心・脾・腎の相互関係―陰陽との関係

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 臓腑は相互に協調して働いているというのが東洋医学の考え方になりますが、心・脾・腎は陰陽と関係があると言えます。

 人の身体は陰陽とういう寒熱の平衡から成り立っていると考えていくのですが、陰陽の平衡を保つ働きは心と腎にあり、脾は陰陽を生成する臓にあるので、心・脾・腎は陰陽との関係があると言えます。

 

1.各臓の働き

 心の働きは、神志と主血と言われ、精神と血の運行に関係をしていきます。心は五行では火に属し、身体の上部に関係をしているので、陽の働きが強い臓になります。心は上という陽にあり、陽の部には、心と肺という2臓がありますが、2臓を比べると心の方が陽と関係をしやすいので陽の陽であるとも言われます。

 

 腎の働きは、蔵精、主水、納気と言われ、精を貯蔵し、排尿、呼吸の吸うに関係をしていきます。腎は五行では水に属し、身体の下部に関係をしているので、陰の働きが強い臓になります。腎は下という陰にあり、陰の部には、腎と肝という2臓がありますが、2臓を比べると腎の方が陰と関係をしやすいので陰の陰であるとも言われます。

 

 脾の働きは、運化、昇清、統血と言われ、飲食の消化吸収と輸送、内臓の位置調節、血が漏れないようにする働きがあります。脾は五行では土に属し、中央でもあり、身体の中央部に存在をしているので、陰陽の間ということもできます。

 

2.心と腎の関係(心腎相交)

 腎は陰が旺盛なだけではなく、陽にも強く関与をしていくので、陰陽の根本という性質があるので、陰や陽の異常が発生しやすい臓になります。臓単体で見た時には、心は陽であり、腎は陰陽であると表現をしていくことができるのですが、相互の関係でみたときには、相互の性質から分けていくことになるので、心と腎の関係で言えば、心は陽気が旺盛な臓であり、腎は陰気が旺盛な臓になります。

 

 熱が上にあり、寒が下にあるのは正常とも言えるのですが、生命は、気血の循環によって成り立っているので、熱が上にあり、寒が下にあるのは異常になります。もし、そういう状況になっているとしたら、お腹から下は冷えて、上はのぼせるという状態になってしまうので、病的な状態になりますよね。

 

 人の生命は冷えものぼせもない状態が正常になるので、上下の寒熱バランスは、循環によって均一化し、下も上も一定になるので、冷え・のぼせが無い状態が正常になります。この正常にしているのは、陽である心と陰である腎が相互に協調しあうことによって成り立っているので心腎相交と言います。

 

 心腎相交の関係については、心陰・陽と腎陰・陽の関係について理解していくことが必要になります。心は陽と関係をしやすいので、心陽が亢進しやすいので、心陰が抑制しています。腎は陰と関係をしやすいので、腎陰が亢進しやすく、腎陽が抑制をしています。

 

 この相互の陰陽を合わせて考えてみると、腎陰は心陰を補うことで心陽の抑制をし、心陽は腎陽を補うことで腎陰の抑制をしている状態になるのが心腎相交になります。

 

 心陽は上にあがりやすい性質がありますが、腎陰から補われた心陰の効果によって上に昇るのではなく、下に向い、腎陽を温める働きがあります。腎陽は下に下降しやすい腎陰を上に向かわせ、心陰を補うという関係があります。

 

 どちらの機能が先に働いているかというのは、始まりも終わりもない物なので、正常な身体の機能の一つとして言われていきます。

 

3.3臓の関係

 心と腎は抽象的に表現をすれば、心が陽、腎が陰になりますが、陰陽を生成するのは上下の中央である脾の働きになるので、心・腎の機能が正常に働くためには、脾の機能が重要になっていきます。

 

 脾の実質的な働きとしては運化という気血津液精を生成する働きがあるのですが、気血津液という具体的な言葉を使わなければ陰陽を生成する臓と言えます。陰陽の分類で言えば、気は陽であり、血津液は陰になり、精は精血同源からすれば陰ですが、原気を生成するという点では陽になり、脾は陰陽の生成に関与をすると言えますね。

 

4.弁証

 弁証には様々なタイプがあるのですが、脾・心・腎が関係するものに関しては下記のパターンに分けることができます。

 

①心腎陰虚と心腎不交(陰虚と心火)

 心陰が不足をすると心陽を抑えることができなくなり、腎陰が不足をすると心陰を補うことができないので、腎陽が上昇し、心陽を亢進させやすくしてしまいます。この病能は心から始まることもあれば、腎から始まることもあるし、心・腎の同時に発生をしてしまうことがあります。

 

 心腎陰虚が進行してしまうと、陰虚によって生じた熱は心に向い、心は陰が不足をしてしまうだけではなく、熱を帯びた状態になってしまうことになるので、心火が発生をしてしまいます。陰虚と心火が同時に存在する病能は心腎不交と呼ばれていくので、のぼせと冷えが同時に現れてしまうことがあります。

 

②心腎陽虚

 心陽が不足をすると腎陽を温めることができないので、腎陰の働きが活発になり、冷えが生じてしまうだけではなく、腎陰が心陰を補ってしまうことにより、心陽はさらに低下をしてしまいます。

 

 この病能も心腎陰虚と同様に、心から始まることもあれば、腎から始まることもあるし、心・腎の同時に発生をしてしまうことがあります。

 

③脾腎陽虚

 脾腎陽虚は他の弁証と同様に、脾から始まる場合、腎から始まる場合、両方から始まる場合があります。脾の気を生成する力が低下をしてしまえば、陽を生成する力が低下をしたことと同じでうし、腎の陰陽の根本の力が低下をしてしまえば、陽気の不足に繋がることもあります。

 

 脾と腎の弁証の相互の関係で言うと、ともに陽虚となるこの弁証が中心になっていきます。

 

④心脾両虚

 心脾両虚も他の弁証と同様に、脾から始まる場合、心から始まる場合、両方から始まる場合があるのですが、極度の疲労、久病、心労によって同時に発生をすることがあります。

 

 身体が疲れすぎてしまって心神を喪失してしまった状態は心脾両虚が発生をしたと考えることも出来ます。

 

 心脾両虚は気血両虚とも言われるので、概念だけで考えれば、気は陽であり、血は陰でもあるので、陰陽両虚の状態とも言えます。陰陽両虚はかなりの高齢になると発生をしやすいものですが、生命力の極度の減退と言えます。

 

5.まとめ

 臓腑の相互関係ということで、心・脾・腎の相互関係についてまとめていきましたが、相互関係を深く理解していくためには、各臓腑の生理機能を理解し、どうやって関わっていくのかを理解していくことが大切になります。

 

 相互関係を理解していくためには、気血津液精または陰陽という物質で考えていくと、相互の関係を理解しやすいかもしれないですね。こういった相互関係を理解していくと、心・腎がともに問題ではないかと疑ったときに、脾も治療で使ってみようと考えることが出来るでしょうし、初診で使わなくても症状の変化が出なくなったときに使ってみようと考えることができますね。

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