上古天真論に対する疑問

Pocket

 東洋医学の勉強や紹介をするときに使用されやすいのが『素問』の上古天真論だと思いますが、改めて見てみて疑問が生じました。

1.上古天真論とは

 『素問』の最初であり、簡潔に言ってしまえば、「昔の人は身体や自然などを考えながら生活していたので素晴らしかった」という話しにもなるので、一言で言えば、「昔はよかった」というところでしょうか。

 

 『素問』が書かれた時代は、はっきりと分かっていませんが、前漢の前の時代ではないかと考えられているので、前漢だとしても今からだと約2220年前ですね。現存する『素問』は762年に王冰(おうひょう)によって編纂されているので、王冰の時代だとしても1250年前になります。

 

 これよりはるか前の時代ということを考えると、情報は残っていないので、本当かどうかは分からないですね。中国の歴史を見ていくと、王朝が成立する以前は、神話の時代と考えられていて、神が住んでいたという話しになるので、上古天真論は神様の話しと言えるでしょうね。

 

 そう考えると上古天真論は「神様の生き方を知る」という内容に変わります。東洋医学の原点である書籍なので、「昔はよかった」よりは「神様の生き方を知る」の方が断然いいですね。

 

2.上古天真論の内容

 原文はネットでも沢山見ることができるので、そちらを参考にしてもらえばいいのですが、具体的にどのような内容が書いてあるのかをまとめてみます。上古天真論は最初に導入の文章があり、古代と現代人の違い、男女の成長の違い、まとめという感じですかね。

 

 詳細に見ていけばいろいろな違いがあるのですが、導入とまとめは、古代と現代人の違いの内容に近いです。

 

 古代の人は身体、陰陽、六気などの自然をよく知っていたので、自然に合わせた生活をし、心を落ち着け、飲食や生活を楽しみながら無理なことをしなかったので、身体が丈夫なまま長生きをしていた。けど、現代の人(その当時の人)は、自然のこと、自分のことを考えない生活なので、不健康になっているというのが古代と現代人の違いですね。

 

 男女の成長の違いは、男性は8歳ごと、女性は7歳ごとに身体が変化をしていくという内容で、2倍である男性は16歳、女性は14歳で天癸という物質が生じるので、生殖機能が働くことができ、4倍である男性は32歳、女性は28歳から身体が低下をしてくるという内容です。

 

 男女の成長の違いの文章に関しては、いろいろなところで利用されていますし、東洋医学の考え方としてどこかで聞いたことがある内容なのではないでしょうか。詳細な内容に関しては以下に原文を載せておきます。

 

岐伯曰。

女子七歳、腎気盛、歯更髮長。

二七、而天癸至、任脈通、太衝脈盛、月事以時下、故有子。

三七、腎気平均、故真牙生而長極。

四七、筋骨堅、髮長極、身體盛壮。

五七、陽明脈衰、面始焦、髮始墮。

六七、三陽脈衰於上、面皆焦、髮始白。

七七、任脈虚、太衝脈衰少、天癸竭、

地道不通、故形壞而無子也。

 

丈夫八歳、腎気実、髮長歯更。

二八、腎気盛、天癸至、精気溢寫、陰陽和、

故能有子。

三八、腎気平均、筋骨勁強、故真牙生而長極。

四八、筋骨隆盛、肌肉滿壮。

五八、腎気衰、髮墮歯槁。

六八、陽気衰竭於上、面焦、髮鬢頒白。

七八、肝気衰、筋不能動、天癸竭、精少、

腎藏衰、形體皆極。

八八、則歯髮去。

 

腎者主水、受五藏六府之精而藏之、

故五藏盛、乃能寫。

今五藏皆衰、筋骨解墮、天癸盡矣。

故髮鬢白、身體重、行歩不正、而無子耳。

 

3.上古天真論に対する疑問

 上古天真論は、上古と現代人の違いに関しては、自然や身体を知ることが大切ということで、東洋医学の考え方を理解するために必要なことだと思っています。

 

 男女の成長の違いに関しては、男性は成長が遅く、女性は成長が早いというのは理解できるし、2倍程度で生殖機能が発達するのも理解できます。身体の低下に関しても4倍程度の年数から低下してくるというのは、患者さんからもよく聞く話しなのでそんなものだろうなと思うので、理解できますね。

 

 8倍になると子どもを作ることが出来なくなるという話しですが、女性は49歳になるので閉経期と関係をしていますが、男性は64歳なので、まだ生殖能力はあると思うのですが、「無子」と子どもが出来ないとなっているのですよね。

 

 その当時の飲食や生活環境もあるので、その当時はそうだったのかなという疑問があります。

 

 もう1点は、成長は女性の方が早く、男性の方が遅いというのはよく分かるのですが、老化していくことに関しての言及も少しあるのですが、男性の方が寿命は短いところはどうやって考えるのかなという疑問です。

 

 文章では、「人は年を取ると子どもを作れなくなるのはどれぐらいの年齢なのか?」という質問に対して、「それぞれ2倍で子どもを作れるようになり、女性49歳、男性64歳で作れなくなる」という回答なので、高齢で弱くなったり、亡くなったりするという話しではないので、答えがないですね。

 

 もちろん、質問内容に対する答えなので、その先の内容に対する言及がないのは当然なのですが、上古天真論の内容だと倍数で身体が代わり、女性の方が早く成長するという説からすると、女性の方が早く老化し亡くなると考えられてしまいます。

 

4.まとめ

 今回は、上古天真論で感じた疑問についてまとめてみましたが、今後の研究テーマとして、「東洋医学で考える加齢と年齢」を頭の片隅に置いておこうと思いました。ただ、どこかに答えが明確に書いてあるのかもしれないので、古典文献含め、資料を気を付けて見ていかないといけないと思いました。

Pocket