胃の病証

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 胃は他の腑と比べて生理的な働きが多いので、生理的な働きが低下をした病証も多くあります。腹痛、食欲不振、消化不良、悪心、嘔吐、便秘などは胃の働きの低下と関係をしやすいのですが、脾の病証と似てくる物があるので混乱しやすいと思います。

1.胃の受納低下

 胃の受納が低下をすると生じるのが食欲不振になります。胃の受納は、飲食物を受け入れる働きです。飲食物を受け入れる受納が低下をしてしまうと、食べた物をいれることが出来ないので食欲が低下をしてしまいます。

 

 受納の働きは倉庫の広さみたいな物なので、受納の働きが低下をしているということは、倉庫の広さがない状態とも言えます。胃は腑なので、中空器官であり、入った物を受動的に受け入れるものなので、広がる力が大切とも言えます。広がる方に力が必要になってくるので、陽気が強いと表現することもできますね。

 

 受納が低下をしているときは、胃という袋が閉じてしまっているので、受納が広がらない限りは、食欲が出てこないことになります。

 

2.胃の腐熟低下

 胃の腐熟が低下をすると生じるのが食滞(しょくたい)になります。受納の働きが正常なので食欲があり、入れることができるのですが、腐熟という消化することができないので、下に降ろすことができない状態になるので、飲食物が停滞をしてしまいます。

 

 受納の働きで倉庫の話をしましたが、腐熟は倉庫内の荷物を分類・整理することに近いです。脾の運化が消化・吸収をして各臓腑に配布をしていきますが、分類・整理されていないと運化することも出来ないので、腐熟の働きは飲食物から気血津液精を生成するのに重要になります。

 

 肝の働きでは脾胃に関わるという部分がありますが、脾の運化・胃の腐熟と大きく関係をしているのではないかと思います。運化・腐熟をすることができなければ、食滞となり、食滞が酷くなれば、未整理な状態になるので、未消化便の状態として対外に排泄されていきます。

 

3.胃の通降低下

 胃の通降が低下をすると生じるのが、悪心、嘔吐、愛気(あいき:げっぷ)、吃逆(きつぎゃく:しゃっくり)、便秘になります。通降は身体の中に入ってきた飲食物を排泄するところまで送っていく働きがあるので、正常な状態では、入ってきたものを下ろし、消化し、排泄まで送ることになります。

 

 通過をさせる力になるので、身体の中の門を開く働きがあると言えますし、通降の働きが低下をすると、上に昇っていくことになるので、逆流の働きになってしまいます。この状態のことを気逆証である胃気上逆というので、胃の病証となると、胃の通降が低下をした状態を指すことが多いと思います。

 

 胃と門の関係は『難経』の四十四難に書かれています。

四十四難曰、七衝門何在

然、脣爲飛門、歯爲戸門、會厭爲吸門

胃爲賁門、太倉下口爲幽門

大腸小腸會爲闌門、下極爲魄門

故曰七衝門也

 

4.胃と脾の関係

 胃は脾と協調して働くことで飲食物を消化し輸送する働きになってくるのですが、ともに中焦の存在をしていて、胃は降、脾は昇の関係があるので上下のバランスを取っていることにもなります。

 

 この上下のバランスは消化器官と関係をしやすいので、胃の降が低下をすると、脾の昇が中焦で強くなるので、胃気上逆と言われる症状が発生しやすくなります。脾の昇が低下をすると、胃の降が中焦で強くなるので、昇ること、位置を安定させることができないので、下にどんどんと落ちてしまう軟便や下痢が生じることになります。

 

5.脾胃と肝胆の関係

 肝の働きである疏泄は脾胃の働きを補助することになるのですが、具体的には胆汁を脾胃に送ることで助けていることになります。胆汁は倉庫の働きで言えば、台車やベルトコンベアーみたいなものとして理解をすると飲食物を整理し、運ぶ働きを助けることができます。

 

 肝胆の働きが低下をしてしまうと、脾胃にも問題が生じてしまうので、肝の問題から脾胃に病変が発生しているようであれば、肝胃不和・肝脾不和を発生させてしまうことになります。

 

6.まとめ

 胃の働きである受納と腐熟は脾の働きである運化とも関係をしやすいですし、具体的に何が違うのかというと、人によって意見が分かれるのではないかと思います。

 

 意見が分かれる理由としては、そこまで細かい働きの鑑別と言う話が少ないので、人によって理解している内容が違うのではないかと思います。私は、このブログで書いたような考え方をしているのですが、数年したら少し変わっていくのかもしれないと思っています。

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