問診のときは、いろいろな質問をして状態を把握していくことが大切ですが、症状や病気によって苦しんでいる患者さんの心についても考えていくことが大切です。
1.同情と共感
心について考えていくというのは、例えば、膝が痛い人がいたら、歩くのも辛いだろうし、生活の中で何が困っているのだろうかというのを知っておくと、患者さんが解決をしていきたいことが分かっていくので、どのような気持ちでいるのかを尋ねていくことになります。
相手の状況と気持ちを理解していくというのは、共感の心とも言えるので、共感をする姿勢を持って問診していくことになります。共感は相手の状況や心を質問していくことで理解することです。似たような物に同情がありますが、同情は相手と同じ感情になるだけなので、相手の状況や心を理解することが抜けています。
医療者としての姿勢であれば、同情ではなく共感をしていくことが大切になるので、相手が何に困っているのかを聞きださないといけないですね。
2.ナラティブ
相手に話しをしてもらうと分かってくることに、患者さんの語るストーリーがあり、このストーリーのことをナラティブと言います。ナラティブとストーリーは共に物語という意味があるのですが、ストーリーは広い意味での物語で、ナラティブは本人が語る本人のストーリーという意味になります。
本人が語るストーリーなので、空想の世界ではないですし、自分の中での物語なので正解がないと言えますね。医療者も患者さんの症状が発生するところからよくなるところまで考えていくことになりますが、それはあくまで医療者の物語でしかないので、患者さんのナラティブ(物語)と医療者のナラティブ(物語)を併せて新しいナラティブ(物語)を作っていくことが大切です。
例えば、先ほどの膝が痛いということで患者さんと医療者のナラティブを考えてみます。
患者さんのナラティブが、「正座を長くしていたから膝の痛みがでるようになり、また正座をしたい」だったとして、医療者のナラティブが「加齢による変形によって膝の痛みがでていて、今後の正座は難しい」と考えていたとしたら、お互いのナラティブがずれていますよね。
実際は、感情なども含めてのナラティブになるので、もっと長くなりますよ。ここで分かってもらいたいことは、患者さんが思っていることと、医療者が思っていることにはずれがあるので、問診や治療の中で、お互いにナラティブを出し合いながら、新しいナラティブを作りあげ、ナラティブに沿った治療をしていくことで、お互いに満足感を高めながら改善をしていこうということです。
治療も考えながら、患者さんの心も考えながらで大変なのですが、よい医療を提供していくためには、お互いに考えていることのズレが大きいといい結果に結びつかないので、頭に入れておかないといけないですね。
3.トラウマ
トラウマはPTSD(心的外傷ストレス)と呼ばれているもので大分知れ渡るようになりましたね。トラウマは衝撃的な体験を指すものなので、生命の危機や喪失体験などが関係することが多いのですが、些細な心の傷がその後の人生や病気にも影響を与えると考える場合もあります。
人が生まれて生きている間は、心も身体も代えることができないものなので、小さなストレスがあった場合でもその後の人生や病気に大きな影響を与えるという考える場合があります。
例えば、ボーリングの球を転がしたときに少しの回転が入っていれば、ピンに当るときには大きくずれてしまうように、精神的なストレスがその後に大きなズレを生じてしまうとも言えます。
通常は、ズレてしまった場合でも、自力や周囲の影響によって問題ない範囲まで納まってくると考えていくのですが、心のしこりとして残っていると考えていけば、それが問題だと言えてしまいます。
こういったところまで踏み込むと、例えば、小さいころにぶつけたところが今の病気の原因とも言えてしまいますし、小さい頃によくならなったという経験が今も残っているから治りにくいと言えてしまうので、どこまで本当なのかということでは難しいところになります。
もちろん、そういったところから治療を考えて改善するのであれば、結果には繋がっているのでいい部分だと言えますが、そこまで踏み込むのはかなり大変なことだと思います。
本当に病気が重い人などは、通常の治療だけではなく、前世や魂という話しをするところにも行ったことがあるという話しを聞きますが、少しでも改善する道があるのであれば、藁にもすがる思いでもあるのでしょうね。
鍼灸の治療では過去の傷口を治療すると症状が大きく変わることがありますが、この場合は、皮膚の可動性がよくなるので、症状がある場所の皮膚の牽引がゆるみ身体に変化が出ているのだろうなと考えていくことができます。
4.まとめ
医療ということでは、患者さんと医療者という協調関係によって改善を目指していくことになりますが、人と人が合わせるものなので、心の交流も非常に大切で、考慮をしなければいけないですね。
どこまで関わるのかということは非常に難しいところですし正解はないですが、自分がやりやすい距離感を持って患者さんと接するのがいいのではないでしょうか。