禁鍼穴(きんしんけつ)と禁灸穴(きんきゅうけつ)

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 経穴の中には、禁鍼穴・禁灸穴と呼ばれるものがあり、鍼をしていけないところ、灸をしてはいけないところと言われていて、文献によって違いがありますが、何故、禁鍼穴・禁灸穴があるのでしょうか。

1.禁鍼穴と禁灸穴

 禁鍼穴と禁灸穴で有名なのは、楊継洲(1522~1620)によって書かれた、『鍼灸大成』では、禁鍼穴・禁灸穴についての記載があります。

 

禁鍼穴歌

脳戸顖會及神庭、玉枕絡却到承靈、顱息角孫承泣穴、神道霊台膻中明

水分神闕会陰上、横骨氣衝鍼莫行、箕門承筋手五里、三陽絡穴到青靈

孕婦不宜鍼合谷、三陰交内亦通論、石門針灸應須忌、女子終身孕不威

外有雲門并鳩尾、欠盆主客深暈生、肩井深時亦暈倒、急補三里人還平

刺中五臟膽皆死、衝陽血出投幽冥、海泉顴髎乳頭上、脊間中髓傴僂形

手魚腹陷陰股内、膝臏筋會及腎経、腋股之下各三寸、目眶関節皆通評

 

禁灸穴歌

瘂門風府天柱擎、承光臨泣頭維平、絲竹攢竹睛明穴、素髎禾髎迎香程

顴髎下關人迎去、天牖天府到周栄、淵液乳中鳩尾下、腹哀臂後尋肩貞

陽池中衝少商穴、魚際経渠一順行、地五陽関脊中主、隱白漏谷通陰陵

條口犢鼻上陰市、伏兔髀關申脈迎、委中殷門承扶上、白環心兪同一経

灸而勿鍼鍼勿灸、鍼経火此當叮嚀、庸醫針灸一齊用、徒使患者炮烙刑

 

 漢文なので読みにくいですね。簡潔にすると、以下のようになります。

 

禁鍼穴

脳戸、顖会、神庭、絡却、玉枕、角孫、顱息、承泣、承霊、神道、霊台、膻中、水分、神闕、会陰、横骨、気衝、手五里、箕門、承筋、青霊、乳中、三陽絡、合谷、三陰交、石門、雲門、鳩尾、缺盆、客主人、肩井

 

禁灸穴

瘂門、風府、天柱、承光、臨泣、頭維、絲竹空、攅竹、睛明、素髎、禾髎、迎香、顴髎、下関、人迎、天髎、天府、周栄、淵腋、乳中、鳩尾、腹哀、肩貞、陽池、中衝、少商、魚際、経渠、地五会、陽関、脊中、隠白、漏谷、陰陵(泉)、条口、犢鼻、上陰市、伏兎、髀関、申脈、委中、殷門、承扶、白環兪、心兪

 

 禁鍼穴・禁灸穴は結構ありますよね。確かに、危険性が高そうなところも多く、納得できるところもありますが、普通に使っているところも結構多いなという印象です。

 

2.禁鍼穴・禁灸穴と古典文献

 東洋医学の書籍は過去の時代に書かれた物に書き足していく、整理していくことが多いので、文献を遡っていくと、いつの時代に書かれていたのかを振り返ることができるので、禁鍼穴は王惟一(1022~1067)によって書かれた『銅人腧穴鍼灸図経』で「承筋」が禁鍼という表現が出てきますね。

 

 歴史的な経緯として見ていくと、孫思邈(581~682)によって書かれた『千金要方』(652年)のときは鍼灸についての記載があり、王燾(670~755)によって書かれた『外台秘要』(752年)ではお灸についての話が主になっているので、歴史の中で、鍼があまりよくないという考えをしていたというのが分かりますね。

 

 鍼灸は長い歴史の中で行われているので、否定する考えもあって当然でしょうし、よくない経験が積み重なっていったことで、『銅人腧穴鍼灸図経』では承筋をあげ、その後、さらにデータとして集積された結果が『鍼灸大成』(1601年)なのでしょうかね。

 

3.禁鍼穴・禁灸穴の禁とは?

 漢字で書かれているということは意味があるはずなので、「禁」は「やめされる、とどめる」という意味があるのが一般的ですが、もう少し意味を掘り下げていくと、「禁苑・禁門」などの単語があり、特別な人以外は出入りを出来ない場所として、宮中という意味があります。

 

 禁鍼穴・禁灸穴を「禁」の漢字の意味から類推すると以下のことが考えられます。

  • 特別な物があるので禁止
  • 特別な物があるので厳重に注意

 

 どちらのことを意味するにしても、とにかく注意が必要なところだというのは分るので、危険だという情報が集まったところを禁鍼・禁灸穴にしていったのでしょうね。

 

4.禁鍼穴・禁灸穴とは

 「禁」という意味を含めて考えていくと、非常に重要な場所で注意が必要として、注意を喚起しているのでしょうが、現在で考えれば、普通に使用する経穴もあるので、何故、禁鍼穴・禁灸穴があるのでしょうか。

 

 理由が明記されていない物もありますが、欠盆や肩井では明確に理由も含まれているのもあります。

 

欠盆主客深暈生、肩井深時亦暈倒

 

 欠盆・肩井に深く鍼をすると、「暈」とあるので、めまいが生じるという意味でしょうから、脳貧血を生じるのが多かったのでしょうね。今でも、座位で肩上部の肩井を行うと脳貧血を起こすことがあるし、気胸を起こすこともあるので、理由も含めて書いてあるのはいいですね。

 

 こういった書籍は教育のためにあるという前提で考えると、どういう人に対してはこの穴はダメという言い方だと難しいので、まとめて表現として入れたのではないでしょうか。教育や指導という点を考えてみると、いろいろなパターンを教えて身につけるのは大変なので、まずは禁止ということで身に付けておいて、経験や知識がついてきたら、使用することも考えていったのではないでしょうか。

 

5.まとめ

 禁鍼穴も禁灸穴も昔の人達が積み重ねて書き残している物だし、現代医学的に考えても危険なところもあるので、禁鍼・禁灸穴に限らず、鍼灸を行う時には、問題がないのかと考えていくことが大切なのではないですかね。

 

 それとも、効果が高いから、秘密の場所にするために禁止にしたのですかね。と思うところもありますが、東洋医学は昔から今という歴史で分かっていることを積み重ねているので、禁鍼・禁灸穴は、構造的に危険なところに注意をするという現代の知識を利用しながら、参考にしてみるのがいいのかもしれないですね。

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