桂枝加勺薬湯(けいしかしゃくやくとう)

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 桂枝加勺薬湯は、風邪のひきはじめに利用されやすい解表薬である桂枝湯の勺薬を倍加した処方で、腹部疾患に対して用いられやすいので、過敏性腸症候群に対しても利用されている漢方薬です。

 漢方は副作用もあるので、服用される場合は、ここでの記載だけを信じるのではなく、医師や薬剤師に相談の上で決めるようにしてください。

 

1.桂枝湯との違い

 桂枝湯は、風邪の初期で、頭痛がしてゾクゾクしているような人が対象ですが、自汗や体力の低下がある場合に用いられる漢方薬です。自汗や体力の低下がない場合は、葛根湯が用いられます。

 

 桂枝湯葛根湯、桂枝加勺薬湯は処方構成が非常に似ています。

  • 桂枝湯:桂枝、勺薬、甘草、生姜、大棗
  • 葛根湯:葛根、大棗、麻黄、甘草、桂枝、勺薬、生姜
  • 桂枝加勺薬湯:桂枝、勺薬、甘草、生姜、大棗

 

 桂枝湯と桂枝加勺薬湯の生薬構成は同じですが、勺薬の量が違います。葛根湯は、桂枝湯に葛根と麻黄を足した物と言えますが、葛根湯からしたら、葛根と麻黄を除いた物と言えますね。桂枝湯に葛根を加えた物は桂枝加葛根湯になります。

 

 微妙な違いで名前が変わるので、紛らわしいですが、慣れてくれば名前が付いているので分かりやすいと感じるのでしょうね。私はまだまだ勉強中なので同じような名前があると違いを理解するのに時間がかかってしまいますね。

 

 含まれている生薬の状況が違うので、身体に与える働きも違うと考えられるので、桂枝湯では風邪のひき始めになりますが、桂枝加勺薬湯では、風邪以外の症状に対して利用されることが多いようですね。

 

2.桂枝加勺薬湯

 桂枝加勺薬湯は腹痛・便秘・下痢になりやすい人で、どちらかというと下痢に対して利用されやすいという表記になっていますが、大横(だいおう)を含まないために、高齢者や妊娠中の便秘にも利用されているようです。

 

 大横は、腸を刺激する働きが強いので、高齢者や妊婦に利用すると、腹痛を生じてしまったりするので、出来るだけ含まれていない方がいいとされています。

 

 桂枝加勺薬湯に含まれている、桂枝は外邪を取り除き、営衛を調和させる働きがあります。営衛は、身体の外側と内側のバランスと言えます。勺薬は血の不足に対して利用されやすい生薬で、身体の中を整えると考えられます。甘草・生姜・大棗は脾胃を整える働きがあるので、お腹の調子をよくすると考えられます。

 

 もともと桂枝加勺薬湯は、傷寒の病に用いられている漢方薬の一つであり、病能としては、外邪のとくに寒邪が身体の外から影響して、内側まで侵入してしまった状態を治すためにあります。

 

 より細かくみていくと、外の環境と身体の働きを考慮するのが東洋医学の考え方になるので、外の冷えの影響と体力の低下が合わさった人に用いる物とも言えますね。

 

 より専門的な内容として臓腑経絡で考えると、外邪は皮毛から侵入し、皮毛は肺と関わる場所なので、肺の機能に問題が生じ、肺経の働きが阻害されたことで、肺経は胃まで繋がっているので、胃に影響が及んだと言えます。

 

 もともとの体質としては、虚の状態になっているので、外邪を内側から外側へ押し出すだけでは、外邪に侵入されてしまうために、身体の働きを補うのを強くするために、外側を補う桂枝だけではなく、内側を補う働きが強い勺薬を多くしているのでしょうね。

 

3.桂枝加勺薬湯と過敏性腸症候群

 桂枝加勺薬湯は過敏性腸症候群に対しても利用されているようですが、便秘型と便秘・下痢両方ある場合に利用されることがあるようです。体力が低下している場合は小建中湯(しょうけんちゅうとう)・大建中湯(だいけんちゅうとう)が利用されているようですが、腹痛が持続的な場合は小建中湯、腹部軟弱・腸管蠕動運動の亢進では大建中湯を利用する場合があるようです。

 

 大建中湯と小建中湯の違いはこちらのブログを参考にしてみてください。

大建中湯と小建中湯

 

 小建中湯は桂枝湯に膠飴(こうい)と言われる「あめ」(麦芽糖)が含まれるので、胃腸の調子を整えるだけではなく、栄養を補う働きがあります。大建中湯は小建中湯と名前は似ていますが、含まれている生薬は人参・山椒(さんしょう)・乾姜・膠飴になり、内容が変わります。大建中湯の働きとしては、人参・山椒・乾姜・膠飴がお腹を整える働きがあるので、お腹の調子をよくする漢方と考えていくことができます。人参は脾、山椒は胃陰を補い、乾姜が水をさばき、膠飴が栄養を与えると考えていけます。

 

 下痢傾向がある場合は、半夏瀉心湯(へんげしゃしんとう)や人参湯(にんじんとう)、真武湯(しんぶとう)が利用されているようですが、こちらの漢方薬もお腹を整える働きがあるので、過敏性腸症候群は東洋医学ではお腹の調子を整えることになります。

 

 半夏瀉心湯は水の停滞を取り除くということで、下痢傾向の人は、水が多く阻滞しているので、水を積極的に排泄することで、下痢を止めるという考え方になるのでしょうね。人参湯と真武湯も冷えに対するお腹、冷えに対する漢方薬で、水を動かす働きがあるので、半夏瀉心湯と同様の考え方ですが、体力の虚弱がある場合は、人参湯や真武湯を利用するようです。

 

4.桂枝加勺薬湯と産後乳房痛

 桂枝加勺薬湯は産後の乳房痛に利用されることがあるようですが、原因に違いがあっても身体の状態が同じであれば、一つの漢方薬がいろいろな症状に対して利用できます。これは東洋医学独特の考え方になるので、東洋医学を学習していないと理解しにくい物だと思います。

 

 外邪が身体の中に入った場合は、排泄させることでよくすると考えていくのですが、排泄させるのが強ければ、身体の中(陰、陰液)を消耗してしまうことがあります。こういった場合は、過ぎた治療になるので、身体の中を補いながら、外邪を取り除くというのが重要になるので、桂枝加勺薬湯の出番になります。

 

 出産を考えてみると、出産によって血(陰、陰液)が消耗している状態になるので、中が弱く、相対的に外側が強い状態になってしまいやすいために、内が虚、外が実になっているので、「内を補い、外を瀉す」ような働きがある桂枝加勺薬湯を使っていけることができることになります。

 

 授乳時の乳腺炎には葛根湯が利用されることがあるようですが、葛根湯と桂枝加勺薬湯は処方が似ているので、乳腺炎の時にも利用できる可能性はありますね。違いとしては、葛根湯は、温めて取り除く働きが強いので、上実を取るのに優れていると考えらえるので、上実に対しては桂枝加勺薬湯では弱いのかもしれないですね。

 

 乳腺炎という状態が出産によって血が失われて引き起こされたのであれば桂枝加勺薬湯でいいのかもしれませんし、出産後しばらくしてから生じた場合は、血は補われている状態だが、外邪の影響が強い、または気血の停滞によって生じていると考えれば葛根湯でもいいのかもしれないですね。

 

5.まとめ

 漢方は名前もいろいろとあり、理解できるまでに時間がかかるのですが、勉強を始めてみると、東洋医学の考え方を深めることが出来るので楽しいですね。ただ、一つ一つ調べていくと、他にも似たような物があり、違いを理解していかないといけないので、一つを調べるのだけでもかなり時間がかかりますね。

 

 こうやってブログで文章としてまとめるのを続けているのと、自分でも漢方を服用して体感してみて、私はようやく漢方って、こういう物なのかなという入口に立っているような気がします。

 

 量が多いので先は長いですが、東洋医学の勉強は一生なので、またまとめてみたいと思います。

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