甘草湯(かんぞうとう)と炙甘草湯(しゃかんぞうとう)の違い

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 漢方は名前が似ているけど、使う状態が違うし、中身も違うというのがありますが、その一つに甘草湯と炙甘草湯もあります。どちらも甘草湯と入っているので、同じなような気がしますが、炙甘草湯は「炙る(あぶる)という漢字が入っているので、乾燥させるだけではなく炙っていることになります。

1.甘草とリコリス

 甘草はリコリスという名前で古くから利用されていたようで、太古のエジプトで喉の渇きに対して利用されていたようです。『ヒボクラテス全集』に出てきたり、ツタンカーメンの墓から発掘されたりしているようです。

 

 ヨーロッパでは、腹部疾患や呼吸疾患にも利用されていたようです。特有の甘さがあることから、ドリンクにも利用されるようになり、お菓子にも利用されています。現代の先進諸国では甘い物があふれていますが、昔は、甘い物が手に入りにくかったので、リコリスが多く利用され、文化として残ったのでしょうね。

 

2.甘草の成分

 甘草の成分として有名なのは、グリチルリチンとフラボノイド(イソフラボノイド)が含まれています。グリチルリチン(グリチルリチン酸)は、砂糖より強い甘味が強いですが、砂糖よりは遅く甘さを感じ、後まで残るので、砂糖の甘さとは異なります。

 

 グリチルリチンは、消化性潰瘍や去痰薬として作用しますが、アルドステロン様の作用があります。アルドステロンは、副腎皮質から分泌されるホルモンで、ナトリウムの再吸収を促すことによって、水分の再吸収が行われることで、体内の水分量が増えることで血圧上昇に繋がります。

 

 甘草の副作用として、偽アルドステロン症がありますが、血圧上昇や浮腫が発生していきます。漢方薬には副作用がないと思う人がいるかもしれませんが、漢方薬には甘草が含まれることが多いですし、食品などで摂取していることもあるので、全体の服用量には注意が必要になります。

 

3.甘草の東洋医学的な効果

 甘草は、脾を補うことで気を増やし、熱と毒を取り除き、肺を潤して咳を止める作用があると考えられています。鎮痛や抗炎症の働きがあるので、抗アレルギー作用があるとも捉えられています。

 

 十二経に効果があるものなので、身体全体を整える働きがあると言えますし、甘味があるために、全体の味を調整する働きがあるとも言えます。

 

4.甘草湯と炙甘草湯の違い

 甘草湯は、甘草単体で利用される漢方薬で、漢方薬の中では単一で処方する珍しい物になります。甘草湯の使い方は『傷寒論』の中に以下のように書かれています。

 

少陰病、二三日咽痛者、可与甘草湯

 

 甘草湯でよくならない場合は、桔梗湯になりますが、桔梗湯は、甘草湯に桔梗を加えたものなので、桔梗湯は、甘草と桔梗の2つで成立っています。桔梗は、去痰、鎮咳の働きを持つと考えられていて、肺と関わりやすいので、肺の働きを強めることで、肺と関係しやすい喉を整えることになります。

 

 炙甘草湯は、傷寒の病になり、脈が滞ることで、結代脈となり、動悸がしたら服用すると書かれています。『傷寒論』の中には以下のような記載になっています。

 

傷寒脈結代、心動悸、炙甘草湯主之。

 

 炙甘草湯は、炙甘草、人参、生地黄、桂枝、阿膠(あきょう)、麦門冬、麻子仁(ましにん)、生姜、大棗が含まれているので、働きも多く、甘草湯や桔梗湯よりも複雑な病能に使用していると考えられます。

 

 『傷寒論』の記載からも、傷寒という寒邪が身体の中、胸付近に停滞して、脈の動きが悪くなってしまった場合に用いるので、気血の動きを整え、脈の動きを活発にすることになります。

 

 甘草単体だと、喉の痛みに効果があるのに、炙甘草湯になると、身体の中の方で効果を発揮することになりますが、甘草自体も炙ることで働きに変化が出るのでしょうね。

 

 甘草と炙甘草では、炙甘草の方が虚弱な人に用いると考えられているので、身体の働きを補うのが強いと考えることが出来ます。ちなみに、甘草はハチミツとともに焦がしたものになります。

 

5.まとめ

 甘草は漢方薬を調べていればよく見る名前なのですが、炙甘草と比べて考えることがなかったので、今回は、まとめてみました。古典の原文からの使い方が現代にもそのまま応用されているのだなというのが良く分かりました。

 

 家に甘草湯と炙甘草湯があり、喉の痛みだったら炙甘草湯を飲んでも効くかと思って服用したことがありますが、喉の痛みには炙甘草湯ではなく、甘草湯だというのが良く分かりました。

 

 今後は、漢方を服用するときにはしっかり調べてからにしようと思いました。

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