鍼灸治療では鍼を身体に刺していきますが、治療効果を出すためにも、痛くない治療をするためにも鍼の刺し方は大切になります。
鍼を刺すためには、取穴をして、押手を構えて、切皮、刺入の4つのパートを意識して行っていくことが大切になるので、今回は、4つのパートに分けて具体的にまとめてみたいと思います。
1.取穴
①取穴の仕方
鍼を刺すには取穴をしなければいけないので、何よりも取穴が基本になります。取穴は骨度から導き出すことが大切なのですが、反応も確認をした方がいいです。反応は、陥凹、硬結、寒熱などが言われていくと思いますが、陥凹は注意が必要です。
陥凹部だと思ったら静脈の凹みの場合があるので、指先だけで確認するだけではなく、目視もしておくことが内出血と痛みのリスクが減ることになるので、取穴をする前後に目視した方がいいですね。
皮膚の状態としては、周囲よりも若干柔らかいところの方が痛みは少なく切皮しやすいので、陥凹だけではなく、皮膚の硬さの反応をしっかり診ておく方がいいですよ。
②刺入方向の確認
取穴をしたときにもう一点確認しておいた方がいいのは、刺入方向になります。深く刺入する訳ではないときでも、取穴をした点からどの方向に刺入をしていくのかを決定しておく方がいいです。
取穴をした場所に指を1本置いた状態で、揉捏をしていくでしょうが、その時に、指先を支点にして垂直の圧から、段々と大きな円の状態にしていって、どの方向が一番柔らかくて刺入をしやすいのかを確認しておくと、切皮した後の刺入方向を決めていくことができます。
深く刺入する訳ではなくても、鍼先が陥凹に向かっていく方が、効果があると感じているので、私は、取穴をするときに刺入方向も決定していきます。
2.押手
押手は鍼を刺すときに助けてくれる役割があるので、鍼を刺入するのに慣れたら押手を意識するようにした方がいいです。鍼に慣れていないうちは、刺手ばかりに気を取られてしまい、押手のことが忘れがちになってしまうので、初心者から初級程度になったときから押手を強く意識するようにした方がいいと思いますよ。
取穴をして、指先を離してしまったら、せっかく場所と方向を決定したのに、分からなくなってしまうので、取穴をした指はそのままにして押手を構えてしまうのがいいですね。
押手を構えたときに、取穴をした場所とずれてしまわないように注意をしないといけないのですが、慣れていないうちは、ずれやすいので、特に注意をした方がいいです。
押手は、圧迫という意味もあるのですが、皮膚を周囲に牽引する力が大切になってくるので、皮膚を張るようにしっかりと母指・次指を意識した方がいいです。母指・次指を意識すると指先に力が入ってしまい、小指が立ってしまったり、小指側が上がったりしてしまうことがあるので、押手全体がしっかりと皮膚に密着をしているかどうかを確認します。
3.切皮
切皮をする段階で注意をしないといけないのは、鍼管と切皮のスピードになるので、2点に分けて説明していきます。
①鍼管の圧迫
過去のブログの中でも何度か書いていますが、鍼管は真っ直ぐに圧迫をしないと、押手でせっかく皮膚を牽引しているのを有効活用できないので、鍼管を真っ直ぐに圧迫できるようになっておくことが大切です。
鍼管を真っ直ぐに圧迫することができると、鍼管の中でも皮膚の牽引が行われるので、押手の牽引と鍼管の牽引が合わさることによって、皮膚をピンと張った状態にすることができ、圧もかかっているので切皮痛を軽減しやすくなります。
②切皮のスピード
切皮のスピードは早ければいい訳ではなく、ゆっくりでも生体の反応に合わせていくと痛みなく刺入することができます。まずは基本となるスピードが早い方で説明していきます。
皮膚を牽引した状態から切皮をするのは風船を割るような物なので、一瞬で入らないと痛みが生じやすいので、スピードを付けて切皮する必要があります。複数回に分けて切皮をする方がいいと言われていきますが、複数回だと圧のコントロールが出来ていないとバラバラになりやすいので、2回で切皮を終わらせる程度の意識の方がいいと思います。
一番、痛みが生じやすいところは1回で切り、2回目は皮下まで到達するので、1回目と2回目では少し違いがあると思った方がいいのではないかと思います。
私は太い鍼だとほぼ1回で切皮を終わらせるようにしていて、鍼が細くなればなるほど切皮の回数を増やすことが多いです。細い鍼は強い力を加えても、肌の弾力に負けてしまうので、余計な力になりやすいので、細い鍼・銀鍼の場合は、3~5回程度で切皮をすることが多いです。
ステンレスの鍼は硬いので力を加えれば鍼が曲がることが少なく、鍼先に力が集中できるので、材質が硬いのであれば叩く回数は減らせると思っています。
切皮でスピードを使わない場合は、鍼管を使わないときに多いのですが、鍼管を使用しているときでも行うことができます。先ほど、風船の話をしましたが、風船に鍼を当ててもすぐに割れるのではなく、段々と風船を沈ませることで風船が戻ってくる力によって鍼が中に入るようにするのがスピードを使わない切皮の仕方です。
スピードを使わない切皮は皮膚の弾力を使用して切皮をしてくので、鍼先で肌の弾力を理解出来るようにならないと身につけにくいので、まずは鍼管を使用してスピードを付けた切皮が出来るようになった方がいいと思います。
4.刺入
刺入していくときも注意するべきポイントがあるので、項目ごとに分けていきます。
①鍼管を外す
鍼管を外すときは、押手の圧が抜けやすいですし、せっかく鍼が痛みなく刺入できる方向にあったとしても、圧が抜けてしまうことで、痛みが発生をしやすいので、鍼管を外すときには、押手の圧が抜けないように注意をしていく必要があります。
ポイントとしては、押手を離してしまうのではなく、鍼管を挟んでいる圧だけを弱めて鍼管を引きぬく方がいいですね。
②刺手を構える
鍼を刺入していく手を構えたときに、手がずれてしまわないように、しっかりと最初の段階で固定をした方がいいです。刺手の使い方はいろいろあるのかもしれませんが、手がぶれてしまうことで鍼に真っ直ぐ力が加わらないと刺入することも難しいですし、目的の方向に刺入できないので、安定して真っ直ぐに押せていることが大切になります。
③鍼先の抵抗感を感じる
鍼を刺入していくと鍼先に抵抗を感じることがあるので、鍼先の抵抗感を意識していくことが大切になります。硬さが強いところだと響きや痛みが発生をしやすいので、抵抗感が増えてきたら刺入スピードを遅くしていくことが必要です。
刺入スピードはその人の技術にも関係していくので、刺入スキルが上がったとしたら、持てる力の6割程度のスピードで刺入し、硬結が出てきたら3割程度にしていくといいと思います。
例えば、車でもレーサーであればスピードを出すこともできるでしょうが、慣れていない人、一般の人ではスピードを抑えた方が事故を起こす可能性が低くなるのと同じ理由です。安全第一なので、まずは自分の刺入スキルで対応をしていくことが大切なので、自分の力量を知らないといけないですね。
④刺手と押手
刺手と押手は協調して働くことで鍼を刺入していくことができるので、やろうと思えば、刺しでは動かさずに押手で刺入をしていくことができます。このやり方は水平刺で使うことができますね。長い鍼でも刺手と押手は交互に使っていくことが出来るのですが、2つをどう使っていくのかを考えていかないといけないです。
2つあれば陰陽論で考えていくことができるので、刺手と押手は動と静で考えていかないといけないですね。刺手を動かしているときは押手を静にし、刺手を静にしているときには押手を動にすることができます。
水平刺ではこういった変化を使っていくことが多いですが、基本となる直刺の場合だと、動静は一定になるので、一定にさせておけるように姿勢を決めておいた方がいいですね。
5.まとめ
鍼を刺すというのは非常に簡単な動作のように見えるのですが、気を付けるポイントは沢山あります。もちろん、ここに載せている方法で全部ではないでしょうし、人によっても注意するポイントは違うと思います。
ポイントは自分の苦手なところ、得意なところによっても変わってくるので、ここにあげたポイントのどこが自分のポイントになるのか考えて頂いてもいいと思います。