腹部症状と三陰三陽

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 東洋医学を用いて治療を行う場合は弁証を立てて行っていきますが、現代医学でも検査と推測を重ねて最適な治療法を考えるように、東洋医学でも推測を重ねていくことで最適な治療にたどり着くようにしていく必要があります。

 東洋医学、特に鍼灸治療では治療者によって治療方法が違いますが、治療効果が同じになることがあります。例えば、肩こりの治療でも脈診を使って浅い鍼を使用する人がいるでしょうし、局所の治療で行っている人もいるので、治療の形に正解はないです。

 

 正解がないのでどうやっていいのか悩む人が多いと思いますが、自分でしっかりと考えて治療方針と治療部位を決定していかないといけないです。考えていく方法としては古典文献などをパラパラみていくのもいいですよ。

 

 最近、私が気になったのは、『霊枢』の九鍼十二原の以下の文章ですね。

『霊枢』九鍼十二原

脹取三陽、飱泄取三陰

 

 本来は前後の文を読んで内容として理解する必要があるのでしょうけど、ふと読んでいたときに、そういえば、腹部症状に対して三陰三陽を分けていないなと気づきました。文章では脹のときには三陽を使い、飱泄(そんせつ)のときには三陰を使うとあります。

 

 脹はお腹が張るということなので、腹部膨満感、腹部不快感が発生をしているときと関係をしやすいですし、飱泄は未消化便なので、軟便、下痢に近いですね。

 

 三陰三陽は経絡で分類していくときに使用する名前ですが、臓腑と関係するもので、三陰は臓、三陽は腑になります。

 

 臓腑の基本概念は蔵象という項目で出てくるのですが、臓は実質器官であり、精気を貯蔵し、腑は中空器官であり、受盛と伝化に関係をすると言われていきます。臓は虚しやすく、実になりにくい傾向があり、腑は実になりやすく、虚しやすい傾向があります。

 

 この臓腑の考え方を腹部の状態と合わせて考えていくと、飲食物である水穀の精微を受け入れるのが腑であり、消化吸収していく働きは臓になります。

 

 腑の働きが悪いときは受け入れる力が弱くなるので、少しの量でも実になってしまい、伝化の働きが低下をしてしまうと、飲食物がつまってしまうことになるので、実になってしまいます。

 

 腑の実の状態を考えたときに、身体の感覚としては脹の感じになってもおかしくないので、三陽は腹部膨満感である脹と関係するのだろうと思います。

 

 臓の働きが悪い時は消化吸収する力が弱くなるので、飲食物を摂取しても消化吸収することができなくなってしまうので、飲食物は形を完全に変えることができないので、排泄をされてしまいます。虚実で考えたときに実であれば飲食物をなくしてしまうぐらいの力になってしまうでしょうから、飲食物を消化吸収できないのは、虚の状態と考えていくことができます。

 

 臓の虚の状態を考えると、飲食物の形を変えて排泄できないので、一般的には未消化便の状態になるので、三陰は未消化便である飱泄と関係するのだろうと思います。

 

 ここでの三陰三陽の使い方は、消化器官についての話ですが、他の内科的な症状の場合でも臓腑の基本概念を理解していくと、三陰三陽のどちらで治療をするのかを考えることができるなと思います。

 

 三陰三陽から治療を選択するのであれば具体的な経絡・経穴が出てこないといけないのですが、足の三陰三陽で考えていけば、三陰が交わる交会穴(こうえけつ)は三陰交ですし、三陽が交わる交会穴(こうえけつ)は懸鐘なので、ほぼ同じ高さのツボで症状によって治療を分けることができますね。

 

 消化器系の症状で懸鐘を使ったことがなかったのですが、今後は腹部膨満感に対して足三里などの胃経の経穴だけではなく、懸鐘も取り入れてみようと思っているところです。 

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