・太衝を使っていくことができますが、それ以外に、血には血会の膈兪を使っていき、陰虚とも言えるので、身体の陰陽バランスを整えるために腎を治療で使っていくことができるのではないかと思います。

 

 熱はどの程度発生しているのかによって治療がまた変わってくるのでしょうが、熱は上に昇りやすい性質があるので、上から熱を取るのか、下に引っ張ってくるのかで、ツボを変えて治療をしていくことができると思います。

 

 熱を取り除くと言っても、上下を使う治療だけではなく、身体にこもっている熱を排泄するという考え方をするのであれば、発汗や排泄によっても熱を取り除くことができるので、三焦・大腸も治療に必要なのではないかと考えていくこともできますね。

 

 標本という考え方を使っていけば、本は肝であり、標は血虚、陰虚、陽亢になるので、どこから治療を始めていくかについては、経験や症状によって変えていけるのではないかと思います。

 

 例えば、のぼせが強くて暑くてしかたがないというのであれば、急なものから治療をするのが基本なので、まずは熱に対してアプローチをしてから、次の治療に入っていくのがいいのではないかと思います。

 

 全ては肝鬱気滞から発生してきているから、肝鬱気滞を整えていくと考えるのが一番シンプルでいいのですけど、いろいろな状態を考えていくことで、身体や臓腑に対するイメージがより鮮明になっていくのではないかと思います。

 

 漢方の書籍を読んでいると、身体の陰陽両面から考えるのが当たり前のように書かれていて、気の病態・血の病態は相互に影響をしながら、発生をしていると考えているので、東洋医学の考え方としては、相互の臓腑関係も考えていくことも大切なのでしょうね。

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