経早(けいそう)―月経異常と東洋医学

Pocket

 東洋医学では、月経周期が7日以上早まってしまった場合は月経異常である経早として考えていきます。

 経早が酷くなると月に2回月経がくることもあるので、何かの病気ではないかと不安に感じる人も多いと思います。病院に行っても、何もなかったとすると余計に不安に感じることがあるのではないかと思いますが、こういった場合は東洋医学で考えてみるのもいいと思います。

 

1.月経と東洋医学

 東洋医学で考える月経は、臓腑の働きによって気血が運行することで生じると考えています。『素問』の上古天真論では、女性は14歳にして天癸(てんき)が生じて月経がはじまり、子どもを作ること出来ると言われています。

『素問』上古天真論

二七、而天癸至、任脈通、太衝脈盛、月事以時下、故有子。

 

 天癸は精と関係しているので、腎と脾の働きが重要であり、肝によって月経調節が行われると考えていくのが東洋医学で考える月経になります。月経のメカニズムに関しては、過去のブログにも書いているので参考にしてみて下さい。

「月経のメカニズム―東洋医学で考える月経」

 

2.経早を生じる原因

 月経周期が早くなるということは、臓腑の働きで考えていくときには、血を貯めておく力が低下をしてしまったと考えることができるので、脾の統血が低下をしてしまったときに経早が生じると言えます。

 

 血は脈内・胞宮に存在しているので、脈内・胞宮から血が漏れないようにするのが脾の統血の働きになり、統血が低下をしてしまった場合は、脾不摂血(ひふせっけつ)と呼ばれることになります。状態としては、脾気の低下になるので、脾気虚と関係をしています。

 

 経早は月経周期が早まってしまうことになるので、血の運行を考えていくと、統血が正常であっても、血熱という血の運行が加速をしてしまった状態では、出血してしまうと考えていくことになります。

 

 例えば、川は堤防があって水が外に出ないようにしていますが、堤防の働きは脾の統血で、水の流れが多くなり加速してしまった場合は、血熱として考えていくことになります。

 

 血熱によって血の流れが加速をしていくのは、水が沸騰をすることで、ブクブクと泡が出て、吹きこぼれてしまうイメージになります。体内に存在している物なので、水が沸騰するような温度まで上がる訳ではありませんが、水に熱が加わると、吹きこぼれてしまうのが東洋医学の身体イメージになります。

 

3.経早と弁証

1)気虚による経早

 脾の統血が低下すると、血を貯めておく力が無くなってしまうために、胞宮に血を貯められずに、不正性器出血と言われる崩漏(ほうろう)が生じることがあり、月経時には肝の疏泄によって、胞宮から血を外へ排出する力も加わるので、月経血量が多くなる傾向にあります。

 

 書籍によっては、脾気虚と書かずに、気虚とだけ書かれていることがありますが、その場合は、気の作用である固摂作用が低下をしているという表現になります。気の固摂作用で代表的になりやすいのは、脾の統血と腎の蔵精になりますが、腎の蔵精が低下をした場合は、遺精(いせい:精が漏れ出てしまう状態)が多いですが、経早は腎の固摂が低下をしてしまった状態と考えていくことが出来ます。

 

 気の不足と関係をしやすいので、飲食の摂取不足、疲労、過労、加齢があると、身体の力である気が不足をしてしまうので、原因は様々です。

 

2)血熱による経早

 血熱は何かの原因により身体に熱が停滞をしてしまい、熱が血に移行をしたことで生じるので、熱が発生する原因が何かによって弁証名が分かれてくるので、弁証名に分けて説明を加えていきます。

 

①血熱による経早

 血熱による経早で詳細に説明なのに、血熱による経早では説明になっていないですが、詳細の意味としては、外邪や飲食の問題によって生じた場合になります。外邪の中で熱邪が身体に影響をすると、血の流れが加速をする血熱の状態になることとがあるので、環境の影響によって血熱になってしまった状態と言えます。

 

 飲食による問題は熱性がある物を摂取すると熱が体内に蓄積をすることになるので、胃熱や胃湿熱と表現できるかもしれませんが、書籍だと単純に血熱として、外邪とまとめて説明している物も多いですね。

 

②肝火上炎による経早

 疏泄の働きが失調すると、気滞となり、気滞が長期化すると熱化した状態である肝火上炎に移行をしやすくなります。疏泄の働きは月経調節と関係をしていますし、熱は血熱に移行をしやすくなるので、肝火になると経早が生じやすくなると考えられます。

 

 情志の抑うつという感情が抑圧された状態は、疏泄の働きを失調させやすいので、ストレスが原因となって発生することがあると言えます。

 

③陰虚による経早

 身体に熱が存在している状態を考えるときには、虚熱か実熱かを考えていくのが重要なのですが、①の血熱、②の肝火は実熱と関係をしています。陰虚は虚という感じが含まれているので、虚熱になります。

 

 虚熱は冷やす働きである陰気の不足によって、陽気が多い状態になってしまっているので、熱が身体の中で悪さをしてしまう状態になります。

 

 陰虚の発生しやすい原因は、気虚と同じように疲労、過労、加齢によって発生をしていきやすいので、原因だけでは気虚と鑑別をするのが難しいことがあるので、陰虚の症状が発生しているかどうかが鑑別のポイントになります。または陰虚は血虚から生じることがあるので、経過を尋ねていくと血虚症状が過去にある場合があるので、そのときは陰虚と考えていくことが出来ます。

 

4.経早の治療

 経早の治療を行っていくためには、まずは体質をしっかり見定める必要があるので、弁証を分けることで、原因・身体の状態を把握していきます。弁証が決定で来たということは、身体の状態を見きわめることが出来たということなので、弁証が決定するまでが大切になりますね。

 

 とは言っても弁証を決定していくのが大変だというのであれば、五臓の考え方を使っていくだけでも簡便な治療を行うことは出来ます。

 

 例えば、身体が弱そうという虚のようだなと判断したのであれば、脾・腎を用いていけば大きく外れるということがないので、経早とあれば、脾腎を中心に治療を加えていくのもありだと思います。

 

 熱があるかどうかの鑑別は出来た方がいいので、舌質紅、舌苔薄黄、脈浮数があるようであれば、熱は心に移行をしやすいので、心を使って治療をしていくのもありだと思います。心経・心包経ではどこの経穴がいいかと言えば、滎穴は身熱を取る働きがあるので、効果がありそうだと考えていくことが出来ますが、手掌の経穴になるので、治療として用いていくのに躊躇することもあるでしょうね。

 

 手掌部は鍼管をまっすぐに立てしっかりと圧を加えた上で切皮をすれば痛みを感じにくいので、鍼を切皮・刺入できる技術はあるといいと思いますよ。

 

 飲食の問題や環境の問題として考えたのであれば、単純な血熱に対する治療になるので、飲食であれば胃、環境であれば肺と使い分けていくだけでも弁証に対する治療に合っていきます。

 

 気虚によって生じたのであれば、気を増やす必要があるので、気の生成を行う脾胃の働きを強めていくのがいいでしょうし、肝火であれば肝、陰虚であれば陰陽の根本である腎を用いていくと決めておくと、治療はスムーズになるのではないかと思います。

 

5.まとめ

 経早と弁証、治療についてまとめてみましたが、月経異常には、経遅(けいち)・経乱(けいらん)もあるので、また書いてみたいと思います。肩こり、腰痛で治療をしている方でも問診で月経状態を尋ねていくと、月経にトラブルを抱えていることもあるので、体質の治療を行うと、肩こり・腰痛が軽減することもあります。

Pocket